side―???―
うーん? 寝る前までオレは自分の家に居たはず……記憶があるから間違いない。
二日前は学校帰りに本を購入して、昨日は家でぐーたら過ごしていた、うん、ダイジョブ。
意識がはっきりしてる上にやった内容もキッチリ覚えてるから頭の中は正常だ。
何よりもいいたいことは――
「ちゃんと寝た感じがあるのになぜ夜?
昨日は自分の部屋で寝たはずなのに……なにゆえに森の中!?」
現在、オレが居る所は闇が覆う森の中。
子どもがいたら泣き叫ぶような雰囲気が辺りを漂っている。
「フム、オレはいつのまにか夢遊病になっていたのか。医者んとこいかないとなぁ」
変な病気にかかっちまったぜ。
やっかいだが、医者のとこに行って治るもんなのかね。
「とりあえず、熊とかに襲われたら大変だな……ここを抜けないと――」
その場を退くために何処に行けばいいのかと考えていた時、
『ガァァァァァァァァァァァ!!!』
ケモノのような叫びが辺りに響いた。
その叫びは今にもオレを襲いにくると言わんばかりだ。
「っ! シャレにならんぞこのヤロウ!!」
悪態づいて叫びが聞こえた反対方向に逃げるため駆け出す。
「はぁ………はぁ……これだけ…離れ……れば…大丈夫…か?」
数分走ったよな……呼吸が乱れてるぜ……
だが、これだけ走れば多分大丈夫だと思う。
とりあえず一旦休んでから、逃げ道を探すか。
ふぅ、と深呼吸し呼吸を整え、
休むために木にもたれかかろうと近づいていくと……
――オレの目の前に【異形】が現れた。
「はは……夢ならもう覚めて欲しいんだけどな」
だが、この疲れに緊迫した空気は決して夢ではないと感じ取れる。
そして目の前には身の丈は2メートルは超えようかという異形。
オレの体は疲れでいうことを利かない、万事休すか……
考えている内に目の前にいる異形が近づいて来て、
その魔の手がオレを切り裂こうとした瞬間――
――――ヒュン――――
風を切る音と共に異形が10mほど先の木まで吹き飛ばされ、
木に縫い付けられたかのように静止する。
本の少しの間が経つと……
“―――
遠くから聞いたことのある詠唱が耳に入る。
それと同時に異形の周りに閃光を放ち、
轟音を辺りに響き渡らせて異形は姿を消した。
side―衛宮士郎―
飛ばしたのはいいが、うっかりだな遠坂……
何処かに飛ばされたにしても――これはまずいだろぉぉぉぉぉぉぉ!!!
俺が飛んできた場所は見るからに地面からはるか上空。
非常にまずい状況、まず落ちたら普通の人間は命を落とすことになるだろうが、
この身は【魔術師】手段はいくらかある。
しかし、本当にひどすぎるぞ……遠坂……
幸いなことに下は森。
服を強化して枝をクッションにすれば大丈夫か。
とりあえずやってみるしかないよな。
「―――
体が木々にぶつかり、枝が次々に折れて重い音が響く。
傷は……ないな、一応無事に着地できたか。
さっきから見ているようにここは森のようだが、イリヤの城の周囲にある森か?
本当にここは俺がいた所と別の世界なんだろうな……?
ん? そういえば視点が低いし、服もぶかぶかだ。
鏡かなにかあればいいんだが……投影すればいいけど、イリアの家でも探してそこで確認するか。
無駄な魔力を使うと何故か怒られそうな気がするからな。
『ガァァァァァァァァァァァ!!!』
「今のは――誰か襲われてる!? だとしたら早く行かないと大変なことになる!」
やはり誰か襲われてる! この距離だと弓を使うしかないか、間に合ってくれ!
叫びが聞こえたところに向かうと、化物と一人の少年らしき人が見えた。
だがここからそれらの距離は約30mもの距離がある。
しかも化物がゆっくりだが人に襲い掛かろうとしているところだ。
「―――
瞬時に弓と矢を投影。
すぐさま化物を狙い、化物の頭部を正確に射抜いた。
間に合ったか、それにしても今のは鬼?
ふむ、今のランクの矢だと射ただけでは駄目なようだな。
「“―――
馴染みのある言葉を紡ぐと、俺が射た矢は爆発し、化物の体は跡形もなく消え去った。
これで大丈夫だろう、襲われていた人の様子を見に行かないと。
あれに対処できないってことは一般人だろうからな。
下手をすると錯乱状態に陥ってるかもしれない。
「大丈夫ですか?」
「衛宮……士郎………?」
「な! なんで俺の名前を!?」
助けた人は俺の記憶には全くない。
その記憶にない人に自分の名前を呼ばれたため、
逆に俺が錯乱とまでは行かないが、驚く立場になってしまった。
side―???―
はっ、何とか助かったみたいだ。それにしても今のは?
む、助けてくれた人が近づいてきてるみたいだな。
「大丈夫ですか?」
な!?
この赤髪、何故赤い外套を纏ってるかはわからんし、
さっきのは“壊れた幻想”だったはず……それを使うことができていたのかは不思議に思うが、
こいつは何処をどう見たってあの――
「衛宮……士郎………?」
「な! なんで俺の名前を!?」
ああ、口に出てたみたいだな。
とりあえずここに士郎がいると言うことはこの森はアインツベルンのとこか?
Fateの世界に来たってことか、もうあれだ、オレ死亡決定?
うぅ、あかいあくまとか怖いけど……まぁ士郎のとこいれば大丈夫かもしれんな。
まぁオレの好きな世界にこれたってのはうれしいものが少しあるけどな。
……って士郎ほったらかしにしてたな。
「すまん、とりあえずは助けてくれた正義の味方にはお礼言わないとな。ありがとう」
「いや、当然のことをしたことだから……それよりも」
士郎が渋った顔をしてオレの方を見る。
その表情は得体の知れないものを見てるって感じだな。
「何でお前の名前を知ってるかってことか?」
「ああ」
うーん、士郎に言っていいものだがなんだか、士郎は顔に出るタイプで嘘もつけないからなぁ。
むむむむぅ……よし! 士郎はいいやつだし本当のこと言ってもいっか。
どうかこの決断は間違いじゃないってことになってくれよ。
「士郎、正直なこと言うとオレは異世界からきた」
「え?」
フ、そう言えばオレは第二魔法の体験者だ。
驚いた顔をしているが当然のことだぜ。
まぁ、何でオレが飛ばされてるのかはわからんがな。
「もっと詳しいことを言うと第5回聖杯戦争のうろ覚えだが知識がある。しかもほとんどがお前視点でな」
士郎が意味不明だ、という顔をしてる。
頭の上にハテナマークが沢山見えるよぅ。
士郎視点ってわかりやすくいったつもりだが、やはり駄目か。
というかわかりにくかったような気もする。
「どういうことだ?」
「……オレの居た世界ではお前が主人公となったゲームがある。
ちなみにセイバーか凛か桜の誰と好き合ったかは知らんが。
お前と誰かかの秘話の話も出来るが」
これは更にわかりやすい説明だと思うが、現実味は全くない回答。
だが士郎の顔が真っ青になっていく。
もちろん変な話をできると言ったことでだ。
これを話して、もし士郎の記憶とオレの話が合ってたら大変なことだからな。
青くなるのは無理はないと言えよう。
「いや、わかった。信用するからしなくていい……」
「物分りいいやつで助かる」
フッ、さすがにオレからあの話はするのは嫌だぜ。
オレはそんなに神経が図太いって訳じゃない。
もし話したら恥ずかしすぎて死んじまうね。
「士郎、ここはアインツベルンの森か? 道わかるなら案内して欲しいんだが」
「多分イリヤの家の森だと思うけど……遠坂に宝石剣で飛ばされたからはっきりしたことはわからない」
「なにぃぃぃぃぃ! うっかりスキル大暴走だとー!!」
なんてことだ。まさか士郎が飛ばされているとは、どういう事情でだ?
……いや、とにかくここは士郎の世界じゃないって可能性もある。
それにさっきの化物は士郎の世界で出てきたか?
うーむ、オレの知らん世界だったら大ピンチだぜ。
どの世界でもピンチかもしれんって事は決して考えない。
「とりあえずここを出ないといけな……」
「貴様ら! 何者だ!」
こいつは―――なるほど、ラッキーっていったらラッキーだが都合よすぎないか?