side―衛宮士郎―


遠坂が救ってくれたことは感謝するがうっかりによってか異世界に飛ばされてしまった。
始めから異世界に飛ばす気でやったのかもしれないけど、そこのところはよくわからない。
さらに異世界に飛ばされたというショックのせいか体が縮んでしまった事もあるが、
これはそれほど支障がないと思う。

そして今、隣の防人仁と言う人物がゲームによって、
第5回聖杯戦争の俺視点での知識があると言う……すごく恥ずかしい。
さらににこの世界での知識もあると言う。魔力もあるみたいだし、すごいやつだなと思うな。

 

人間と見えなかった人が居た学園長室から出てしばらく歩き、
林の中に入ると一軒の家がこの目に留まった。

「着いたぞ、ここが私の家だ」

「エヴァンジェリンちゃ……エヴァンジェリンの家って木の家なんだ、もっと城っぽいところだと思ったな」

エヴァンジェリンちゃんと言おうとすると一瞬すごい殺気が……
何でちゃん付けがいけないんだろう。
この年頃の女の子は難しい年頃ってやつなのかな?

「さっさと入れシロウ」

これ以上待たせると怒られて殴られそうだな。とにかく入ろう。

 

 

「うわ、随分と人形が多いな。女の子の部屋ってこういうものなのか?」

家の中に入ると人形だらけ、装飾も可愛らしいものが多い。
エヴァンジェリンと絡繰さんはこういうのが好きなのかな。

「いやこれは明らかに異常と言えるぞ士郎。
女の子の部屋がみんなこんなんだったら鼻炎アレルギーの人には堪ったもんじゃない」

確かにそうだ……
それに遠坂が子どもだった時の部屋がこんなのだったらびっくりだ。

「シロウ、貴様の魔法……いや魔術だったか。それを見せろ」

ソファーにどっしりと座り足を組んだエヴァンジェリンが俺に命令する。
逆らうと捻り潰すぞ、と言わんばかりの感じが出ている。

「うーん。あんまり人に見せるとよくないんだけどな」

「大丈夫だ。エヴァはいい子だから心配するな。…………利用される可能性は大だがな

仁がそこまで言うなら大丈夫か。
……最後の方に何か言っていたような気がするけど、大したことではないと思いたい。

「俺のできる魔術は解析、強化、それに投影の3つだ。
解析はものの構造を見るもの、強化はそのままだな」

「3つしかできないとはへっぽこだなシロウ」

うっ、こんな女の子にへっぽこって言われた……

「そんなことは言うなエヴァ、士郎がへこむだろ。
それに士郎は自分のいた世界では封印指定に選ばれるほどの能力の持ち主だから、
へっぽこなんてことは…………多分ない」

仁はフォローしてくれたんだろうけど、何故か傷ついたぞ。

「封印指定? なんだそれは」

「魔術師にとって名誉であり迷惑である、全くありがたくないと言える称号だったかな。
それに魔術師に捕まると永久に脳とかを保存されるだかなんだかだと思ったが、合ってる?」

「ああ、大体はそんなところだな」

仁が次々と俺の世界のことを説明していく。
そこまで俺の世界の知識があるとは、
当然といったら当然なんだろうけど、改めてすごいよな。

「それより早く投影見せたほうがいいんじゃないか?
絶対驚くぞ〜。あと士郎の得意な武器をこの目でみたいな。よろしく〜」

「得意な武器って言うとアレか」

目をキラキラ輝かせてこっち見てるな……すごく怖いぞ。
とにかくリクエストに答えてやるか、得意なのと言えばアレしかないだろう。

「―――投影、開始トレース・オン

ふぅ、俺の手に収まったものは陰陽の剣【干将・莫耶】
出来は上々といったところだけどどうかな?

「なんだこのアーティファクトは……投影と言ったな。まさかこれは……」

「さすがはエヴァだ。察しがいいな。士郎の魔術……この世界に来たんだ、魔法に統一するか。
まぁ士郎のお得意の魔法は投影。魔力を使用してこの世界に物質を半永久的に生み出すものだ。
壊れたり、士郎が消そうと思わない限り消えない」

淡々と仁の言うことは的確に的を射ている。
けど俺の言うことが全然なくなってくるから寂しいぞ。

「俺の魔術、いや魔法の属性は剣だからな、槍とか矢とかも投影できるぞ」

俺も魔術ではなく魔法と言わないといけないか。
間違っても言わないようにしないとな。
この世界の魔法使いに感づかれると面倒だ。

「何だと! ……なるほど。これは先ほどの封印指定というのも納得できるな」

エヴァンジェリンは俺の顔をジッと見て言ってくる。
その表情から面白いおもちゃ見つけたみたいな感じに見えるんだが……
……横では仁は嬉しそうに干将・莫耶を振り回して遊んでるよ。
それに『しんぎ むけつにしてばんじゃく』ってなんで詠唱してんのさ。
なにも発動しないだろうけど、本当に危ないぞ。

「そうだ、シロウの魔法で呪いが解けるのという能力がある剣か何かないのか?」

呪いの解けるもの?
丁度いいものはあるが誰か呪いかけられてるのかな。
そういう風には全く見えないのだが。

「ああ、それなら――――」

「いや、たしかに士郎は持っている。
が、サウザンドマスターの呪いを解けるほどのものじゃないからな」

仁が俺の目の前に干将を突き出し、俺の視界を遮る。
掠って前髪が数本落ちたじゃないか。
それより、【ルール・ブレイカー】なら大抵の呪いは解けると思うんだけどな。
仁が言うからにはなにか考えがあるんだろう、後で聞いてみるか。

「そうか……それなら仕方ないな……」

エヴァンジェリンは酷くがっかりして項垂れる。
先ほどの威厳がある姿とは対照的に年相応の可愛らしい感じだ。
それほど嫌な呪いと言ったところか。

「ケケケ。イイ下僕ヲ連レテ来タナ、御主人」

む、何処からか片言な言葉が。誰だ?

「何だ、チャチャゼロ居たのか」

エヴァンジェリンがある人形を見て、つまらなさそうに言う。
チャチャゼロか、絡繰さんは茶々丸って名前だったけど何か関係があるのかな。

「ソレハナイゼ御主人、モットオレヲ労ッテ……」

「おお! チャチャゼロだぁ。抱っこしてもいいかエヴァ?」

「あ、ああ」

仁の張り切った声にエヴァが少々焦りを含んだ声で返答する。
喋る人形チャチャゼロが、仁に抱っこされて鬱陶しいって表情に見える。
それにしてもテンションあがりまくりだなぁ仁は、まるで宝石を目の前にした遠坂って感じだ。

「オイ、オ前。モット派手ナエモノハナイノカ?」

仁に抱えられているチャチャゼロが俺に向かって物騒なことを吐く。
何故人形が武器を欲しがるんだ……エヴァンジェリンがしつけたのかな……

「派手なエモノって言われてもなぁ。禍々しいほうがいいのかな?
そうだなぁ、体に合わないと思うがこれは気に入るかもしれないな」

 そうして俺は一度深呼吸し、先ほどと同じように自己暗示の言を紡ぐ。

―――投影、開始トレース・オン

――投影したものは【ゲイ・ボルク】
第5回聖杯戦争でランサーこと光の御子クー・フーリンが使っていた槍だ。
血の様な紅で十分に禍々しいと言えるだろう。

「ゲイ・ボルグだな。かっこいいなぁ。士郎の能力が羨ましいぜ」

「オオ、オイ抱エテイルオ前アソコ二連レテ行ッテアレヲ持タセロ」

二人?とも目を輝かして仁はゲイ・ボルグを持ったり、
チャチャゼロが持たせてもらったりしてる。
むー、チャチャゼロにこれを持たせると危険な感じがするぞ。

「ゲイ・ボルクか……貴様どこまでも規格外だな」

「まぁ、俺にはこれしかできないからな」

確かにこれしか出来ないから悲しい。
もうどうしようもなく、しょうがないことなんだけどさ。

「そういえば腹減ったなぁ。そうだ! 
もしよかったらだけど士郎と絡繰さんのご飯食べたいなぁ」

「あ、はい。私でよければ」

料理か、久しぶりに俺以外の人のために作ることになりそうだ。
腕は落ちていないとは思うが、皆のお気に召すように頑張ろう。

「ふむ、しかしもう深夜だし軽いものの方がいいな。
明日にちゃんとしたものにしよう」

「貴様料理もできるのか。意味わからんやつだな」

「あと修理とか色々できるはずだぞ」

「本当に意味がわからんやつだ……」

貶されてるけどもういいや。
ご飯炊いて、おにぎりでも作るか。
軽めにしないと明日の朝、胃がもたれて大変だからな。

 

 

 

「何故ただのおにぎりがこんなにうまい……」

「おかしいよねぇ。これもある意味魔法だよ魔法」

エヴァが一口食べたおにぎりを見て感想を漏らす。
その次に仁が次々と口におにぎりを入れ、大げさなことを言う。
まぁ喜んでもらえて何よりだ。

「普通に作っただけなんだけどな」

「衛宮さんの料理をしている姿は何と言いますか、職人でした」

絡繰さんに食べないのかと聞いたら「私はロボットですから」と言われた。
どっから見ても人間の女の子に見えるんだけどな。
エヴァンジェリンより女の子らしいと言ったら怒られるだろうか……

「ごちそうさま〜」

「お粗末様でした」

早い、そして綺麗さっぱりなくなった。
作り手としては嬉しいが、そんなに早く食べたら胃に悪いぞ。

「よし! 腹もいっぱいになったし眠くなってきたなぁ。
あ、そういえば風呂に入ってない。エヴァ、風呂はないのか?」

「風呂か、そうだな。地下室にいけば大浴場がある。ついて来い」

仁を助けに行ったとき少し汗掻いたからな、俺も風呂に入りたかったことだ。
ん? 仁が変な顔してるが、まぁいいか。とにかくついてかないと機嫌損なわせちゃうな。

 

 

 

 

「ここだ」

「いや、ここだって言われてもそこに模型があるだけじゃ」

案内されて目の前にあるものは目的の大浴場ではなく、大きな瓶が一つある部屋。
その大きな瓶には精巧な塔のような模型が入っており、瓶の下の部分は水が浸っている。

「ここで正解だ士郎。ちなみにこのネタがわかるかわからんが精神と時の間みたいなものだ」

「何だそれ?」

仁の返答を聞く前にカチッと音がなったと思うと――

 

――気がついた時には何故か別荘のような所にいた。
しかも、かなり暑く真夏日って感じだ。
景色も良く、旅行には最適なところかな。

「ジンはやはりここのこともわかってたみたいだな」

エヴァが仁に向けて言う。
隣にいた仁の顔を覗き込むと苦笑いをしてるな。

「そりゃぁなぁ」

「それにしてもここはあの模型の中なのか? この世界の魔法ってすごいなぁ」

「ここの24時間は外の世界では1時間だ。
つまり私達がここにいる限り外の世界の者より早く老いる。
あとは、ここで1日いないと外に出れん」

面白い魔法だ。それにここは外の世界より外気の魔力が濃い。
どういう原理でこうなっているのか是非知りたいな。

「そしてここなら私は真祖の力を十分発揮できる」

「なっ! 真祖!? エヴァちゃん吸血鬼だったのか!」

「誰がエヴァちゃんだ!」

ぐぉ――――鳩尾に……
家に入る前に注意しようとしていたのについ焦って言ってしまった。
こんな女の子なのにすごいパンチだな………

「うーん、真祖っていってもエヴァは士郎の世界で言う死徒27祖くらいの力だと思うぞ。
あと血を吸われてもグールになったりしない筈だ」

「そ、そうか。まぁエヴァンジェリンならいい子……みたいだから大丈夫か。
あと名前長いからエヴァって呼んでいいか? この響きは君に合うしな」

「くっ、勝手にしろ」

人の急所に入れるのはいい子とは言えないが、根は良さそうだしな。
あれ、エヴァの顔色が悪くなったな? ん、仁は笑ってるけどどうしたんだ?

「フフ、じゃぁ風呂に入ってこようぜ士郎〜」

「わかった」

「――エヴァ、覗くなよ?」

「誰が覗くか!!!」

はっはっはっと青い侍みたいな笑い方でからかってる仁。それに覗くって普通に逆だろ。
―――まぁ、ゆったりと風呂に浸かるとしようか。

 

 

 

「おお、実際に見ると本当にでかい風呂だなぁ」

「確かに個人で持つなら大きい風呂だ」

贅沢だこれは。俺の家は広いけど風呂は普通だったしな。
何人入れるかなぁ、30人くらいか?
……む、後ろから何か気配が感じるような。

「衛宮さん、防人さん背中を流すようにマスターから命令が……」

「「な!?」」

後ろを振り向くと、メイド服姿の絡繰さんがいた。

「くっ、エヴァめ、謀ったな。
確かにエヴァには覗くなと言ったが、茶々丸には言ってないからな。それにしてもこれは……」

仁が横でボソボソと呟いてる。
そして何か思いついたような顔で片手を皿にしてポンとした。

「ああ、絡繰さん。実はオレはもう体洗ったんです。
士郎はまだですから洗ってやってください」

なんだって! 仁、人を売るとはなんてことだ。
しかしここで断ると絡繰さんがエヴァに何をやられるか、
エヴァの命令って言ってたしな。
だけどさすがに女の子に、しかもまだ会って時間が経っていないというのに、
いきなり背中を流してもらうってのは……

「それでは衛宮さん、背中を流します」

「うっ。ぇ……あぅ」

……もうしょうがないのかこれは……
そうだな、早くやってもらって終わらせてもらうとしよう。
む、何処かからメイドに介護されて溺死しろって聞こえた気がしたが気のせいか。

 

 

「衛宮さんどうでしょうか?気持ちよいですか?」

「……はい」

「なんかエロいぞこのヤロ〜」

絡繰さんが俺の背中を洗う。遠くから何か聞こえるが無視をしとこう。
む、絡繰さんが俺を洗っていたタオルを落として、
俺のタオルの上に落ちたのをとろうと―――

 

 

――すると俺の下に纏っていたタオルも取れた。

 

「っ!?」

「あ……その、すいません!」

絡繰さんがその、何と言うか見てしまって。走り去ってしまった。

「さすが士郎だ! 嬉し恥ずかしハプニングだな。オレの予想通りだ」

「はは。仁、予想通りとは。つまりこのことが起きると予測して楽しんでたな。そうなんだな?」

「いやぁ、まぁ何とな〜くだけど何か起きるかなぁとね。ってそんな物騒なもん投影すんなよ!!!」

「……さて何のことかな、防人 仁。私は何も投影なんてしていない。見えるのは幻覚ではないのかね?」

「おぉぃ、なんかアーチャーっぽいぞ! オ、オレが悪かった! 許してくれ」

土下座をしてるから許してやるか……………………半殺し程度で。

 

その後、疲れた体を休むためベットのある部屋に入り込んだ。
遠くでエヴァが笑ってたような気がするけど気のせいだな、きっと。

 

 

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