side―衛宮士郎―
「やっとネギ達が見えたか」
仁のヤレヤレといった声。
途中から合流した3人に加え合計7人で歩いていたところ、
岩場で休む、ネギ君、神楽坂さん、宮崎さんが皆の目に入る距離まできた。
俺はもう少し前から確認できていたが……言ってもしょうがないからな。
ネギ君が横になって休んでる所を見ると、
狗族の子と戦ったため、魔力切れか体力切れかな。
……式紙で一度ネギ君とはシネマ村に合ってるから体力切れの方か。
「え……えーっ!? 何でみんな居るのよ!」
互いに会話できる距離まで近づくと神楽坂さんが意外だと騒ぐ。
これから行く場所は関西呪術協会、日本の魔法使いの西の拠点だ。
宮崎さんはネギ君達と居るという事はすでに『此方』に関わってるのかもしれないが、
早乙女さんも綾瀬さんもまだ此方の事は知らないからな。
「居るもんはしょうがねぇだろ。ネギ大丈夫か?」
「はい、僕は大丈夫です。あの……士郎さんの格好は……」
「フッ、気になるだろうが余り触れないでやってくれ」
仁は強引だな。別にこの格好でもいいんだけどさ。
裏道とのこともあって一般人の目にそれほど触れないからな。
ネギ君はシネマ村で会ったから、この格好の事はわかってるけど、
神楽坂さんと宮崎さんが俺を見て、少々唖然としてるな。
……俺って最近、変な役って感じになってるような気がする。
「ネギ、歩けるか?」
仁が立ち上がろうとするネギ君に確認を取る。
まだネギ君は戦い馴れはしていない、体のかかる負荷が気に掛かるな。
「はい――――あぅ……」
立ち上がると同時によろけてしまい、女子達が心配して駆け寄る。
ネギ君は歩いて行くのは無理そうだな。
「俺がネギ君を連れていくとしよう」
「……士郎、お姫様抱っこはやめてくれよ。
見た感じ危険な感じがするし、パルの漫画のネタにされるぜ」
「おっと、仁はああ言ってるけど私に気にせずにドンドンしちゃっていいからね」
ドンドンするってどういうことさ……
まぁ、仁の言う通りにネギ君は背負うことにしよう。
む、軽いな、10歳の子どもだからこんなもんかな。
「チッ」
「……早乙女さん恐いんだけど」
舌打ちする早乙女さんから僅かに黒いオーラが出てるぞ。
「あああ〜、行くぞ〜」
仁はそれを見なかった事にして先に進んでく。
俺も見なかった事にした方がいいのかな。
「すみません、士郎さん」
背中越しにネギ君の申し訳なさそうな声がする。
まだ慣れてはない実戦を行ったのだから、
これぐらいになるのは当然なんだけどな。
「謝ることじゃないさ。頑張ったんだから気負う事はないぞ」
これは励ましの言葉か?
ん、ネギ君の力が抜けた感じがする。
今の言葉で安心したってことかな。
……早乙女さんの目が恐い、さっさと歩こう。
「お、見て見て。あれ入り口じゃない?」
俺達の視界に広がるのは年季の入った大きな門。
これほどの大きなモノでも周囲の雰囲気とあってて違和感がないな。
結界が張ってあるけど……あのフェイトぐらいになると、これぐらいじゃ駄目だろう。
「レッツゴー!」
早乙女さんが掛け声をして、前方に歩いていた、
このかちゃん、早乙女さん、宮崎さん、綾瀬さんが門に向けて軽快に走る。
桜咲さん、仁、俺は前の四人についてく様に走るが、
「ちょっと! そこは敵の本拠地なのよ!? 何が出てくるのか……」
神楽坂さんは前の四人慌てて追いかける。
本拠地って、このかちゃんの家って聞いてなかったのか。
む、ネギ君が背中から降りようとしてる。
という事は二人とも知らされてなかったのな。
「士郎さん、どうしましょ―――」
「お帰りなさいませ。このかお嬢様」
「「へ?」」
ネギ君と神楽坂さんが気の抜けた声を出す。
門を越えた先には二人の予想の敵ではなく、使用人が大勢の出迎えていたからだ。
それにしても人が多い……魔法使いの拠点の成り得る場所だからこれぐらいが普通か。
「ネギ君達は聞いてなかったようだが、此処はこのかちゃんの実家だ」
「えぇ〜!? 何で教えてくれなかったのよ!」
「簡単に言うといつも通りだが説明するのがメンド――イ゛ッ」
仁の奴はいつも通り神楽坂さんに殴られてる。
ボクサー顔負けの綺麗なボディーブローだ。
こういう時の仁の回避力が愕然と落ちるのは何故だろう。
「俺は二人とも知ってると思ってたしな。桜咲さんも言うタイミングがなかったんだろう」
「それなら、しょうがないか。ん? このかの家なら初めから、みんなでコッチに来た方が――」
「コッチには敵が罠はって待ち構えてるかも知れないから連れてこれなかったんだよ。
現にアスナ達はここに来る途中に襲われてたんだろ。それぐらい理解しなさい、このバ――ガッ」
本日二度目のラリアット、仁は背から倒れ込む。
一度目はゲーセンのプリクラの前だな。
仁の奴はせっかく回復したのに、すぐにやられて……
悪いのは全て仁だけどさ。
「ちょっと冗談で言っただけよっ。ほらっ、早く行くわよ」
神楽坂さんは桜咲さんを連れてズンズンと、
このかちゃん達の下に歩き、他のメンバーと先に進んでいく。
仁の言葉で機嫌を損ねてるのか、発言ミスで恥ずかしがってるのか。
「士郎さん、そろそろ僕は降りないと」
「そうだな」
担いだままの状態で此処の長に会うわけにはいかない。
ネギ君は下ろしてと……ネギ君も先に行ってしまったな。
次は仁を担がないといけないか。
ちなみにチャチャゼロは、当たり前のように仁が吹っ飛ばされる直前にキャッチしてる。
「仁、生きてるか?」
「……うぅ……死んではいないぜ……」
「ケケケ、シブトイナ」
生存確認完了。
倒れていた仁は首をさすりながら、上半身を起こして答えた。
担がなくても大丈夫そうかな。
「使用人の方々も見てるし、早いとこ行こう」
「う……ああ……」
先に歩く俺にゆっくりと仁は後ろから歩いてくる。
相当、さきほどの事が効いてるようだ。
少し可哀想に感じるな。
「おお〜、広いなぁ〜」
「そうだな。それに桜が舞って綺麗だ」
「花見ニモッテコイダナ」
広間にて5班のメンバーとネギ君は既に座っていて西の長を待ってる。
少しゆっくり歩きすぎたようだ。そして、周りの俺への視線が多い。
この格好のせいだろうけどさ。
「おっと、気が利くな。オレ達二人は皆の後ろ、しかもチャチャゼロの座る座布団まであるぜ」
「もうすぐ西の長が来るだろうから早く座るとしよう」
俺達が座り、まもなく、西の長が前の階段から降りてきた。
…………戦人の雰囲気はあるが衰えがあるように感じる。
上の者となると政治的部分に関わらなければならないせいで戦に関わらないせいか。
「ようこそ、明日菜君、このかのクラスメイトの皆さん。そして担任のネギ先生と……」
言葉を途切らせた長が俺と仁を見てる。
学園長は知らせてると言ったから長はわかってるはずだが。
「フッ」
……仁、何でカッコつけて笑うんだよ。
「ふふ、君達が士郎君と仁君だね」
「はい、私達の事に関しては後ほどと言うことで」
「確かにそれがいいな。――近衛詠春殿、私達より先にネギからお渡しするものを」
仁はカッコつけ笑いから俺に相槌を打った後、一変して真面目で丁寧な口調で長に言う。
学園長と初めて会った以来だな。違和感がありすぎるぞ。
前に座ってるメンバーも奇怪なモノを見る感じで仁を見てるしさ。
「……ネギ」
「は、はい」
仁に急かされて、西の長――近衛詠春さんの下にネギ君は歩み寄る。
ネギ君と神楽坂さんは此処の事知らなかったのに長の名前聞いて驚いてない。
俺達が来る前に、このかちゃんから聞いてたのかな?
……む、早乙女さんと朝倉さんが詠春さんに対してコソコソと失礼な事を言ってるし。
「東の長、麻帆良学園学園長、近衛近右衛門から西の親書をお受け取り下さい」
詠春さんは渡された手紙を見て苦笑い。
学園長のことだからきつい一言か変な手紙でも入れてたのか。
「いいでしょう、西の長の意を汲み私達も東西の仲違いの解消に尽力をするとお伝え下さい」
一通り読み、最後に任務ご苦労とネギ君に言う詠春さん。
その言葉に女子達が、ネギ君に「おめでとう」と群がってる。
此方に関わってないメンバーと朝倉さんは内容についてわかってないようだけどな……
「今から山を降りると日がくれてしまいます。
今日は此処に泊まっていくのが良いでしょう。
もちろん、歓迎の宴も御用意しますよ」
詠春さんの言葉に喜ぶ早乙女さんと朝倉さん。
最後の歓迎の宴の部分ってとこに反応してるな。
ネギ君はそうなると宿泊先に支障が出ると詠春さんに言うが、
詠春さんは身代わりを旅館の方に立てるとの事。
俺と仁の二人は仁が何かと手配してるだろうから、帰らなくても大丈夫かな。
「では、士郎君と仁君以外は一度この場を退席願います」
使用人が真っ先に退席する。
ネギ君達もすぐに退席しようとしてるけど、
「朝倉、聞き耳立てたら何が起こるかわかってるだろう?
そこのとこはみんなに伝えておけ、特に絞られそうなのは注意しろよ」
要注意人物、噂好きの二人に一匹だが仁の警告で大丈夫だな。
お陰で逃げるように去っていく者が……特に速いのは絞られそうなカモだ。
仁がこれだけ言えば万が一も聞き耳を立てる人はいないだろう。
「仁君の頭に居るのは――」
「エヴァの人形です」
「ケケケ」
「やはりそうですか。仁君、堅苦しくしなくても君の事はお義父さんから聞いてるのでいつも通りでいいですよ」
「くっ、あのじぃさんは……それで、オレ達の事はどこまで聞いてる?」
いつもの仁の口調に戻ったな。
やはりそれじゃないと違和感がありすぎて変な感じだ。
「私が聞いているのは君達が異世界から来た事と若返ってる事です。
フフ、それに士郎君がこのかの婿養子予定と言う事ですかね」
「なっ、学園長はまた勝手な事を――っ」
これで何回目だ、あの妖怪爺さんは。
一度徹底的に痛めつけ――これじゃぁ仁と同じか……
それでも何か仕打ちをしなければいけないな。
「オレの事に関してそれ以上は?」
「いえ、君達はそれぞれ別の異世界から来ただけということしか聞いてません。
よければ異世界の話も聞かせてもらいたいものですがね」
「そんな笑顔で言われたら困るな。
オレの事は言えないが、士郎の事なら存分に話すことはできるぜ」
「止めてくれ……」
「おや、これは残念ですね。また機会があれば聞くことにしましょう」
詠春さんは物分りがよくて助かる。
仁が俺の事について言う事はどうせ変な事ばっかりだろう。
いや、仁が言う直前にぶっ飛ばすけどさ。
「このかに力の事は話しておいたほうがいい。
遅かれ早かれこのかには気づかれることになるだろう。
ネギと一度、仮契約……失敗してる形だが行ってるはずだからな。
このままいっても、きっかけがあればすぐに力が発現するって訳だ」
「此方の世界については重々把握してるようですね。
確かに仁君の言うとおり、普通の女の子として暮らしてもらいたかったのですが……
このかに全てを話すべきでなのでしょう。ここは刹那君に頼むのがいいでしょうかね」
「ああ、それが一番だと思う」
「それではこのかの件に関してはそうしましょう。
――士郎君、ずっと気になっていたのですがそれは君の世界の戦闘服なのかな?」
「ええ、本当は私服で来たかったのですが、仁の奴が許してくれなくて」
「お前は自主的にそれ着てると思ってるんだけど」
「オレモソウ思ゼ」
む、チャチャゼロも言うのならそうなのか。
無意識の内に、この格好の方が良いって思ってるのかな。
「そうだ、オレ達の身代わりは立てとかなくていい。
来る直前に手は打っておいたからな」
「そうですか。ではそのように手配しておきましょう」
「以上かな。じゃぁ次は宴の席で」
「ケケケ、酒ハ沢山用意シトケヨ」
仁は言う事を言って先に歩いていく。
自分のペース、いつも通りの仁らしいな。
「では、俺もここで」
詠春さんに一礼してから仁を追いかける。
「で、先に突っ走ってるが何処に行くつもりなんだ」
俺の予想だと仁は考えてない。
なんとなく先に行ってみたって感じかな。
「……使用人を探して部屋に案内してもらおう。
士郎、周囲にフェイトか千草が見えるか?」
ふむ、屋根の上に確かめるとしようか。
俺は一気に屋根の上に飛び上がる。仁も後から飛んできてるな。
む、何か違和感があるけどなんだろう……大したことじゃないか。
言われた通りに早速、眼に魔力を集中させて周囲を見渡す。
「……いないな」
「ということはまだ時間に余裕があるか。宴ぐらいはゆっくりしとくか」
「俺にはまだ次のことを話さないのか?」
「すぐに話すから心配するな。宴ぐらいは楽しもうぜ」
「ソウダゼ士郎」
本当にそんなんでいいのかよ。
……はぁ、仁がこうなったら何を言っても聞かないから素直に従うしかないか。
俺も何か作りに行こうかな――この格好だから駄目か。
もしかして俺はずっとこの格好のままなのかな。
「……騒がしいな」
「こんぐらいが普通だろ」
「ケケケケケ」
屋根の上から降りた後、使用人はすぐに見つかり部屋に案内された。
その後、それほど時間も経たない内に宴会場に俺達は呼ばれ――
――今はとても騒がしい……周りに家があれば苦情が確実にくる勢いで宴をしている。
そして、俺の格好は来たときとは変わりなく赤いままだ。
「酒は何度出されても飲むなよ。
飲んだ振りをしてチャチャゼロに渡せばいい。
食事も取りすぎるとやばいな」
「ああ、わかってる」
「ケケケ、ラッキーダ」
仁は先ほどからずっとチャチャゼロに酒を飲ませ続けてる。
何故それほどチャチャゼロの小さな体の中に酒が入るのか……
まさか、何処かの四次元な入れ物って訳じゃないよな。
「俺達はいいかもしれないけど、朝倉さん達は駄目じゃないか?」
桜咲さん、ネギ君、神楽坂さんは大丈夫だが他は結構ヤバイ状態だ。
気のせいだと信じたいが、酒を飲んで酔ってるように見えるぞ……
「酒を飲んでるように見えるのはきっと幻覚さ。
それと、正確には俺達も酒を飲んじゃ駄目だと思うけどな」
む、若返ってるから仁の言うとおりか。
精神年齢は20をとっくに過ぎてるのになぁ。
なんだか複雑な感じだ。
「お、詠春が刹那に話をつけにいってるな」
桜咲さんは詠春さんを随分と尊敬してるようだ。
丁寧な言葉と態度、詠春さんと初めて会った時の仁みたいに接している。
「もう一つ聞きたいんだが、何で俺達だけは壁に寄りかかった状態でいるのさ」
「フッ、みんなを見渡せて楽しいだろ」
珍味の入った皿から一つ珍味を口に入れながら仁は言う。
ご飯は食べないが珍味は沢山食べるんだな。
……皆を見渡せて楽しいか、そう思うのって少し捻くれてるんじゃないのか。
「おっと、そろそろ話合わねぇとな。風呂に入りながらにするか」
仁は近くの使用人に場所を尋ねに行く。
わかりやすいように方向を示して教えてくれてるな。
「風呂はアッチだとよ。行くぜ」
風呂に入る前にもう一度、本山の周囲を確認したけど、まだフェイト達は来てなかったな。
お陰で今は体と頭を洗って湯に浸かることができてる。
チャチャゼロは一緒に連れて来る訳には行かないから部屋に置いてきた。
「で、これからどうするんだ?」
「本来の流れで行くと、刹那、ネギ、アスナ以外の全員がフェイトによって石化される。
それと、ゆえも朝倉のお陰で石化されることなく逃げれるはずだ。
石化の効果は足止め、殺傷能力はほとんどないが、ネギほど抵抗力があると逆に危ない。
……しかし、俺達が居る事に加えて、フェイトが俺達を知っているとなると流れが変わる可能性が高いのは明確だ」
「そうだろうな」
「この本山の結界はフェイトレベルじゃないと抜ける事が出来ないから、フェイトが単独で来るのは変わりないだろう。
そのフェイトは俺達二人相手ではキツイと言っていた。まぁ、オレは大した事はねぇけどな」
十分、力はついてきてるのに謙遜してるなぁ。
うむ、仁には似合わないぞ。
「それで、フェイトの行動パターンとしては大きく分けて2パターン。
俺達に気づかないようにして、このかを連れ出すか、俺達を倒してからこのかを連れ出す」
「どちらにせよフェイトは全員を石化させてから、このかちゃんを連れ出す、か」
「その通りになるだろう。
ネギ、刹那、ゆえも石化されるかも知れん。
……だが流れを変える気はさらさらない」
「つまり、ネギ君と桜咲さん、綾瀬さんは石化されてもルールブレイカーで解く。
しかし、他の皆が石化されるのは、なければならない事だと。
仁はそれが一番良い形に進むと思ってるのか?」
「これはオレのエゴだ。士郎に認められる考えではないが、どうか信じて欲しい」
互いに眼を合わせる。仁は何時になく真剣。
確かに、幾ら死人が出ない考えでもそれに乗るのは気が引ける。
詠春さんに事前に知らせる等、安全な方法も存在するだろう。
けど……
「そうだな、仁の考えについていく事にする。
仁のする事は良い方向に進むと思うからな」
今まで付き合ってきて、仁は信頼できる人物だ。
そして、仁に言ったように決して悪い事が起きないように思える。
「ありがとう」
「ああ。仁、動き方も考えたいし、そろそろ出たほうがいいんじゃ――む、誰か来るぞ」
風呂場の入り口の方から声がする。
あれ、前にも似たような事が二度ほどあったような……
「ん? げっ、士郎やばい隠れろ」
仁の言う通りに近くにあった岩の陰に二人で隠れる。
互いにタオルはきっちり持ってるな。
風呂場に来た人物は……神楽坂さんに桜咲さん!?
「おい、仁。お前このことは知ってなかったのか?」
「ノートに載ってた記憶がない。
アスナに殴られたせいで記憶が飛んだのか……ヤバイぜ。
アイツの耳は地獄耳だから、今オレ達の喋ってる声量以上を出すイコール鉄拳だ」
神楽坂さんの鉄拳は後免こうむりたい。
仁が食らってるのを見てる限り、非常に痛そうだからな。
「隠れないで素直に入ってるって言えばよかったじゃないか」
「ああっ……確かに。
だが時既に遅し、今出ると覗きというか変態と勘違いされちまう。
くっ、どうすれば、どうすればこの危機的状況を逃れることが出来る。
抜け出せる方法が何かあるはずだ」
仁が混乱してるな。
さて、入り口までの距離はありすぎる。
どうすればあの入り口まで神楽坂さん達に見つからず、
かつ音を立てずに行くことが……
「はぁ〜、今日は色々あって汗かいたわ。特にあの小太郎って子がしつこいの何のでね」
「神楽坂さんは一般人なのにあれほど勇敢に立ち向かうとは驚きでした」
「んー、無意識なんだけどね。それより神楽坂だと言いにくいから明日菜でいいよ」
「あ……そうですね。では私も刹那で」
二人は仲良く話してるようだ。
小太郎っていうと話の流れからして狗族の学ランの子か?
そういえば仁から名前を聞いてなかったな。
「……思い出せねぇ……駄目だ……違う…………此処は……」
仁は下を向いて自分の世界に入ってる。
これはどう声をかけても反応は返ってこないな。
「あ、そういえば仁のことはどう思ってるの?」
「な、何故いきなりそのような事を」
「だって仁に着物姿の刹那さんがお姫様抱っこされてシネマ村を駆け回ったんでしょ? それって何か――」
「い、いえ! わ、わ、私にはお嬢様という人が!」
「んー、何か怪しい。ていうかこのかって、それは危ないんじゃ……それに、このかは――」
「オイ、士郎。お前も何か考えてるのか?」
む、仁が自分の世界から抜け出してきたか。
……眉間に皺が寄ってるぞ。
「すまん、ちょっと神楽坂さん達の話を聞いちまってた」
「何でだよ。面白い話かタメになる話だったのか?」
「どうなんだろうな……」
つい聞き耳を立ててしまったが仁に言える内容ではない。
エヴァの時みたいに早とちりってことになったら困るからな。
だけどエヴァは、ああは言ってたが本当の所、仁をどう思ってるんだろうか。
「また別の人の声だ。あれはネギ君と詠春さんか?」
風呂場の入り口に近づいてくる小さな影と大きな影が見えた。
「ネギと詠春? うっ、何か思い出せそう……」
「それは脱出方法か? あ、詠春さん達が来たら――」
「思い出した! ってやべぇ!」
「「「「あっ」」」」
4人同時に同じ反応してフリーズ。
言わずともその4人は岩陰に隠れていた俺達二人と、
その岩陰に隠れようと寄ってきた神楽坂さんと桜咲さん。
神楽坂さん達もこちらに来る可能性があるというのに気づいた時にはもう遅かった。
……体からサーッと血の気が引く音がする。
「うっ、すまん。士郎こっちに裏口がある! ネギ、いやカモには変な誤解はされたくねぇぜ」
仁は先に全力で奥へと走って行く。
必死さが伺えるから、神楽坂さんの鉄拳が本当にイヤなんだな。
「ちょっと何でアンタ達が――っ」
「ま、まさかずっとそこに?」
「すまない、所々だが聞いてたのは俺だけだ。
仁には何も言うつもりはない。それと覗いてないからな」
聞いてたことを正直に言ってしまったが、
顔に出るので言わなくてもバレてしまうからな。
とにかく先に行く仁をすぐさま追いかける。
あ、裏口あったんだな。解析してたらすぐに出れたのか。
「服はどうする?」
仁に追いついて声をかけるとその場で停止。
出来ればこの格好で余りうろうろはしたくないよな。
「部屋に戻って浴衣と下着はタオルで代用、
風呂場に置いてある服は近くで見張ってからだ。
朝倉達が入ってくる可能性があるからな」
……今、フェイトが潜入して来たら大変だ。
こんな格好で戦闘を開始しても、気が引き締まらない。
本当にそうなった場合は心構え変えるけどさ。む……
「仁、神楽坂さん達もこっそりついてきてるみたいだが」
「チッ、何てこった。今頃鮮明に、ここの出来事を思い出すってナンデだよ」
自分に突っ込みを入れて何だか間抜けに見えるぞ。
そして何か思案してるのか俯き、すぐに思いついたような顔をする。
「つまりだな。このかは強大な魔力を持った魔法使いってことで猿の姉さんに狙われてるってこった。
それに詠春はネギの親父の戦友。学園長も魔法使いだからこれは当たり前な家系だな」
「おい、何だよいきなり……その声量だと神楽坂さんに聞こえるんじゃないか?」
「いいんだこれで、後は部屋まで退却だ。ゴーゴーッ」
「はぁ……戦闘前なのに、こんなんでいいのか……」