side―防人 仁―
ネギを連れて旅館に帰ってきてからは暗くなるまで士郎と鍛練。
フェイトのこともあるし少しでも体を動かしておきたいからな。
夕飯は士郎が作ったおにぎりを外で食ったぜ。
鍛練が終わり、オレと士郎は風呂に入ってきて浴衣姿で旅館を歩いている。
今回は入浴時間をきっちり割り振っておいたから大丈夫だったぜ。
そんかわり就寝時間間際になっちまったがな。
「うぐっ………うっ……」
「仁、ネギ君が泣いてるぞ」
「泣キ虫ダナ」
士郎の示す方に泣いてるネギと困ってるアスナ、刹那が見えた。
ネギが必死に弁護してくださいと二人に向けて言ってるようだな。
「フッ、朝倉にでもバレたか?」
ネギ達に近づき泣いてる当人に向けて言う。
こういう時は優しい声でかけ、ポンと肩と叩くのが鉄則だ。
「何であんたが知ってんのよ」
それはオレが朝倉に、「ネギに張り付いてれば面白いものが見れる」って言ったからさ。
言わなくても朝倉がネギを追いかけることにはなっていたが念のためだぜ。
「おーい、ネギ先生ー」
噂をすれば当の本人、朝倉が笑いながらやってきた。
その肩にはカモを乗せている。
「カモに買収されたか朝倉」
「ん? カモっちのことわかるってことは仁に士郎も魔法使いの仲間なの?」
「そんなとこだ。
それより証拠写真全部ネギに渡しに来たんだろ、早く出してやれ」
「そうそう、私もネギ先生に協力する立場になったからね。はいコレ」
朝倉が懐から今まで集めた写真を取り出し、ネギに渡す。
受け取ったネギは泣いて喜んでるな。
魔法がバレたら強制送還とオコジョに変身の刑だからな、当たり前か。
「オレは朝倉とカモに用があるから、またな」
皆に手を振り、朝倉をつれてこの場を去る。
これからすることは士郎がいたら話にならんから士郎も置いてきたぜ。
「――朝倉、作戦会議室に連れて行け」
「えっ……」
「もし拒否でもしたら、
風呂場で撮ったお前がネギに迫っていた写真を学園全体に『つい』ばら撒くことになるかもなぁ」
言葉の一部分を強調し、
ポケットの中から写真を数枚取り出して裏面の状態で朝倉に見せる。
朝倉の顔色が青くなったな。
写真は朝倉の思っているような物ではなく、
別荘でたまにエヴァ達と士郎が闘ってる時に撮った士郎の写真だ。
ウム、我ながら最高の出来で撮れてるぜ。
「異論はないようだな、じゃぁ早速行こうぜ」
「随分と本格的にやるつもりなんだな」
着いた場所はお手洗い場。
周りには放送局セットみたいなのが置いてある。
旅行バッグにはこういう物ばっかり入れてきたのかな。
「それで、何をしようとしてたんだ?」
「……それは、3−Aで大きなイベント―――」
「――フフフ、カモは何をそんなに怯えてるんだ?」
オレは朝倉がイベントの全容を言う前に遮り、
朝倉の肩の上でガタガタ震えた白い小動物に殺気の篭った視線を送る。
「……まぁ聞かずとも、外にでかい魔方陣が書いていたところを見る限り、
ネギ、士郎、それにオレとキスしたら仮契約成立されて、それで金稼ぎっていったところかね」
「ゆ、許してくだせぇ仁の旦那!
ちょっとした出来心でやったことなんでさ〜……」
カモが土下座し、泣いて詫びる。
その反応だと本当にオレと士郎までに仮契約させようとしていたようだ。
なんにでもカマをかけるもんだな。
「オレに隠し事は通じん。まぁ今回は許してやろうじゃないか」
「恩に切ります、仁の旦那」
「――その代わり指揮はオレに執らせてもらおう」
当然二人はイヤとは言えないようだ。
それじゃぁやらせてもらうとしましょうか。
「ケケケ、独裁政治ッテカ」
「フッ、では朝倉とカモはビデオの配置、並びにクラスメイトの参加。
内容は……賭けに参加する奴は参加不可、2人1組なら何人でも参加可能って言ってこい。
それと、この紙に書いている物を用意して紙に書いてる通りにしてこい、遅れるなよ」
紙を朝倉に渡し、朝倉達はキチっとオレに敬礼をして出て行った。
では、今日は遊ぶとしましょうかね。
side―朝倉和美―
お手洗い場を出て、さっきの事を思い出して一言とため息。
仁の麻帆良での評判は何者にも捕らわれない自由気ままな男。
頭にはいつもチャチャゼロを乗せて歩いている。
そして3−Aでは何かしら皆の弱みを握ってると噂されている。
特に一番弱みを握られているのが士郎という情報もある。
あと女子中にいるのに仁も士郎も変な目で見られないというのが不思議なところだ。
「俺っちも前々からこっぴどくやられてたんでさ」
「カモっちは自業自得のような気がするけどね。
とにかく、早く仁に言われたことやらないとひどい目にあいそう……ドンドン行くよ」
まずはクラスメイトに参加要請をし、
その後にカメラを死角がないように設置するのと平行して紙に書いてることをするのがいいかな。
よし、報道部の足の強さの見せ所、パパラッチのあだ名は伊達じゃないよ。
それにしてもウチのクラスメイトはうるさいねぇ。
もう就寝時間なのに騒ぎ声があっちこっちに聞こえるよ。
おっと、新田に瀬流彦先生にしずな先生だ。
んん? これから朝まで自分の部屋から退出禁止、
もし退出して見つかった場合はロビーで正座ってか。
これだけ声が辺りに響いてると当たり前っていったらその通りだね。
「くっくっく……怒られてやんの………」
新田達が去ってから私はみんなの前に出る。
みんなは浴衣来てるけど私は着てないよ、動きにくいからね。
「あ、朝倉さん!? 今までどこに行ってましたの? ひきょーものー!」
ムキーっといいんちょが私に言ってくるが、
自分達が悪いので私はひきょう者って訳じゃないと思うんだけど……
「……まあまあ、そんなことより私から提案があるのよ。
このまま夜が終わるのもったいないじゃない?
っと言う事で一丁3−Aで派手なゲームして遊ばない?」
みんなは賛否両論。
特にいいんちょが断固反対してる。
しかし、次の私の言葉を聞くとどうかな……?
「どんなゲームなのかと言うと、名付けて、
『くちびる争奪! ネギ先生と士郎とラブラブキッス大作戦!』
二人のマネージャーと連絡はとってあるから心配ないよ」
「ええーー!? ネギ君に士郎君とキス?」
「大声出すなって、新田がまた来るぞ。――とにかくルール説明するよ」
ルールは、まず仁が言ってたメンバーの決め方。
立候補した人は新田先生の監視をくぐり、目標のネギ先生と士郎の唇をゲット。
参加したメンバー同士の妨害は可能、ただし枕を使った攻撃のみ。
上位入賞者には豪華賞品プレゼント。
なお、新田先生に見つかった者は他言無用で朝まで正座。
「きびしっ! 見つかった人は助けないアルか?」
「豪華賞品はなにー?」
「見つかった人は気にしない、死して屍拾うものなし。
豪華賞品はひみつ、でも期待してていいと思うよ」
「朝倉さん……」
うっ、いいんちょがゆらりと私に向かって近づいてくる。
ネギ先生のこともあるから、大丈夫だと思ったんだけどまずったかな。
「やりましょう。クラス委員長として公認しますわ」
私の肩を掴んでいいんちょが言う。
呼吸を荒くさせ顔も真っ赤にしてる、かなり興奮してるよ……
「よーし、みんな賛成したことだし、参加するメンバーは10時半まで私に報告。
11時からゲーム開始だよ!」
「おー!!」
次はカメラの設置と紙に書いてることだね。
早速行かないと時間いっぱいになりそうだ。
じゃぁ走って行くとしますか――
「あれ? 士郎君はターゲットにされてるのに仁君はどうなってるの?」
「あ……いや……その、ね。
……見つかったら仁の方もオッケーってことにしようか。
もちろん仁相手でも豪華賞品はもらえるよ」
「――おいおい、姉さん。良いのかい? そんな勝手なことして」
「――私達とずっと同じ場所にいることになるんだから大丈夫でしょ」
つい言ってしまったが心配ないはず。
ていうか、カモっちどこから隠れて出てきてるんの、エロいよアンタ。
……とにかくこの場を離れないとね。
「確かに姉さんの言う通りだぜ。
それに俺っち達の目的はこの仮契約カードを大量にゲットすること。
万が一、仁の旦那にも被害がこうむった場合は何とかごまかして行くしかないぜ」
カモっちがカードを何処からか取り出す。
そのカードにはカッコよく写ってるアスナのカードが一枚、
変なアスナとこのかのカードが二枚。
「これを沢山集めるといいのね?」
「そう! カード一枚につき五万オコジョ$もうかるから……百万長者になれるぜ姉さん!!」
フフフフ、これは張り切っちゃうね。
ついでにトトカルチョも実施して、さらにお金稼ごうかな。
これはおかしくて笑いがもれちゃうわ。
「さて、行くよカモっち!」
「任務完了だよ〜」
「うむ、ご苦労だ」
本拠地に戻って来ると仁がノートを見ながらパソコンに何かを打っていた。
指の動きがすごいね……滑らかな動きかつ速い。
打ってたのは……詞かな? ん……歌詞って書いてあるね。
「フッ、人のプライベートは見るもんじゃない。それでどんな感じになったんだ?」
「クラスメイトの誘導、カメラの設置、ネギ先生の部屋での待機、参加メンバーの確認。
紙に書いてあるものは一番難しかったけど全て上手くこなしてきたつもりだよ。これがメンバー表ね」
私は仁にイベントに参加したメンバー表を手渡す。
受け取った仁が悪な笑みになってるよ……こりゃ恐ろしいね。
「ほぅ、一班が双子、二班がくーふぇと楓、三班が委員長とちぅ、
四班がゆーなとまき絵、五班が本屋ちゃんとゆえ。
ここまでは各班から出てきたようだな。
……そして六班にパルとこのかか……フフフフフ」
「あ、そうだ。仁は特等席で見てていいから、実況は私に任せてね。
あと、トトカルチョもあるからその分け前もあげるし、賭けてもいいよ」
「……そういう事なら大人しく見てるか。あんまり命令しすぎても悪いしな」
危ない危ない。
もし仁が実況したとなったらここに何人か来るかもしれないからね。
そうなったとしたら私の寿命が縮むことになる。
「もう時間だし、イベントを早速開始しますか」
「フフフ」
「ケケケ」
「姉さん、俺っちあんまりこの空間に居たくないんだけど……」
それは私だってそうだよ……
けどここで逃げたら私達の計画が全て台無しになるからね。
ここは必死に堪えて頑張っていくしかない。
私はクラスメイトに流すカメラの映像をセットして、マイクの電源をオンにする。
『11時になりました。それでは「ラブラブキッス大作戦」いよいよスタート!』