side―衛宮士郎―


仁が朝倉さんを連れて行ってしまったな。
無理やり連れてったという感じが出てたような……嫌な予感がするぞ。

「よ、よかった〜問題が一つ減ったです」

ネギ君が泣いて喜び、それを見て神楽坂さんがネギ君の頭を撫でている。
見るからに微笑ましい状況だ。
ふむ、一件落着のようだからとりあえず部屋に一度戻ろうか。

「じゃぁ俺は部屋に戻ることにする。
仁は手助けはするなとは言ってたが、出来る限り俺も手伝うから気軽に声をかけてくれ」

「ありがとうございます士郎さん」

「当然のことだからお礼なんかしなくてもいいんだけどな」

ネギ君と神楽坂さん、桜咲さんに手を振ってこの場を去る。
――そういえば喉が渇いたな。
帰りに何か飲み物を買ってから部屋に行こうか。
買うものは風呂上がりの定番が良いかなぁ。

 

 

俺は牛乳瓶片手に部屋に戻った。
少し時間がかかったから仁とチャチャゼロは部屋に戻ってるとは思ったが見当たらない。
果たして何処で何をやってるのか……む? テーブルの上にメモが置いてある。
これは多分、仁が俺宛に書いてったものだろうな?

『士郎へ、ネギ達のパトロールに付き合ってもいいが出来るだけ部屋に居ろ、そして外には出るな。by仁
ケケケ、出タラ後デ痛イメニ会ウカラナ。忘レンナヨ。byチャチャゼロ』

……チャチャゼロの部分も仁が書いたんだろうが、
何故カタカナで書くんだ……片言で喋るからか?
しょうがない、メモの通り少し部屋に居て瞑想でもしとくか。

 

 

――interlude――


『修学旅行特別企画! くちびる争奪! 修学旅行でネギ先生と士郎とラブラブキッス大作戦!』

朝倉の一声と同時にイベントが開始。
3−Aの各部屋のテレビをつけると設置したカメラにより、それぞれの班の行動の映像が流れている。


「あぶぶぶ……お姉ちゃん正座いやです〜」

「大丈夫だって僕らはかえで姉から教わってる秘密の忍術があるだろ」

一班、鳴滝姉妹。
姉の風香の方は楓から習った忍術があるから大丈夫とは言っいるが、
その楓も参加しているので当たれば大丈夫という訳にはいかない。
妹の史伽はそれを指摘しているのだが風香は気にせずに目的地目指し進んでいく。


「標的はネギ坊主、しろーそれに見つけれれば、じんとキスアルか。けどワタシ、ファーストキスアルよ〜」

「ん〜、ネギ坊主は楽だと思うでござるが、残り二人は中々厳しそうでござるね」

二班、楓、古菲。
今回参加してるメンバーの中では最強の二人組だろう。
キス目当てではなく、単に戦いたい、面白そうだから参加してみたという二人だ。


「くっ、何で私が……別に他の奴でも良かったんじゃねーのか?
それにキスっていってたがマズいだろうが。
ちゃんと相手に許可とって朝倉はやってんのかよ。
……別に私はキスしたいって訳じゃねーが…………」

「つべこべ言わず援護してくださいな。――ネギ先生の唇は私が死守します!」

三班、千雨、委員長。
二人のチームワークは全くなし。
千雨はやる気がないようなあるような曖昧な感じだ。
委員長はネギ以外は興味なし。
ただ千雨に手伝ってもらい他の参加者を出し抜きたい思いである。


「よーし、絶対勝つぞー!」

「エヘヘー、ネギ君とキスかー。それに士郎君と……うーん、さすがに恥ずかしいかな」

四班、裕奈、まき絵。
裕奈は勝負事が好きなために参加、貰える賞品は全てもらっておきたいという所だろう。
まき絵は困った顔をして先のことを考え悩んでいる状態だ。


「ゆ、ゆ、ゆえ〜」

「全くウチのクラスはアホばかりなんですから……
せっかくのどかがネギ先生に告白した時にこんなアホなイベントを……
参加してるメンバーの内、何人かは衛宮さんと防人さんに行くかもしれませんが、
このイベントは軽率すぎるです」

五班、のどか、夕映。
積極的ではないのどかはこういったイベントは好まないのだが、
夕映がのどかはネギ先生を選んで間違いはない、だからその想いを通しなさいと諭し参加。
戦力的には不安だが、想いの強さは一級、故にこの二人はある意味他のメンバーの強敵となるだろう。


「まさかこのかがこんなイベント参加したいって言い出すとは思わなかったよ」

「なはは、士郎くんとキスしたら良い物もらえるやて〜。それに……」

六班、ハルナ、木乃香。
ハルナは木乃香の友人のために参加したようだ。
他の参加メンバーよりやる気はそれほど感じられない。
そして今回、木乃香が一番のダークホースと言えるだろう。
その瞳には炎を宿しているように見える。


 各班は当然別々の位置からスタート。
各々、枕を両手に装備し、これより3−Aの静かで騒がしいイベントが始まる。

 

――interlude out――

 

  side―衛宮士郎―


「ハッ! 旅館全体に黒い雰囲気が満ちている!」

俺は瞑想を止め、立ち上がる。
黒いとは言っても殺意、敵意があるものではない。
仁がいつも放つような感じだ。嫌な予感はこの事を示していたのか!

「まさか……仁の仕業!?
ずっと帰って来ないからおかしいとは思ったが……とにかく窓から逃げるのが無難か」

窓に手をかけ、開け――れない。鍵が壊れている?
いつの間にこんな細工を仕込んどいたんだ仁の奴。
……あいつは、本当に嫌な技能を持っているな。
今は工具は持っていないし、投影するのも魔力を無駄に消費する……
しょうがない、入り口から外に出よう。

入り口から顔を覗かせ、外を見る。
俺達の部屋のすぐ側にはネギ君の部屋がある。
しかしどの部屋に逃げ込んでも無意味、早く外に出ろとの警報が先ほどから頭の中で響いている。

非常口から出るか?
いや、直感がそちらも駄目と言っている。
というか何処に逃げても無駄な感じがする。
そして仁とチャチャゼロに見張られてるような気がするぞ。

「慌てるな、この身は剣で出来ている……ここは正面から一気に外に出る!」

俺はこの黒い空気が漂う空間から一刻も早く逃れるために駆ける。
……さて、手前の階段と奥にある階段、どちらを使うか……
よし、奥の階段を使おうか。

慎重に進み、その先には――

 

――明石さん、佐々木さん、委員長さん、長谷川さん、長瀬さん、クーちゃんが枕を使い戦ってる姿があった。

 

「お、士郎君発見!」

「士郎殿でござるか!」

何故感知できなかったんだ……
むっ、戦ってた数人が俺目掛けてやってくるぞ。
何が狙いなんだ!? いや、そんなこと考えてるより、このままでは危ない。
ここは来た道を戻るしかないっ。

余り得意ではないが体に強化を瞬時に施し、この場を撤退。
奥という選択を間違えたため今度は自分達の部屋の手前にあった階段を使用。

さっきまで居た所は三階、このまま一階まで降りたいところだが、
俺は二階の廊下を走り、奥の階段を使うことにした。
何故なら一階に行く階段にトラップが仕掛けてあったからだ。
手動式のトラップのようだったが、これも仁の仕業に違いない。
…………どうにか撒くことが出来たか?

「フフ、士郎殿はまだ瞬動は出来ないようでござるな。
他の人は撒けてもこの短くて狭い通路なら拙者からは逃れられないでござる」

ニンニンと言ってる長瀬さんに回りこまれた。
瞬動というと確か気や魔力を使って一瞬にして数メートル先に移動する技だって仁が言ってたな。
俺はいくら頑張っても使えなさそうだが……とにかく長瀬さん一人なら何とか出来ないこともない。
――他には来てないようだ、女子同士で戦闘しているのかな。

「……みんな何をやってるんだ?」

「士郎殿は聞いてなかったでござるか。
皆はネギ坊主と士郎殿、仁殿の……唇を狙ってるでござるよ」

「何!? ……それに仁も標的になってるのか。
ということはこの変なイベントや罠を仁が仕組んだことではないことに……」

「考えてるところ悪いでござるが、行くでござるよ」

「っ、―――投影、開始トレース・オン

両手に持っていた枕を投げ捨て、くないを取り出し迫る長瀬さんに干将・莫耶で応戦。
一合打ち合う事に長瀬さんのくないにヒビが入る。

丁度長瀬さんの両手のくないと五合ずつ打ち合うと、くないが砕け長瀬さんが無手となる。

「通らせてもらうぞ、長瀬さん」

「あっ! 士郎殿の後ろに仁殿がいるでござる!」

「仁!? ――ゴフっ」

振り向く先には仁はいなく、代わりに物凄い速さの枕が飛んできた。
仁という単語を聞いたせいか焦ってしまい反応が遅れ、俺の顔面に枕は直撃し、
干渉・莫耶を手から落として、俺は床に倒れ伏した。

「にょほほ、しろー討ち取ったアル〜」

「古、どうするでござるか? このまま……」

目が痛くてすぐには開けられない。
クーちゃんと長瀬さんの楽しそうな声が近くで聞こえてくるのだけはわかる。
仁は自業自得だから違うとして、何で俺は何もしてないのにひどい目に会うんだ……
いや
――――

――昔のセイバーの稽古に比べたらこれぐらいっ!」

痛みが止んだ目を開き、屈んだ状態になると同時に両手でクーちゃんと長瀬さんのそれぞれの足を払う。
見事に二人は転倒し、側にあった枕を二人に叩き込んでから俺は逃げる! 
こうでもしないとこの二人からは逃れられないからな。

俺が居た場所は降りてきた階段と目標の階段の中間の辺り。
外に出るために全速力で目的地まで走る。
そういえば、さっきの戦闘の際に新田先生の声が聞こえたような気がしたな。

「「びぇ〜〜ん!」」

「千雨ちゃんに裕奈が捕まったえ〜」

「鬼の新田……これは慎重に行かないといけないわね。
さすがに朝まで正座は嫌だし」

一階の階段側の壁からロビーを覗き込む枕を抱えた二人を発見。

 ――――危険、危険、逃げなければ危険だ。
頭に引き返せとの警告が響くがここを通らなければ外に出ることは出来ない。
どうすれば最善か……

「ん? お、衛宮がいるよ」

少しの間、考えている内に早乙女さんに気づかれてしまった。
早乙女さんの目は先ほどから見ている獲物を狩るような目だ。
だが、このかちゃんならここを通してくれるかもしれないよな。

「できれば外に出たいんだが」

「ほら、このか。ここはチャンスだよ、言っちゃえって」

俺の外に出てもいいかと言う質問は簡単に流される。
それとチャンスってことはやはり
――

「あんな、士郎くん……その……ウチと……チ、チューしてもらえん?」

このかちゃんが恥ずかしそうにしながら上目遣いで言ってくる。
良心を抉り取られる感じでかなりつらい……

「……俺達は付き合ってる訳じゃないし、そういうのは良くないと思うぞ」

「じゃぁ衛宮がこのかと付き合ったら別に良いってこと?」

早乙女さん、何故その結論が出てくる。
いや、俺の言ったことを考えるとそれが当たり前の結論か。
しかしこれは非常にまずい状態だ。

「ハルナ〜、ウチやっぱりだめやって〜」

「頑張るんだよこのか、のどかだって言ったんだから」

二人はコソコソと話し合っていてこちらまで聞こえない。
この隙にここから撤退するのが一番、来た道を戻るか。

「あ、コラ待て衛宮!」

逃げてる時に待てと言われて止まるやつはそうそういない。
それは俺も例外ではなく気にせず走り続ける。
何処に逃げれば……女子の部屋に入る訳には行かないから
――

 

 

――誰とも会わず、無事に逃げ場を確保できた。
現在地は宴会場、みんなが食事をする場所だ。
テーブルや座布団はそのままの状態になっている。

標的がネギ君と仁に集中して俺の方には来ないってところかな。
このまま何も起きずに時間が進めばいいんだが……

「ネギ先生ー、いらっしゃいませんかー?」

あれは……委員長さんか、思い通りにはいかないようだな。
だが委員長さんはネギ君狙いのはず、部屋の隅に居る俺が見つかってもきっと大丈夫だ。
というより、今のうちにここから外に出ればいいんじゃないか。

「チャチャゼロが言うにはここに衛宮が居るんだってさ。
お手洗い場の前にトランシーバー、しかもそれが目標の居場所を教えてくれるなんて私達ラッキーね」

「ハルナ〜……」

さっき出合ったばかりの二人組みまで来てしまった。
早乙女さんは片手にトランシーバーを持っている。

……そういえばビデオカメラが何台も設置されていたな。
それで誰かが俺を監視して居場所を教えているのか?
あと、トランシーバーは何処かで拾ったと言ってたが……聞き取れなかったな。

「このかさんにハルナさん! ネギ先生の唇は渡しませんわ!」

「そんなに叫ぶなっていいんちょ。私達はネギ君じゃなくて衛宮を探しに来ただけだよ」

「あら、衛宮さんをでしたか……二人共頑張って下さいな。私は心から応援していますわ」

おほほほ、と笑う委員長さん。
委員長さんが話す時、たまに花が見えるのは何故だ。
……そんなこと考えてるより、ここからの脱出だよな。
外に出ようか、ってまたトラップがあるよ。

――――これは仁も狙われてるとは言え、これほど仕掛けるのは仁しかいない。
ということは主催者はやはり仁で何かしらの理由で自分も標的にされたため安全な場所に隠れているようだな。
それに早乙女さんが持ってるトランシーバーから教えてるのも全て仁か。
ふふ、仁の居る場所に行けば俺も安心、ついでに天誅を加えることができる。

――いいんちょさん」

む? ネギ君も来たようだ。
……いや、あのネギ君の魔力の通り方は式紙の類か。

「キスしてもいいでしょうか?」

「え……キ、キスと聞こえましたが……」

「はい、そうです」

随分と積極的な式紙だな。
女子三人ともいつもの調子のネギ君でないためか呆然としてるぞ。
出て行くのは気が引けるがここは対処してあげたほうがいいか。

―――ハッ!」

ネギ君の式紙まで間合いを零にし、腹部に一撃を入れる。
受けた式紙はうめき声を上げ、委員長さんによたれかかった。

「あ……」

「士郎くん!」

「え、衛宮さん! ネギ先生に何を!」

「心配ない、そいつは偽者だ」

――――ヌギでした」

俺が指していた式紙はピースサインをして……爆発する!?
まずい、委員長さんが式紙を抱えてる
――

……間に合わなかった。
至近距離で委員長さんに爆発が直撃し周りに白い霧を放つ。
だが爆発はたいして大きいものではなく、お遊び程度の威力で、
命の危険といったものは別段ないようだ。

「はぅ〜〜〜」

「なっ―――

委員長さんが目を廻して俺の方に倒れてきて、押し倒されてしまった。
今のは危なかった……もう少しで委員長さんとキスするところだったぞ。
何とか委員長さんの口に手を当ててギリギリセーフだけどな。

「いいんちょのアホー!」

早乙女さん叫び委員長さんを蹴飛ばす。
追い討ちだな……そして今のはクリーンヒット。
おかげで委員長が完全に気絶したようだぞ。

「し、士郎くん……もうダメや〜〜〜〜」

「あっ、待ってこのかーっ!」

このかちゃんと早乙女さんが去ってしまった。
…………あれ? なんか色々失ったような気がする……

……これは全て仁のせいだよな。うん、その通りのはずだ。
早乙女さんはトランシーバー置いてったようだ。
では早速使わせてもらうとしようか。

 

「仁、聞いているんだろ? ああ、この心の中にあるものはすぐに清算させてもらうことにしよう」

 

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