side―防人 仁―


オレは外からイベントを観察。
女子達は俺の知ってる範囲で動いているし、例外もあったが予想の範疇だ

士郎の方はイベント開始からすぐに部屋を出て行った。
メモ通り部屋に居ようが居まいがそんなのは関係ない。
部屋に留まれば女子に囲まれ、部屋から出ても同じことになる。
イベント前に部屋から出たとしてもチャチャゼロの主に口でお仕置きがいく。
故に我が策に抜かりはなかった……抜かりはなかったのだが、

『仁、聞いているんだろ? ああ、この心の中にあるものはすぐに清算させてもらうことにしよう』

――――や、やばい。士郎がアーチャー化しかけてる」

士郎がトランシーバーから、お前をヌッコロって感じに言ってきた。
面白いものは沢山見れたけど、これでは代償が大きすぎだ。
アーチャー化した士郎は手に負えるものじゃないという事は体と心に深く刻みこまれている。
何故アーチャーっぽくなるのは原因不明だ。

「ケケケ、ソレホドノ冷ヤ汗ヲ流シタ仁ハ久シブリニ見タナ。オレハ連レテ行カナイデ一人デ逃ゲロヨ」

「それはわかってる。チャチャゼロを守りきれると言い切れんからな」

このままここに居たら確実にバッドエンドだ。
今すぐ最適な策を出すんだオレ!

「じ、仁、もしかしてここから出るつもり?」

「ああ、このまま居たらオレの命が危ういからな」

朝倉とカモが少々慌ててる気がするけどそれどころじゃない。
今、オレが装備しているものはいつも持ち歩いてるもの、
トラップ発動のスイッチ、それとナイフが三十本ほど。
この装備でアーチャー化士郎とバトルとは絶体絶命の大ピンチ。
装備が整っていてもピンチなのは変わりないと思っては負けだぜ。

「ネギの式紙がロビーに集まって、新田を蹴散らしたところか。よし、行くぜ」

オレはモニターを確認してこの危機を抜け出すために出て行った。

 

 

 

オレが来た場所は旅館のロビー。
正座しているちぅとゆーな、伸びてる楓とくーふぇと新田のおやっさんが居るぜ。

辺りを見回してみるがロビーのスタッフは見当たらない。
新田のおやっさんが代わりに受け持ってたのかね。
麻帆良中の奴等しかいないようだから別にそれでもいいんだろうがな。

「ふっ、覚悟はできたようだな防人仁」

アーチャー化士郎、もといダーク士郎がロビーに降臨した。
ちぅとゆーなも居るから何とか理性が戻ると思ったが……黒いままのようだな。
最善と思っていたことは起きないか。

「ちぅ、ゆーな、そこら辺に転がってる奴を連れて部屋に戻ってくれ。
新田のおやっさんにはオレから後で説明しとくから正座の件は心配するな」

二人は楓とくーふぇをそれぞれ抱えて喜んで帰ってくれる。
正座をずっとしてるって辛いしツマランからなぁ。
ちなみにおやっさんは端っこに寄せられただけで放置だ。

……士郎は二人が去るのは待ってくれてるな。
まずはビデオカメラをどうにかしないといけないか。

ロビーを撮るビデオカメラの配置を把握してナイフを構える。
ナイフはじぃさんからもらった『初心者でも楽々身に付けられる暗器術』より仕込みを覚えて所持してるぜ。
いつもクナイを隠し持ってる楓に教えてもらってもよかったんだが、こちらは交換条件が厳しそうなのでパスだ。

――食らえ士郎!」

女子がロビーから完全に去ったと同時にビデオカメラを破壊し、両手でナイフを計八本を士郎に向けて放つ。
しかしナイフは士郎が投影した干将・莫耶によって簡単に叩き落とされる。
叩き落した士郎は――そのまま突進してくる!?

来れアデアット!」

カラドボルクを取り出し、士郎が陰陽の剣でオレの両肩を狙い振り下ろした攻撃を防ぐ。
現状は鍔迫り合い、今の一撃は楽に防ぐことができるものだったな。
……士郎の嫌な笑みが見えるぜ。

「この一撃は会話する為にか? しかもその表情は殺る気満々じゃねぇかコノヤロウ」

「何故そのように取れるのか私には理解ができないな。
それに、私はそちらが殺る気のようだと取れたのだが」

士郎が両腕に力を込めオレを弾き、続けざまに四方八方から斬撃を繰り出す。
オレは士郎の連撃を後退しつつ凌ぐが、きつい、いつもの鍛練以上にきつい。
このままでは果てしなくヤバイぜ。

「ッ、ハッ――

火事場の何とやらで一瞬だが反撃に転じる隙が見えた。
渾身の力を込めてカラドボルクを縦に振るう。
士郎に簡単に回避されたが間合いが空いたぜ!

「ちゃぶだい返しっ!」

側にあった中々の重量がある洒落た黒い土台の白いテーブルに手を当て、
それを士郎の頭部を目掛け払い飛ばす。
士郎を気絶させれればオレの勝ち、よって使える物は何でも使用だ。

「甘いっ!」

テーブルはバラバラに解体され、破片は勢いを衰えずに後方に飛んでいく。
士郎の言う通り、ちゃぶだいを放っただけじゃあ甘いことはわかってたぜ。

「「な――っ!」」

二人の声がロビーに響く。
一方は士郎。オレはテーブルを解体される時にナイフを18本士郎の眼前に迫るようにして投げた。
少々オレを侮っていたせいと冷静ではない状態なので予測できなく驚いたのだろう。

そしてもう一方はオレ。破片の飛んでいく方向に人が現れ、
しかもそれに気づいてないようなので焦りの声を出した。
本当は士郎に一撃を加えたかったとこなのだが、
その選択を取り、出てきた人は見捨てるというバカな考えはない。

 

 

「……ガッ」

「じ、仁さん……んっ……」

 

 

 

  side―アルベール・カモミール―


「やばいっすよ、姉さん!」

「仁ならきっと大丈夫だよ……きっと」

「ケケケ、女子ニ囲マレル前ニ士郎ニ殺サレソウダガナ」

仁の旦那が俺っち達の本拠地から出ていっちまった。
旦那は自分は狙われてないと思ってるはず。
もし旦那に被害が出ちまったら俺っち達は……

「仁はロビーに行ったようね――あっ! ロビーのカメラ壊された!」

姉さんが悲痛な面持ちをして叫ぶ。
モニターを見るとロビー部分が全て真っ黒になっていた。
士郎の旦那もチラッと見えたから、一般人には見せることができないことをやるってことか。

「姉さん、ここはとんずらが一番じゃぁ」

「そんなことしてもすぐに捕まるでしょうが!」

「モウ、オ前等ダメダナ」

この後をどう対処すればよいのか、という事を俺っちと姉さんはあたふたしつつも考える。
このままじゃ仁の旦那がいつも連れているチャチャゼロの言う通りかも知れない。

 

 

 

あたふたしてから数分後、ついに心配していた出来事が発生してしまった。

「あ、姉さん。仮契約成立っす……」

「まさかっ!」

「そのまさかで仁の旦那が仮契約しちまったすよ!」

どのような経緯で仮契約されたかは予想できないっすが、
とにかく生み出されたカードを姉さんに渡す。
そのカードはイベント参加者のものではなく、

「え……せ、刹那さん!?」

神鳴流の姉さんのカードであった。
この姉さんと仁の旦那が仮契約したことは、
別に俺っち達に責任はないような気がするけど、
どうなるかはわからないっすよね……

「ケケケケケ」

俺っちと報道部の姉さんは沈黙したままの状態により、
チャチャゼロの楽しそうな笑い声だけがこの部屋に響いていた。

 

 

 

 

  side―防人 仁―


「す、すすすすすまん!」

「い、いえ……」

 刹那を引き剥がし、すぐさま土下座をして言う。

テーブルが解体された悪いタイミングでパトロールに行ってたであろう刹那とアスナが旅館に現れ、
内側に居た刹那に向けて破片は飛んでいったのだが、
ギリギリのところでオレが間に入り込み、破片はオレの後頭部と背中に直撃。
一瞬だが気を失ってバランスを崩してしまい、その後は……

「仁、桜咲さんに何て事を!」

見上げるとアスナが今まで見た中で最高の殺意が篭った拳をオレに振るおうとしている。
さっきまでの戦いの時よりヤバイ気配がその拳から感じ取れるぞ。

「待てアスナ! いや、オレが悪いんだが……士郎ッ――

助けを求めるために士郎の居た所に振り向くが、すでに求めていた人物は居なく、
代わりに散らばったナイフとA4判ほどの紙が置いてあり、紙には達筆な字で【天誅】と書かれていた。
士郎さんはどこの幕末の志士だよ。

あの文字から察するにはアスナに殴られるのを受け入れろかな。
確かに全面的に悪いのはオレ、天誅を受けるのは当然の結果か。

「神楽坂さん、仁さんは私を助けて下さったようですから、そのぐらいで」

「うーん、桜咲さんがそう言うならしょうがないか」

刹那は周りに落ちているテーブルの残骸を一つ拾ってアスナに言う。
その言葉でアスナは少し不満がある顔をしているがオレに攻撃を加えることを止めてくれた。
被害を受けた本人である刹那がオレを救う形となっちまったが、いいのかね……

「恩に切る。……オレは反省の意も込めて頭を冷やしてくるわ」

カラドボルクを収納し、周りに散らばっているものを集め、
取り残されてまだ伸びている新田のおやっさんを担ぐ。
おやっさんは先生方の部屋に運ばないとな。

「刹那……すまん」

刹那に背を向けた状態でもう一度詫びてからロビーを離れた。

 

 

 

 

 

 

「新田のおやっさんは起きないままだったが、
他の先生方にはちゃんと説明したし、イベントも終わった。
オレらのクラスは咎められることはないだろう」

オレができることをやった上で、夜風に当たるために屋根に上がり、
座って星を見ながら今回のできごとの反省。
ええ、大変なことをしてしまったよ。
こういう役は士郎かネギのはずなのにさ。

「あんな結果になってしまったが、女の子に傷を負わせなかったことよりは良いだろう。
それに、あの間に入り込んだのは何時もの仁じゃ考えられない動きだったな」

「……士郎とチャチャゼロか」

声のする方に振り向くと頭にチャチャゼロを乗せた士郎が居た。
喋り方と雰囲気がロビーでの時とは全く違うからもう怒ってないようだ。
まだ痛めつけるつもりだったんなら、今のオレの状態だと一秒もかからず沈んじまうぜ。

「仁ガ仮契約シタ後ニ士郎ガ来テナ。
アノ二人、特ニアルベールガコッ酷ク搾ラレテタゼ」

「カモの奴は前科があるからあれぐらいが当然だ。
そうだ、あの後ネギ君と宮崎さんも仮契約したようだぞ」

カモと朝倉のことはどうでもいいとして、
士郎が言った仮契約の前の「も」という単語がオレの心にひどく響くぜ。
「も」ってことは仮契約しちまったのかな。元は此処の世界の住人じゃないのにさ。

「これが仮契約のカードのようだ」

「アルベールガ倒レル間際ニ士郎ニ渡シテタナ」

オレの隣に士郎達が座り、仮契約カードを渡してきた。
普通に渡してくるとは、さらにブルーになっちまうぜ……
ともかく仮契約は異世界から来たということは関係ないようだな。

カードに描かれているのは翼を生やし、右手に夕凪を構えている刹那。
オレは烏族のハーフだってすぐわかるんだが、
周りからみたら翼はただの衣装に見えるのかなぁ。
それとラテン語だったか? それで翼ある剣士とも書いてあるがこれもどう思われるのかね。
オレみたいに知識がないとハーフだとわからないって思うのがオレの考えだけどな。
まぁ、ほとんどの奴等が読めないとも思うし、士郎もなんとも思ってないみたいだから大丈夫か。

それにしてもカモはよく士郎に渡した。
オコジョ妖精のプライドなのか?

「…………なぁ、仁」

「何だ?」

急に辛気くさくなった声で士郎が訪ねてきた。
士郎の方を見やると表情もそんな感じになってる。

「お前は元の世界に帰りたいとは思わないのか?」

「……急だな」

「仁は元々は裏の世界とは関係のなかった一般人、それに魔法とは無縁の世界だろ。
修学旅行3日目、もう今日の話だが色々と危険なことが起きるっていってたよな?
それにフェイトって奴に命を狙われてるし、家族の事だって」

「フッ、心配してくれてるのか、士郎らしいな」

士郎の続く言葉を遮るようにして言う。
鍛え上げてくれた本人なのにそんな事を言うとはな。
前も思ってた気がするが士郎は思ってた以上に優しく、甘いねぇ。
フム、まだ変な表情のままだな――少し話すことにしようか。

「赤ん坊の時って言ってたかな、オレはとある優しいばあちゃんに拾われたんだ。
自分が拾われたってことはすぐにわかった。苗字がばあちゃんと全く違ってたからな。 
名前はオレが拾われた時に紙が側にあって決めたそうだ。
戸籍もちゃんとあったおかげでそのばあちゃんと二人暮らしを普通にしてたんだが……
……オレが15歳の時に亡くなったんだ。そんな訳で元の世界には家族はいなし、未練もない。
それに元の両親を探す気もない。オカシイ考えって思われるかもしれないけどな」

「……そうだったのか……悪い」

「別にいい、つまんない話だからみんなに話してなかったんだしさ。
――こちらの世界に入ったからには相応の覚悟だってできてる。
それほど不安に思ってないってのが不思議なとこだ」

「そうか、それならもう俺から言うことは何もないな」

士郎が辛気くさい顔から苦笑いをした表情をして、
オレから視線を外し空を見上げる。
納得してくれたって感じだな。

「折角こっちに来て鍛錬も山積みにやったんだし、十分に楽しみたいからな」

「結局はそれか。いや、仁らしいな」

互いにフフッ、っと笑いあう。
ん? そういえば大人しいのが一人いるな。
その一人がいる士郎の頭の上に視線を当てる。

「随分と静かにしてたな、チャチャゼロ」

「仁ガソンナ表情スルナンテ珍シクテナ」

「オレの哀愁が漂った表情が良かったのかぁ」

「殺スゾ」

ドスの利いた声で返されたぜ。
チャチャゼロはからかった事はなかったが、
エヴァの別荘に戻った時が大変そうだからこの辺にしとこう。

 


「今日は忙しくなる。気を引き締めていかないとな」

 

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