――The outside aspect――


「このかさん、刹那さん大丈夫ですか?」

「うん!」

「はい……ですが少々慣れない格好のせいか動きが……」

月詠から離れ、走っている三人の内、式紙となっているネギがこのかと刹那の安否を問う。
このかと刹那は着物姿で底が高い草履を履いている。
足取りはこのかは軽快だが刹那はどこかおぼつかないでいた。
この二人の差は慣れの問題。
それでも刹那の身体能力の高さからおぼつかなくとも十分に速く走れている。

「しつこいぜこいつら。刹那の姉さんも追い払ってるがどんどんついてくる」

ネギの肩に乗っかっているカモが月詠の出した追ってくる小型の式紙を叩きながらネギに小声で話しかける。

「このかさん、刹那さん、ここに隠れましょう!」

先導していたネギが二人に建物の中に入るよう勧める。
二人はネギの言葉に二つ返事で了解した。

ネギが入るように勧めた場所は城。
シネマ村の中で最も大きな建物だ。
城の中に入ると長い階段があった。
三人はその階段をカンカンと音をたてながら素早く駆け上がっていく。

「あ、ネギ君、部屋や!」

「よぉし」

階段を上がり終わるとその先には障子が見えた。
ネギ達はそこに隠れようと障子まで急いで向かう。
そして先頭のネギが障子をバンと勢いよく開けた。

「ふふ、ようこそ、このかお嬢様。月詠はん、上手く追い込んでくれはったみたいやな」

障子を開けた先には千草とフェイトが待ち構えていた。
計画通りと千草は笑みを浮かべ、フェイトは無表情でネギ達を見ている。

「おや? そっちの坊やは小太郎が閉じ込めとるはずやのに……それに何でひよっこが……」

計画通りと思っていた千草だったが、思わぬ兵が二人も居た。
手を顎に当てネギ達をジッと見て、状況を読み込み始め
――

「ふーん、坊やは実体ちゃうな。それにひよっこがいてもかまわへん、実質は2対1や」

千草はすぐに結論を出す。
その言葉の通り、今ネギは魔法も使えず無力な状態である。
よって現在、千草達と戦えるのは刹那ただ一人だ。

「ネギ先生! 一先ず屋上に!」

千草とフェイトが式紙を出したのを刹那は見て、
この狭い空間では圧倒的に不利と悟り、屋内から屋上に急いで出る。

来た道を戻れば動きの悪い階段のため、
今の状態だとネギ達はすぐ不利な状況になってしまう。
刹那は部屋という狭い空間ではなく動き易い広い空間の屋上をとった。
だが屋上に出てもネギ達が不利な事には変わりない。

千草達はすぐにネギ達を追いかけ、今の互いの距離関係は端と端。
一方の端では木乃香の前に守るようにして刹那とネギが立っている。
もう一方の端ではフェイトが千草の式紙の上に乗り、
千草の後ろには翼を持つ身の丈2メートを越える鬼が、
その丈に合った大きな弓矢を携え木乃香と前で構えている刹那を一直線に狙っていた。

その状況に城の周りの士郎達の戦いを見ている観衆はすぐにネギ達の存在に気づき、
あそこでも劇をしているぞ、といった声を周りにかけあい、観衆の視線が城の屋上にも集まる。

「ふふふ、ひよっこ。そないな派手なカッコでお嬢様を守れるかえ?
例えこの鬼の矢を弾けたとしてもウチらが同時に攻めれば一溜りもないやろ。
大人しくお嬢様を渡しておくのが利口やないか?」

千草は完全に自分達が有利な状況であることに笑みが自然と出ている。

「ネギ君、せっちゃん、こ、これもCG……? とちゃうよね……」

木乃香の近くに流れるものは、城の周りの陽気さとは全く異なった緊迫した空気。
さすがに木乃香でもこの状況ではCGとの区別はついた。

「すいません、このかさん……」

「やばいぜ、兄貴」

ネギは申し訳なさそうな顔をし、
カモは冷や汗を流してネギを見る。

「どうすればこの状況を……」

刹那は木乃香を千草には決して渡そうとは考えていない。
今の状況をどう回避するか敵を睨みながら思案している。

「さぁ! はようせんとこっちから行く――!?」

千草の急かそうとしていた言葉が途中で途切れる。

「ッ!」

それと同時にフェイトは詰まった声を出し、乗っていた式紙から離れていた。

「チッ、浅いかっ!」

イラつきの混じった声。
その声の主は声を出したと同時にネギ達の前まで飛び退く。

フェイト達のさきほどの反応は突如現れた声の主による者の為。
千草はチラリとフェイトの方が見えた事で驚き、
フェイトは自分の首を西洋の剣で狙われた為に詰まった声を出した。

「くっ……障壁を破った……?」

フェイトは首を押さえながら、
今起こった点についての疑問を口に出す。
しかしフェイトを襲った者はそれには答えない。

――――偽・螺旋剣カラドボルク”!!」

数秒もしない内に木乃香の後ろ、屋根の外側から声が響く。
その声と武器の名から紛れもなく衛宮士郎。
月詠と闘っていたはずの赤い外套を纏った男の矢が鬼に放たれ
――捻じれた剣は鬼のみを飲み込み消滅させた。

「最後の最後で自分が失敗してるじゃないか、仁」

士郎がフェイトを襲った者、今まで一人で行動していた仁に愚痴を零す。
今回の仁が練った計画――『フェイトにやられた借りを返す』という事で、
一番重要な所で失敗してしまったのだから愚痴を零すのも当たり前だろう。

「いや、よく考えるとこの場面で刎ねてしまったらヤバイって気づいたからこれで良かったと思ってるぜ。
だけど、腕一本ぐらいに狙ってもらっていけばよかったのかねぇ。
つーか士郎、カラドボルクだけの攻撃だと障壁破れるか心配だから最後にアイツを矢で射ろって書いてあっただろうが」

「あの鬼の矢は思ってた以上に危ないものと判断したんだからしょうがないだろ。
鬼を後回しにして矢を打たれた場合に俺かお前が間に合わなかったら大変なことになるんだし」

「刹那なら大丈夫だと思うんだが……確かにそうかもな……そうだ、矢の出力を落とさなかったら――」

敵にかまわず言い合いを始める仁と士郎。
ネギ達と千草はそんな彼等を見て呆然としていた。

 

 

 

 

 

  side―防人 仁―


「な、なんなんやあんたらはー!?」

……つい士郎と言い合いしちまったぜ。
今の千草の言葉で終わったけどな。
まぁ、過ぎてしまったものはしょうがないか。

「これは電車でお会いした綺麗なお姉さん。
襲われてるクラスメートと担任を護るのは当たり前だろ?」

とりあえず千草に皮肉を交えて返しておく。
千草の側に居るフェイトが首を抑えてるとこを見ると皮一枚ってとこか。
できる限り気配消して動いたつもりだけどやっぱ気づかれてたのかなぁ。

「あ、あの時の! それにお嬢様と同じクラスメート!? 新入り! この事は!?」

「いえ、僕はあなたから知らされてる事以外は全く」

おっと、フェイトの奴は澄ました顔をして嘘八百だぜ。
というか澄ました顔というより僕プっチンしちゃった、ってな顔でオレを見てるな。
体に直接、傷を入れられたことに怒ってんのかよ。

「ギャラリーも多いことだし、ここは互いに引くのが懸命な判断じゃないのか?」

オレ達が居る城の周りの人の視線のほとんどがこちらにある。
劇だと思って見てる上に派手な芝居ってな感じだから注目されるのは当然だ。
しくっちまったし早く抜け出したいんだが……千草め、渋ってやがる。しょうがない。

「ネギ、また後でな。行くぞ士郎」

カラドボルクを収納してオレが刹那、
士郎がこのかを抱えて城の屋上から飛び降りる。
抱えられた二人は気の抜けた声をだしてたが気にしない。

 刹那は自分の力で飛び降りれそうだが格好が、な。
着物姿になってたのを見たときはビックリだったぜ。
てっきり知識通りに新撰組の格好に着替えると思ってたからな。

 

――着地。
飛び降りてから数秒で地に足が着く。
高いところから飛び降りるのも慣れてきたな。
……生身なのに何故これほどの身体能力があるんだろ。
此処の世界の住人ならわりと楽にできるだろうけど、
無意識の内に重力緩和魔法と使ってんのかね。

ん? 図書館島の時の事もあるが士郎は元の世界でこんな事できたか?
他にも疑問に思うことがあるような……うーん……いっか。
士郎は疑問に思ってないみたいだしな。

「アイツ等が追ってくる前にさっさと着替えてこのかの家に行った方がいいか」

「じゃぁ更衣所だな」

「あの、仁さん。私は」

「その格好だと走りにくいだろ。刹那は軽いし担いでオレが走る分には問題ないぜ」

言うと同時に走る。
ここで千草達と長い時間ドンパチしたくないからな。
抱えて走るのには鍛え上げたから大抵は大丈夫だ。
そうは思ってても、刹那はホントに軽いんだけどさ。

 

 

 

 

「結構な時間くってんなぁ」

士郎と更衣所前で刹那とこのか待ち。
着物はややこしそうだから時間かかるのはしょうがないのか。
それに借り物の衣装だし手荒な事はできないしな。

「ああ、そうだな……なぁ、仁――

「お、着替え終わったか」

「バッチリやで〜」

「待たせてしまい申し訳ありません」

二人とも着物からゲーセンで会ったときの格好に戻ったな。

「着物はややこしそうだし時間かかったのはしょうがない。
ああ、士郎も言ったかも知れんが二人とも似合ってたぜ。
綺麗なんだし刹那もこれを期にもっとお洒落してったほうがいいかもな」

士郎なら絶対同じような事を言ってるな。
オレの隣に居る奴はそういう男だぜ。
あれ? 何か変な事いったような……

「仁、何で俺は着替えさせてくれないんだ?」

赤い格好の士郎が少しむくれた顔で聞いてきた。
着替えようと更衣室に入る前にオレが止めたからな。
士郎が元々着てた服は紙袋に入れてオレが持ってる。

「似合ってるからいいじゃねーか、そんな事より行くぞ」

「そんな事って……」

士郎はため息を吐きながらもこのかを抱えて先に出発する。
諦めるのが早い。自分でもあの格好を気に入ってんじゃねぇのか。

「……場所わかんのかアイツ?」

出発しちまったが……士郎のことだから城から飛び降りる時にでもこのかの家を把握したのか。
事前にある程度オレが知ってることも教えてるし、このかの家は結界張ってるようだから士郎が見たらすぐにわかりそうだしな。
あ、刹那なら、このかの家わかるよな。

「刹那、アッチであってるのか?」

「し、士郎さんの行く方向で間違いありません! 私達も行きましょう」

む、速いな。
このかが先に行ったからって、そんなに慌てることはないだろうに。

「オレも行かねぇと」

二人が飛び越えていったシネマ村の塀を飛び越える。
遅れすぎると道がわからなくなるぜ。

そういえばさっきから、刹那に顔を背けられてたな。
言動も慌てすぎてるようにも感じたし……昨日の事をまだ気にしてるのか……?
んー、朝からこんな感じだったっけ……いや、今はこの事は置いといて急ごう。

 

 

 

 

シネマ村から出たオレ達四人はネギ達が小太郎と戦闘したと思われる道を歩いている。
このかは恥ずかしいのか一人で歩くと言ったため、士郎から降りて今はのんびりと皆で向かっている。
一方的だけどこのかが刹那に楽しそうに話してるな。仲が深まるとはいいことだぜ。

さて、ここまでの道中でフェイト達が襲ってくる気配がなかったということは、
オレの知ってる通り、夜にフェイトが単独で来るのだろう。
襲ってくる気配がないからのんびりと歩けてるんだけどな。

「月詠との戦闘はどうだったんだ?」

こっそりと士郎だけに聞こえるように話す。
ちゃんと聞こえてるかが心配だぜ。

「実力は見せなかったぞ。
最終的には城に上がる時に余りにもしつこいから水の中に落とさせてもらった。
少し力を入れすぎてしまったかもな……着替えがちゃんとあるといいんだけどさ」

しっかりと聞こえてたようで士郎が小声で返してくる。
そして最後のはいつも通り士郎らしい発言だ。

「士郎くん、仁くん何でコッチにウチの実家があるってわかってたん?」

このかが質問をなげかけてきた。そりゃぁ疑問に思うわな。
教えてないはずなのに自分の家の在処を知られてたらオレだって焦るぜ。

「このかのじぃさんに場所を教えてもらったのさ」

全くの嘘だがこのかはいい子なのですぐ信用してくれる。
オレの知識で京都にこのかの実家がある事は分かってたが正確な場所は分かってない。
じぃさんにネギと士郎と一緒に呼ばれた時はすぐに出て行っちまったからな。
前もって聞いておいてたら少し楽になっただろうから後悔してるぜ。

「ウチの実家はちょっと大きいんやけど、やっぱりひいちゃうかな?」

このかがもじもじとしてオレ達に聞いてきた。かわいらしい仕草だな。
士郎は……これぐらいでは全く動じないか、何か反応してくれないと面白くないぜ。

「俺は大きい家は沢山見てるし、特にそういうのはないぞ」

「オレもそんぐらいじゃ引かんから大丈夫だ」

多分このかの家を見たら、こんな家にオレも住んでみたいねぇと思いそうだ。
だけどその分使用人が増えるだろうから雇う金はいくらかかるのかな。
……じぃさんぐらいの金はないと駄目か、あの成金ぶりにはビックリだぜ。

「誰か後ろから来る――早乙女さん達か」

振り返るとパル、ゆえ、朝倉が走ってこっちに来ていた。
シネマ村ではクラスメイトとは会わなかったな。
隠れてたから会わないのは当然のことだけどさ。

「え? どうして早乙女さん達がここに……」

刹那が向かってくる三人を見て動揺する。
ここで変わりがなければ君の荷物の中に朝倉のGPS携帯が入ってるってのがオチだ。
これに関していつ仕込んだのかは全くの謎である。

「……ハァ……やっと追いついたわ」

「仁達見つけたと思ったらすぐ飛んでっちゃうんだもんね」

三人とも肩で息をしてる……結構疲れてるな。
そうまでしてもついてきたかったのか。

「ケケケ、オレヲ置イテイキヤガッテ」

パルの頭の上にはチャチャゼロが乗っかってた。
すっかりチャチャゼロのこと忘れてコッチにきちまったな。
……チャチャゼロ怒ってるっぽい。

「わりぃ。今度なんか詫びするから許せ。
で、お前達は追いかけてきたのは興味本位だとして、
どうやってオレ達の居場所を突き止めた?」

 チャチャゼロをパルの頭からオレの頭に移し変えつつ朝倉達に一応聞いとく。

「ふっふー。桜咲の荷物の中にGPS携帯を仕込んどいたのよ」

得意げに朝倉が懐から携帯を出し画面を見せてくる。
うむ、的確にオレ達の場所の位置は把握されてたな。

「うっ、こ、これですか」

 刹那がすぐに自分の荷物をチェックし携帯を取り出した。
自分の失念と思ってるせいか落ち込んでしまったな。

「急いでたんだから気にすんな。お前等がついてきても……っといいか決めるのはこのかだな」

「みんなで行ったほうが楽しいからかまわへんよ」

このかは笑顔で了承、当然だな。

「衛宮は何でシネマ村の時の格好のままなの?」

「悪いことしたから罰ゲームだ。じぃさんに作らせたものだから持ってきても心配はない」

パルの質問には簡潔に嘘ついて流す。
大した問題でもないし、すぐにそっかー、と納得してくれた。

「そんなことよりシネマ村の物理的に無視した――

「ゆえ、細かいこと気にすんな。じゃぁさっさと行こうぜ」

もう少しでゆえは気づくんだが待たねぇとな。
ここで言ったらパルも居るしオレの知ってる流れも変わる……
といっても結構変わってるんだけどさ。
できるだけ流れは壊さないように努力してるつもりなんだけどなぁ。

 

――今は気楽な感じだが、もう少しで修学旅行中の最大の問題が起きる……か。

 

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