19 three days before

 

 

「甘ちゃんだな。いや、ネギだからこそか」

 仁が自身の目の前で立ちつくす少年へと言葉を吐く。

「――――」

「それは困る。人の考えなんて読めん方が幸せだぜ」

「ホラ、ボウットシテネェデ帰ッテ酒ダ。テメェラモ今ノ音デ人ガ来ルダロウカラ、今日ハ茶々丸狙ウノヲ止メトケ」

 静かなこの場であっても所々聴こえなかった部分もあったが、一人と一体がいつものように会話を交わしていっている。

「じゃあ士郎は絡繰連れて行ってろ」

 ネギから俺へと視線を変えて仁は話している。
 コイツと人形だけはいつもの調子、残りは氷のように時が止まってるよう。

「オレは寄り道してから士郎んトコ行くからさ。それと、ネギ、コレは選別。帰ってから読むといい」

 仁は俺にエヴァの家に先に行ってろと言っていた。
 それと同時にその手からネギの手へと紙切れを一枚手渡していた。それが何かは分からない。きっと聞けばいつものように「仕込み」と言って済ましてくるだろう。

「じゃあな。明日は土曜だし、さっさと帰ってまったりしてぇわ」

 仁は足をいくらか学校の方へと進めてから、俺達全員へ向けて言い、去っていった。

「……行こう、絡繰」

「え……」

「ネギ、神楽坂、仁が言った通り今日は止めておけ」

 本の数十秒前に起きた本の少しの戦い。勝ち負けを決めるためのソレを止めるように少年と、その従者となったらしき二人へ勧告する。
 そして前の二人と同じように立ちつくす絡繰の手を取って、無理にでもこの場を離れた。

 

 

 

 

「あの、衛宮さん」

「あ、すまん、絡繰」

 絡繰の声に、一言謝って取っていた手を離す。
 周囲の景色を見れば、かなりの時間を無心に絡繰の手を引いて歩き続けていたようだ

「すまない、絡繰――俺は、ギリギリになるまで動くコトができなかった」

 次に出た言葉は二度目の謝罪。最初の謝罪とは違う理由。言わなければならなかった。言わない訳にはいかなかった。

「……何故、衛宮さんが謝るのですか?」

 それを絡繰は無機質に、何事もなかったとでも言いたそうに返す。

「俺は絡繰が危ないと知らされていて、瀬戸際まで黙って見てた。何をする訳でもなく黙って――」

「衛宮さんは先程、私を助けて下さったのではありませんか?」

 俺の言葉を止めるように絡繰が話す。

「結果的にはそうだが、絡繰が危なくなるのを知っていて俺は見てたんだぞ。方法を変えれば、あんなギリギリまで待つコトはなかったのに」

「……私は衛宮さんの心境を深くは分かりませんが、結果が無事となったので良かったと思います。ネギ先生も私に危害を加える寸前に止めました。同じコトを言いますが、貴方も貴方自身で私を助けられる所で私の前に現れました。私はそれで助かったので良かったと思います」

 頑なに彼女は自分の意志を曲げようとしない。

「衛宮さんが謝るまでもなく私が悪いのです。マスターには人目のある所を歩くように言われました。主人の命に背いたのが、そもそもの失態です」

 悪いのは誰でもなく自分自身だと絡繰は言い、すみませんと俺に頭を下げている。

「それに、私は貴方と防人さんを頼っていました」

「頼ってた……?」

「マスターは私と離れる際に、こうも言いました。『いざとなれば、あの二人が介入してくる』と。だから、安心していつものように猫へ餌をやるコトもできたのです」

 俺は何も悪くない? むしろありがたいコトだった?  彼女はそう言っているのか

 俺の考えが間違っているのだろうか? 本当にアレで良かったのか?

「茶々丸、こんな場所に居たのか」

「ダカラコッチニ行ッタッテ言ッタジャネェカ御主人」

 声のする方へと目を向けると、頭にチャチャゼロを乗せたエヴァが側にまで来ていた。
 エヴァの表情は至極どうでもいい、つまらないとでも言いたそうに。最近のエヴァは、いつもこんな表情だ。

「どうしたんだ、そんなに体を汚して」

「これは……」

 絡繰の体を上から下までなぞるようにエヴァは見る。

「川ニ突ッ込ンダカラナ、タカガ猫助ケルタメニヨ。制服ノクリーニング代ヲ酒ニ回シテ欲シイゼ」

 言い淀む絡繰を見て、質問を投げかけた人の頭の上から珍しくもフォローを掛けるように声が送られる。

「ふん、相変わらずのお人好し精神か」

「すみません、マスター」

「なに、茶々丸は茶々丸の好きなようにすればいい。それで、衛宮士郎、貴様は何で死にそうな顔をしてるんだ?」

「……そんな顔してるのか」

 絡繰から俺へと目を向けて腕を組みながら、睨むように俺を見上げるエヴァ。
 鏡を見なければ、自分の顔は見えない。それでもエヴァがこう言うからにはきっと酷い顔をしてるんだろう。

「貴様はあの阿呆と比べると元々死にそうな顔だがな。それが一層と極まってる」

「ドウセショウモネェ悩ミダロ。男ノ癖ニウジウジト、ショウモネェッタラアリャシネェ」

 呆れてるのか喋るのも億劫そうにするエヴァ。
 けらけらと笑い、動けるものなら渇でも入れてきそうなチャチャゼロ。

「……これで良いのかって思えるんだ」

 言葉を出す。それに黙って聞く目の前の二人と一体。だから、俺はそのまま話を続けた。

「此処に来て、こんなに平穏に暮らして。確かに俺は、この世界じゃ右も左も分かりはしない。でもさっきのを見て、体感して、このままでいいのかって」

 分からない。この一言がずっと頭を駆け巡っている。

「さぁな。貴様が言うのは自分の生き様か信念か。そんなのは自分で決断する以外にはない」

「……そうだな」

 エヴァの言う通りだ。
 人に話そうと解決するようなものではない。
 己の道を決めるのは、結局は己のみ。
 迷おうが、悩もうが、自分が決断したモノが全て。

 

 ――死人かと思えば、貴様も人間らしい一面も一応はあるのか。

 

「……何か言ったか?」

「いや、何でもない。それより茶々丸の汚れを落とさんとな。此処からなら……ハカセの所に行った方がいいか。それでいいか、茶々丸?」

「はい」

「貴様はどうする?」

「俺も行こう、手伝えるコトがあるなら手伝う」

「好きにしろ」

 エヴァは俺がついていくのに感心を示さない。
 小さな後ろ姿に俺と絡繰が喋るコトなくついていった。

 

 

 

 

「大学の施設、か」

 葉加瀬は麻帆良大学の工学部の研究室に居るとのコトでやってきて、今は大学の20階以上の数字が表示されるエレベーターに乗り、葉加瀬の下へと向かっている。
 麻帆良には年季のある古めかしい建築物も多いが、この大学は周囲の建築物と比べて目新しいというか、工学部とだけあって次世代的な建築物だ。

「何度きても、どうも此処の雰囲気には馴れん」

「御主人ハ機械ニハ滅法ヨエーシナ」

「そっち方面は茶々丸に任してあるから別段弱かろうといい」

 最上階近くで止まったエレベーター。エヴァは開いた扉を見て、さっさと出て話を切り上げようと降りて行く。

「そういえば連絡は取ってなかったと思うが、研究中なら入ってもいいのか?」

「心配せんでもハカセはそんな細かいコトは気にしない奴だ」

 トツトツ、と来慣れていると思わせる歩みでエヴァは前を歩く。
 やはり来慣れているようだ。迷いもなく葉加瀬が居るだろう部屋目指して足を進めている。

「此処だ。ハカセ、入るぞ」

 エヴァがある部屋の前で止まり、一度、俺と絡繰を見てからドアを二度叩いてエヴァから入室。
 俺は、エヴァの次に続く絡繰の後ろについて中へと入る。

「相変わらず荒れてる部屋だ」

「コードニ足引ッ掛ケンナヨ御主人」

 辺りを見まわしながらエヴァは部屋を進んでいく。
 部屋は資料やら機材やらが散らばり、特に点々とする机の上の物が酷く、エヴァの言う通り荒れていた。人の通り道はすれ違う程度なら確保されてるので、一応は部屋として成り立っていると言えるが。

「ハカセ」

 荒れた部屋の中、背を向けて机の資料を漁ってる白い研究衣を着た姿にエヴァが声をかける。

「あれ、茶々丸にエヴァさん……と衛宮さんじゃないですか」

 エヴァの声に反応して、くるりと振り返り、一人一人と確認していく葉加瀬。探し物に熱中してたようで、突然の訪問者、特に俺を見て驚いている。

「少しは片付けたらどうなんだ」

「いやー、エヴァさんにそう言われちゃうと面目ないんですが、片付けても3時間もするとこんな状態になってしまって――」

「デモ御主人ノ家モ二階以外ハ人形デコンナ感ジジャネーカ」

「私のは飾りだから問題ない」

 片や人形の山、片や研究道具の山、どっちもどっちと言えなくもないが、声には出さない。

「それで御用は……茶々丸の点検ですかね」

 絡繰の体をぱっと見た葉加瀬は言う。
 誰から見ても、今の絡繰の姿はそのままにしとこうとは思えないだろう。一目見てすぐに気付くのは当たり前と言える程だ。

「川に突っ込んだらしいからな。好きなようにいじってやれ。貴様はついでだから、此処の片付けでもしてやれ」

「そうは言われても、いくら散らばってるからって研究資料は俺が整理するとまずいんじゃないか?」

「そうですねー。好意だけありがたく受け取っておきます。お二人は適当に……くつろげそうなトコでくつろいでて下さい。暇でしたら機械を見てても構いませんが、壊さないように注意して下さいね。じゃあ、茶々丸はこっちに」

 葉加瀬と絡繰は部屋を移っていく。
 別の部屋に絡繰の点検をするための機材があるってコトだろう。こう話をされると、絡繰がロボットってのを思い出させられる。外見は人そのものなんだが。
 彼女を創ったのは、葉加瀬、超、エヴァであるとあの男から聞いている。教えてくれたのはそれと、エヴァの新たな護衛が必要だった。この二つだけで、それ以上の深い話は聞いてなく、聞いても教えちゃくれないだろうから聞かなかった。

 しかしというか、それにしても、この部屋は……

「ハカセめ、いつの洗濯物だ……」

「仁以上トイウカ、比ベモンニナラネェ程ダラシネェナ」

 エヴァが摘まみ上げてる物は……ここから先程出て行った、この部屋の主である彼女の物だろう、多分。どんな物かは口で出せる物ではないし、見続けるのも失礼な物々だ。

「衛宮士郎」

 摘まみ上げた物をこっちに持ってくるエヴァ。

「無茶言うなエヴァ。さすがにその片付けは出来ない」

「ツマンネェ野郎メ」

 エヴァの奴、絶対に分かってやってやがる。

「貴様も大人なら、関係なかろうに」

「そういう問題じゃない」

 ハハ、と笑ってエヴァは手にある物を元の投げ置いてた位置へと戻しに行く。
 寛ぐにしても、研究室を見回すにしても、大変そうな場所だ。それでも折角きたのだから、何か収穫していかないと損か。ひとまず掃除出来そうな所をしておいた方がいいのだろう。

 

 

 

 

「……まだ帰ってないな」

「ゲーセンデモ行ッテンダロ」

 葉加瀬の研究室寮室から出た後は、帰りの道のりで途中まではエヴァと絡繰と共にし、別れた後は真っ直ぐと寮へ帰宅した。
 今日のアレの後、エヴァにチャチャゼロを預けていた仁の靴は玄関にまだなかった。

「さすがに疲れた……」

 居間のソファへ、どさっ、と座り込んで頭の上のチャチャゼロを隣に座らせる。

「ガキノ下着ミテ動揺スルテメェモテメェダガナ」

「そういう問題じゃない……」

 葉加瀬の研究室のコトもあるが、今日はありすぎた。
 思考を巡らせ、意識を保たせ、正常とは言い難く、悩みに悩んだ一日。

「……狂うな」

「元々ナンジャネェカ」

「……そう言われたコトもある」

「マ、士郎ダシナ」

 チャチャゼロは笑う。いつものように冗談で毒吐くのか、真面目に受け答えしてるのかはわからない。

 ……喉が渇いた。
 冷たい茶でも冷蔵庫から出して飲もうか。

「あーーー、疲れた……」

「仁か。おかえり」

 冷蔵庫の扉を開けると、合わすように玄関の扉が開く音。そして、重い足取りで仁が居間へとやってきて、さっきまで俺が座ってた所へと座り込む。

「ただいま。飯はまだか」

「俺も今帰ってきたとこだ」

 コップに移した茶を飲み干した後に仁の問いに答える。そして時間も時間なので、仁が待ち遠しくしている食事の準備。手を洗うために水道から水を流す。

「そうかい。じゃあ米とぎでもしとくか。あー、そうだ、明日と明後日は外出禁止な」

「休日なのにか。なんでまた急に」

「出ても良い事ないだけだ」

 そう言うと仁は立ち上がって台所へと向かってくる。

「仁はいつも突然だな」

 コッチに来る男に向かって、素直な言葉を送った。

 

 

 

 

――ピピピピ――

 テーブルの上に置かれた携帯電話から音が鳴る。液晶に表示される名前は絡繰茶々丸。時刻は7時少し前。
 休日は長瀬が日曜に来たという以外は誰とも会うコトがなかった。特に毎日のように顔を見合わせていた、この相手とは久々に近い感覚だなと思いながら電話を取る。

『衛宮さん、おはようございます。絡繰です』

「おはよう、絡繰。こんな朝早くに、どうしたんだ?」

『マスターが高熱を出したので、衛宮さんにも報せておいた方がいいと』

「エヴァが風邪か……」

 この世界でも最高峰と言われる真祖の吸血鬼である彼女が風邪とは皮肉なものだ。
 サウザンドマスターの呪いのせいなんだろうか。エヴァを抑えるだけあって、ネギの父も相当の力の持ち主ってコトだろう。

「分かった。仁にも伝えておくよ」

『はい。ではまた』

 電話を切って、次に伝えるべき男を見る。制服を着用しつつ、テーブルの上のチャチャゼロと話している仁へと。

「絡繰から、エヴァが風邪引いたそうだ」

 俺の言葉を聞いて、ほう、とでも言いたそうな仁。

「アー、御主人ハソレニ花粉症ダシナ。ホント情ケネェ状態ニナッチマッタ」

「風邪引いた時ぐらい、真剣に主人を想った方がいいんじゃないか?」

「士郎ハツクヅクツマラン事シカイワネェナ」

 この人形の主人への想いの無さは、どうしようもないな。
 会話する度に、つくづくと思うこの一言だ。

 

 

 

 

 仁がエヴァ家、二階から降りて行く。
 エヴァの家に来て用意し始めた白粥も、もう暫しの時間で完成してくれる。その前に一度、さっきふら付いて倒れそうになっていた少女を見舞いに来た。

「代わりにエヴァが無茶せんように見といてくれ」

 仁が降りる前に俺へと送った言いつけ通りに、ベッドで横たわり俺から逆を向いてるエヴァを看病する。もとい監視の念が強い。高熱のエヴァを見放しておけば、エヴァの性格からして、さっきのように無理に体を動かしてしまう。そして、同じように倒れてしまえば絡繰にも心配をかけてしまうだろう。

「……気になる。座れ」

「む、悪い」

 視線を強く感じるのか、尖った声でエヴァは言う。
 立って見てた俺が一方的に悪いな。
 言われた通り、ベッドの奥にある椅子へと座った。

 座る際に、おでこに白いシートが張ってあるエヴァと目が会う。それは本の一瞬で、エヴァはすぐに反対へと体を返した。

 それ以降は部屋が静かなまま時が過ぎる。鳴る音と言えば、エヴァの咳込む音のみで、それ以外は無音の空間。枕元のチャチャゼロも主人を想ってか何も喋らずに居た。

 1分、2分とそのまま時が過ぎて行く。

「……貴様はあの男をどう思う?」

 5分程経過した所で、エヴァが声を掛けて来た。あの男って言うのは、おそらく仁のコトだろう。
 以前にも一度だけ似たようなコトを聞かれた覚えがある質問。その時は簡単に答えればいいと言われ、その通りに一言で返した記憶が残ってる。

「寝れないのか」

「つまらん話でも聞ければ眠れる」

「それは、俺の話すコトがつまらないって言われてるのか、仁に関してつまらないって言ってるのか……どっちにしてもキツイな」

「両方ダロ」

「少なくとも仁はつまらない奴ではないと思うけどな」

 俺がこうは言ってもエヴァがどう思うかは分からない。どちらかと言えば仁を避けてる節を最近は見せている。それでもアイツの話が聞きたいと言っているのだから、完全に嫌ってるという訳ではないのだろう。

「俺のコト、俺達のコトを知ってるというアイツの一番近くに居る俺は、オカシナ気分を毎日味わうよ。口には出さないけど、アイツの思い通りに日々が経過してるようだしさ」

「正確ニハチゲエナ」

「む、そうなのか?」

「アア。アイツノ書キ物カラ未来ヲ外シテル部分ガアッタシナ。ソレデモ大マカニハ――オット、コレハアイツカラ口止メサレテルカラ話スナヨ」

 ケケケ、と笑うチャチャゼロは、言葉で出した通り悪びれているのかどうなのか。
 しかし、仁のあのノートを見てるのは仁以外にはチャチャゼロだけ。何故チャチャゼロにだけノートを見せているのかと疑問に思うコトはある。口が堅いと仁はチャチャゼロに対して考えてるからなのだろうか。

「それと熱心な奴だ。痛いの嫌だと零すけど、鍛錬の時は真剣に取り組む奴だしさ」

 考えは一旦置いて、質問を投げかけてきた相手へ向けて話を戻す。

「毎回ト仕合ウ前ニ弱音吐イテルノ以外ハ及第点ダ」

 此処最近のアイツの伸び代は凄いものだ。一般人で、魔法とは全く無縁の世界からきたというのが嘘のようとも感じる。特に実戦を想定した鍛錬の中でのアイツの戦いは、教えてる此方も面白いと思わせてくる。

「アー、結果ガ全部ボロボロダカラ、ヤッパ落第点ダナ」

「チャチャゼロは厳しいな」

 仁に傷を負わせずにも可能だが、「地力で治る程度の傷ならむしろ歓迎だ」と仁が言いだしたので、それ以来は試合が終わると、仁の体はチャチャゼロの言った通りボロボロの状態となる。
 痛いのは嫌だと言っておきながらコレだからな。仁の頭の中を少し疑ってしまいそうになりそうだ。

「後は悩まされるかな」

「悩む……? 三日前の貴様か?」

 俺へと問いかけてから、エヴァが初めて口を挟んだ。
 三日前というと絡繰がネギと神楽坂に襲撃を受けた日。

「それも入れて、仁の話す言葉にさ、時々どうしようもなく迷うコトがあるんだ。そういえば綾瀬が人を試すようにしてるって仁に言ってた。アイツはどう考えて話てるんだろうか」

「……アイツが考えて話してるなど想像もしたくない」

 エヴァは変わらぬ調で、仁に触れすぎるのを嫌がるように答える。

「オ節介焼キダロ。馬鹿ノ癖ニナ」

「そうかもな。あのクラスは優しい奴が多いから、アイツもその一人でも違和感ない」

 特にアイツと似てるのは神楽坂。口に出してしまえばチャチャゼロも声を大きくして頷くだろう。良い意味で、あの二人は似通う部分が多い。

「オレのコトで話してたのか」

 片手にサンドイッチを携えた仁が階段から上がって来ていた。
 仁を見たエヴァはすぐに、布団を頭に被せて誰にも我が身を見せまいとした。

「くしゃみが酷くて、祟られてんのかと思ったぜ」

「馬鹿ハ風邪引カネェダロ」

「さっき、風邪引いたコトあるって言ってただろ」

 仁はチャチャゼロと言い合いながらベッドの脇へと寄って来て、エヴァの隠れてるだろう頭部分をサンドイッチを持つ手とは反対の手の人差し指で突つく。

「絡繰が毎日行ってる猫の餌やりと、御主人様のためにツテのある大学病院から薬を貰ってくるとよ。オレは此処に残るつもりだが士郎はどうする?」

「……仁が残るなら、俺は絡繰の手伝いをしようか」

「ああ、そうしてやってくれ。暴れん坊お嬢様はオレに任せてもらおう。下のも後で見とく」

「坊ナノカ嬢ナノカデ矛盾シテルダロ」

 尚も話しながら指で布団越しにエヴァを突き続ける仁。
 中のエヴァは分かってるハズだが、反応をピクリとも示さずに布団に包まったまま。エヴァが鬱陶しいと感じてるのは間違いなさそうだ。

「仁は突つくのを止めて、エヴァは頭を出した方がいいと思うぞ。そのままで寝ようにも息苦しいだろ」

 椅子から立ち上がる際に二人へ言葉を置いて、一階への階段に向かう。降りる際に見えるベッドの上のエヴァは、まだ頭に布団を被せたままだった。
 だが、これ以上はエヴァに俺から言っても利かないだろう。後は仁に上手くやってもらうしかあるまい。

「絡繰、俺も行くよ」

 家を出ようとしていた制服の後姿を呼び止める。

「では、マスターは防人さんが」

「ああ。こういう時の仁は真面目にしてくれるから問題ないと思ってる」

「ええ、衛宮さんの言う通りだと思います。それでは衛宮さんにお手伝いをお願いします」

「そんなに、かしこまってもらうと困るんだけどな」

 丁寧にお辞儀をする絡繰。彼女の頭が上がるのを見てから、声を一言かけてエヴァ家を後にした。

 頭の中では一つの疑問。三日前から特に引っ掛かってるソレを片隅に置いて。

 

 

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――三巻 20、21、22時間目――

2010/8/6 改訂
修正日
2010/8/26
2011/3/15

 時間軸18話の仁視点だったトコの士郎視点です。
 18.5話といった方が良いかもしれません。でもメイン士郎なので.5だとおかしいかな……。
 18話と一緒に上げた方が良さそうでしたが、拍手の方で宣言してた通り描写少し追加したかったので分けるコトになりました。

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