side―防人 仁―


「仁! 朝だ、寝すぎだぞ!」

……あぁ、士郎か。
朝っぱらから大声出したら近所迷惑だぜ。

「屋根で寝ちまったようだな。体のあちこちが軋む」

チャチャゼロをからかった後、
士郎達は先に部屋に戻ったから、
一人で屋根上に居てそのまま〜かな。

む、日が思った以上に昇ってる。確かに寝すぎだ。
それに何か久々に夢を見ていた気がする。
屋根の上で環境が違うせいかなぁ。

――おっと、携帯のアラームの振動しっぱなしだぜ。
アラームの設定間違えちまったせいで寝坊しちまったのか。

アラームを止めるためにポケットに手を突っ込む。
取り出されたものは携帯と刹那のカード。
……現実って厳しいわ。

「いきなり泣くな、早く着替えて行くぞ」

士郎君、厳しいです。
しかも寝坊したってことは飯を食い損ねたってことだよな。
朝からいろいろとショッキングだぜ。
――――早く着替えるとしよう、士郎に怒られそうだ。

 

 

 

 

 

持ってきた私服に着替えを完了して旅館内を徘徊する。
士郎の方は今時の格好になってるから周りから見られても良いはずだが、
オレからすれば違和感ありすぎだぜ。
こっちに来てから士郎は……オレもだけど制服しか着てないから私服だったことがない。
何着もじぃさんからもらってあるから制服でもいいんだけどね。

服はいいとして、持ちもの方は歩くとき面倒なので、
最低限に抑えて鞄等の大きな荷物は持たない。
ノートもチェックは事前に終えたから置いてくぜ。

「ネギ君達が居るな」

昨日のイベント前にネギが泣いてた場所と同じ場所にネギ達が居た。
アスナがスカカードと成立カードを持って朝倉、ネギ、カモに説教してるとこだ。
会いにくい人が居るんだが、気にしすぎると悪いのかね。

「おはよう」

「あ、士郎さん、仁さん、チャチャゼロさん、おはようございます。わ〜、カッコいい服ですね〜」

「俺は選んでないんだけどな」

笑顔で士郎とネギが挨拶を交わす。
続いて他の者達も同じく挨拶を交わしていく。
しかしオレとカモは口を開いてはいない。
オレは気にしすぎると悪いとは思ったが、やはり気にしちまうな……

「ヒィッ! 士郎の旦那、もう拷問は――

「おや、何のことかな? アルベール・カモミール」

突然のカモの悲鳴に士郎が皮肉屋のアーチャー張りにとぼけたぜ。
内容は怖いから何も聞かない、というか聞けない。

「仁、元気ないけど大丈夫?」

「……アスナに気遣われるとはな」

「今失礼な事言われた気がしたけど」

ついダメなことを言ってしまったが気にするなと呟きアスナの不満は解消させとく。
アスナは置いといて、朝倉に聞くこと聞かないと。

「オレと刹那のことは誰にも言ってないだろうな?」

皆が話してる隙に朝倉に近づき、
地獄耳なアスナにも聞かれないような小声で言う。

「言うはずないでしょうが。言ったら私が大変なことになるんでしょ」

ホッとしたぜ……朝倉はちゃんと考えて行動してるんだな。
もし言ってたりしたら、きっと士郎以上の拷問を与えてただろう。
……ちょっと感情を表に出しすぎちまったか、朝倉に寒気が走ったように見えたな。

「そうだ、姐さん達にもコピーカードを渡しとくぜ」

その口調から士郎の恐怖から解放されたと思われるカモがカードを二枚取り出し、
アスナと刹那にそれぞれ1枚カードを渡す。
カモ、それはオレへの挑戦状と取っていいのか?

「仁の旦那、そんな怖い顔しなくっても、やっちまったもんは仕方な――

「ハーッハッハ、このオコジョという器が変な事を言ってる原因かなぁ?」

白い物体を手に取り、雑巾絞りの如く捻る。
魂が全て抜けるまで搾りきってやろうか。

「ギ、ギ、ギブっす仁の旦那……」

「仁、そんなに真っ赤な顔しなくてもお前はもう十は――」

「魔○拳!!!」

「なふっ――

衝撃波の代わりに白い物体を放って、一人と一匹の頭部を綺麗に命中させてやった。
肉体の正確な年齢はわからんのだが、もう少しでオレの本来の――
今となっては精神と言ったほうがいいか、その年齢言うとこだっただろうが士郎め。
それに士郎はあのように言ったが、お前も同じことしてたら今のオレと同じ状態になるだろうが。

「……ハァ、邪魔者は片付けたし落ち着いたか。刹那、悪いな」

「いえ、私は大丈夫ですから」

「お互いに顔を赤くしてうぶ――

「フハハ、朝倉、今のは幻聴か?」

「そ、その通りです仁さん」

変なことを言おうとした朝倉の額に、今命名『裁きのでこぴん』セット。
構えた手からギリギリと音がするのは幻聴ではない。

朝倉がその通りと言わなかったら額に炸裂させてやったのに……
死体がもう一つ増えることは回避したようだ。
士郎は変な所で変な発言するからわかるとして、
何故反省したと思った奴等がからかってくるのかわからん。

……ネギ、そんなに潤んだ目をしてアスナの後ろに隠れるなよ。
オレは決して恐ろしいことはしていない、優しく注意しただけだぜ。

「さて、白い物体の代わりにオレからパクティオカードの説明をしようか」

コッソリ物陰に隠れてさっきからこちらを見てる本屋ちゃんに理解させるため、
本来説明するはずだった現在気絶中の白い物体の代わりをオレが説明しないとな。
もう一人気絶中のやつもいるが当然放置だ。

「いいわよ、別に通信できるだけでしょ?」

「違う、カードを持ってこう唱えるんだ――“来れ”アデアット

呪文を唱える時は本屋ちゃんにもしっかりと聞こえる声で唱え、カラドボルグを取り出す。
刹那のカードを持ってるが、マスターだとアーティファクトを出すのに詠唱が違うため、
こっちを実践した方が二人とも試しやすくなるだろう。

「その剣は修学旅行前の時と風呂場の時の」

「よく覚えてたな。カードとは違うんだがこんな感じになるはずだ」

刹那との会話。大分落ち着いてるかな。
動揺はしてない……と思う。

「では――来れアデアット”」

刹那が唱え、カードをアーティファクトに変える。
アーティファクトって簡単に言うと魔法道具ってことだよな。
剣に属するアーティファクトを士郎は投影できるのか、と言っても今は確かめようがない、フフ。

「匕首ですか」

刹那の周囲に現れた物は十六本の短刀。
名前は【匕首・十六串呂シーカ・シシクシロ】だったか。
飾り房が十六の短刀の内、一つだけ付いている。
あれがアーティファクトの本体だったな。

「手品に使えるわね。じゃあ少し恥ずかしいけど私も――来れアデアット”」

刹那のアーティファクトをじっくりと見てからアスナも唱えた。
アスナが取り出した物はハリセン、つっこみにおける最強の概念武装だぜ。
魔法道具がハリセンってことで普通は残念がるところだが、
千草と戦った時に一度使ってるので残念そうにはしてなく、
アーティファクトが出た事を純粋に喜んでいる。
実際はただのハリセンって訳じゃないんだが、オレから説明するところじゃないな。

「しまう時は――去れアベアット”、これでカードに戻る」

カラドボルグを手元から消し去る。
慣れてきたから最近は気にしなかったけど、これって不思議だよねぇ。
エヴァ達はどうやって作ったんだろうな。
――深いこと考えるのはメンドイからやめとこう。

「あと、カードの契約した人と連絡する時はカードを額に持ってきて――念話テレパティア”だ。
互いにすれば会話も楽にできるし、電話代かからなくていいな」

「あんたって意外とケチなのね」

「せめて倹約家と言ってくれ」

じぃさんから金は沢山もらってるんだが昔の性が出ちまったぜ。
あっちに居る時はお金を大事にしてたからなぁ。

む、刹那が険しい顔してオレを見てる?
いや、オレの手に持ってるカードを見てるのかな。
やはりハーフとバレるか疑ってるのか、うーん。

「……刹那に合って綺麗な翼だよなぁ――天使のようかな」

……あら、ネギは皆をキョロキョロと見渡して動いているんだが他の方々がフリーズしちまったぜ。
ハーフってわかんないように今ぐらいのが丁度いいと思ったんだけど間違ってたか?
このかだってそう言ってたし……

「無償ニ殺シタクナッタ」

「なんでさ」

チャチャゼロの理不尽な言葉に、
つい士郎のお得意な台詞言っちまったぜ。
……まだ皆さんはフリーズしたままのようだな。

「オレ達は先に行ってる。各々頑張ってくれ、特にネギ!」

「は、はい!」

居ずらいので言う事をさっさと言って寝転がってる士郎を担いで出発。

 

 

 

 

 

 

  side―桜咲刹那―


「いきなり仁の奴は表情変えてアホな台詞を吐いたわね」

「そうね。衛宮さんもだけど天然が入ってると言えるわ」

「仁さんは何かおかしいこと言ってたんですか?」

「あんたもそうだったか……」

私が烏族とのハーフと気づかれるかも知れないと思いましたが、
それは杞憂で予想外の言葉を言われる事になった。
しかし、あれほど堂々と言われてはさすがに……
修学旅行前にも同じ感じのようなことも言われてましたが無意識なのでしょうね。

「桜咲さんは冷静ね〜」

「は、はい」

はぅ。神楽坂さんに突然声をかけられてしまったせいで、
少々上ずった声になってしまったような気がします。

「ん、桜咲はやっぱり仁のことがちょいと気になるのかな?
今のこともそうだし、昨日のこともあるからね〜」

「昨日のことって?」

「ネギは知らなくていいことよ。朝倉も昨日の話を持ち込んだら駄目でしょうが」

「昨日のことですか……」

うっ、朝倉さんに変なことを思われるわけにはいかない。
ここは何としても回避しなければ。

「いや、いや、まさか刹那の姉さんが仁の旦那にそれほど気があるとはね」

「えっ、そうなの!? ってエロオコジョか!」

カモさんがいつの間にか起き上がってきて、
何か言ったと思うとすぐに神楽坂さんに踏みつけられてしまった。
今日のカモさんは厄日のようです。

神楽坂さんは聞こえてたみたいですが、
カモさんは何と言ってたのでしょうか?

「あ、姐さん。聞いてたのはいいっすが一度納得してからの不意打ちはひどいっすよ」

「今のみんな聞こえてなかったの?」

神楽坂さんの言葉に私も含め三人がその通りといった返答をする。
カモさんは神楽坂さんに謝られなかったせいなのか、
無視されたままのせいなのかでいじけています。

「そっか。うーん、桜咲さんが仁のことを好きになるなんてことなんてないわよね〜。
確かにカッコいいとこはあるかもしれないけどそんなこと思うのはエヴァちゃんぐらいよね」

「…………」

神楽坂さんの言う通り、あのエヴァンジェリンさんが仁さんを気にとめている、
という噂がエヴァンジェリンさんは知らないようですが3−Aで出ている。
あくまで噂ですが、本当ならば何故そのようになったのか不思議です。

 ……それに、カッコいいと言われれば確かに思うところは……

「やっぱりこれは3−Aに配る記事にでもあげようかな。
一面に『金髪少女vs大和撫子』ってな感じにね」

「さ、さすがにそれは」

朝倉さんに一番やられてはいけないことをされようとしている。
そんなことをされると3−Aの人達に恐ろしいことを言われそうだ。
これは何としてでも阻止しなければならない。

「朝倉も懲りないわね。
それにそんなのあげたらエヴァちゃんに問答無用でぶっ飛ばされるわよ」

私が行動に移る前に神楽坂さんが止めてくれた。
こういう時の神楽坂さんは頼もしいです。

「冗談よ。桜咲の反応が楽しくてね」

ククッと笑う朝倉さん。
本当に私達のクラスはこういう人が多い。
筆頭は先ほどから話に関わってる仁さんでしょうか。

「あ、そろそろ準備して行ったほうがいい時間よ」

神楽坂さんが示した時計の針はもうすぐ出発時間を表していた。
これからの事もあるのでもう少し装備を整えた方が良いかな。
ともかく神楽坂さんの言う通り私も準備に向かいましょう。

 

 

 

 

 

準備を終えて私達5班は班行動に移る。
神楽坂さんはネギ先生と親書を長の下に渡す予定だったらしいですが、
早乙女さんに見つかってネギ先生と共に5班は行動することに。

そして旅館を出て神楽坂さんの言っていた、
とある川の近くにネギ先生が居るとの事で、
そこに私達は向かった。

「あれ、何で衛宮もいるの?」

「仁からお前は悪漢から5班とネギ君を護衛しとけ、と言われてな」

早乙女さんの質問に答える士郎さん。
先ほどから士郎さんはずっと頭を抱えていますね。
カモさんとぶつかった時の痛みがまだ引いてないんでしょうか。

それに、士郎さんが居るとは思わぬ出来事です。
思わぬ出来事とは言っても良い出来事。
仁さんは直接手伝わないと言っていましたが考えが変わったのでしょうか。

……? そういえば5班とネギ先生を護衛と衛宮さんは言っていましたが、
何故私達が一緒に行動すると……いえ、これは偶々でしょう。

「し、士郎くんも一緒に見て回ってくれるん?」

「そちらが良いのなら一緒に回ろうと思ってるぞ」

考え事をやめ、視線を下から皆に戻すと、
お嬢様が恥ずかしがりながら士郎さんに質問しているところだった。
士郎さんのことをお嬢様が気にかけてることは前々から把握しています。
把握したと言っても、いつごろそのような事になったのかまでは私にはわかりません。
お嬢様に好きな方ができることは良いことですが物寂しいような気がしますね……

「せっちゃん、みんなに置いていかれるえ」

「あ、はい」

お嬢様に声をかけられ、周りを見ると出発し始めている。
少々違う思考が混じってしまいました。
私も皆さんについて行かないと。

「ホラ、あっちにゲーセンあるから記念に京都のプリクラ撮ろうよ」

早乙女さんが先導してゲームセンターに入るように皆に声をかける。
……あの中から何か別の気配というか、笑い声が聞こえるような気がします。

 

 

 

 

 

 

 

「フハハハハハ! 雑魚どもがぁ!」

「張リ切リスギダ」

「何だあの青髪、異常に強すぎるぞ」

「戦略がひどい。血も涙もないほどにひどすぎる」

「ていうか、頭に乗せてる人形はなんだ!?」

ゲームセンターの中に入るとある一角に人だかりが見えた。
その中心で高らかに笑い声をあげているのは、
今日の朝から話題に入ってる人のようですね……

「仁、先に行ってるんじゃなかったのか」

「……おぉぅ、皆さんお揃いで……」

士郎さんを先頭に、私達は仁さんのもとに行き、
先頭の士郎さんが声をかけると仁さんは不意をつかれたといった表情をする。

「我を忘れて夢中になりすぎてたか。フッ、さらば――ぐぇっ」

「どうして急いでるかわかんないけど、ついでだからあんたもプリクラぐらいとってけばいいじゃない」

「うぐっ、何でラリアットで止めるんだよ」

仁さんが走り出そうとすると神楽坂さんの腕が仁さんの喉下に綺麗に入り、
受けた仁さんは苦しそうに涙目になって悶えています。今のはこちらから見てもきつそうでした。

仁さんの頭に乗っていたチャチャゼロさんは、
反動で宙に浮きましたが華麗に士郎さんがキャッチして無事です。

「ほら早く」

「オレはプリクラなんて撮らん! だから手を離せアスナ!
そもそもお前はプリクラなど撮る奴だったか!?」

仁さんの腕を掴み問答無用でプリクラのあるところに連れて行く神楽坂さん。
神楽坂さんは仁さんと撮るつもりなのでしょうか?

「せっちゃんも折角だから仁くんと撮っとき〜」

「お、お嬢様。私は――

お嬢様が私の手を取り引っ張る。
さすがにこの手を払うわけにはいかなく、
為すすべもないまま私もプリクラのところに……

「ピッ、ピッっと。ほら前向いて、撮るわよ」

「コラ、パル」

「仁、諦めろ。みんな聞く気はないようだ」

「わ、私は本当に」

「ほら、せっちゃん前むいて〜」

 

 

 

 

 

 

結局、私達は順々にプリクラを撮っていった。
私は無理矢理撮らされたと言った方があってますね。

「これはエヴァちゃんに見せたらやばいわね」

「何でエヴァが出てくるんだよ」

神楽坂さんがプリクラの並ぶ紙を眺めて出した言葉に仁さんがしかめた顔で神楽坂さんに返す。
最初に撮ったプリクラはどういった訳か仁さんとの2ショットになってしまいました。
皆さんは無意識に仕組んでいるんでしょうか。

「このかは衛宮、のどかはネギ先生とちゃんと撮れたみたいね。
……んー? いろいろとオカシイところがあったり、至るところに『ラブのにおい』がするような。気のせいかなー?」

早乙女さんがニヤリと笑い、謎の単語を口に出している。
私からつっこみを入れる事はしませんが、
誰も早乙女さんの言葉に何もいいませんね。
きっとそれが正しい答えなのでしょう。

「これはせっちゃんの分や」

いい笑顔でお嬢様が私にプリクラを渡してきた。
渡されたプリクラはお嬢様との2ショットと仁さんとの2ショット。
どうすれば良いのでしょうか……

「困ってるん? そんなら携帯の裏とかに貼っとくのがえーと思うよ」

「携帯に、ですか」

お嬢様から恥ずかしい提案をいただきました。
お嬢様と写したものであれば特に問題はないと思いますが、
仁さんのものを貼ってしまった場合、誰かに見られると誤解されてしまいます。
――少々考えてからにしましょう。

「じゃぁオレは行く、また会うかも知れんがな。――士郎、任せたぞ」

仁さんがそう言うと士郎さんからチャチャゼロさんを受け取り、すぐにゲームセンターから出ていった。
どうやら単独で行動するようですね。無理をしなければいいのですが……
いえ、いざとなれば仁さんは士郎さんに連絡をするでしょう。
もしくは仮契約をしている私に……

お嬢様の護衛が最優先ですが、
そうなった場合は少なからずもお手伝いしたいですね。

 

――とにかく今は私の出来る限りのことを尽くしましょう。

 

 <<BACK  NEXT>>

 TOP

inserted by FC2 system