side―防人 仁―
「はぁ、アスナが追いかけてこなかったのはよかったが、大変な目にあったな」
「確かにそうだな……無事に服も回収できたし万事解決ってことだ」
風呂場の災難な出来事から離脱し、それぞれ浴衣を着ていた。
だけどそれは少しの間の事で、朝倉達が風呂場に入ったのを見計らい、
すぐさま服を回収して、すでに着替え終えている。
いやぁ、わかりやすい場所に置いといてよかった。
アスナが来たら下着ドロだーって言われてたかも知れないしよ。
……そのアスナ達は無事に戻ったのかな。
「マダ時間ガアルンダロ? 花見サセロヨ」
「時間はまだあるかはわからんぞ……
そうだな……士郎、見張るついでにチャチャゼロに外で酒を飲ませてやってくれ」
「それぐらいならお安い御用だ。フェイト達が居ればすぐに知らせる」
「ああ、頼んだ。それとコレは終わるまでの流れのメモだ。一応、読んどいた方がいい」
士郎に紙を渡し、受け取った士郎は見張りとチャチャゼロの世話をするためすぐに外に出る。
……もうすぐフェイトがこっちに来る時間がくるはず、なのだが一向にアイツ等は姿を見せない。
千草とフェイトは近くの木の上から此方を観察してるはずだが、襲ってくる気配はないし、もう少し遅くに来るのか?
うーむ、襲ってくるタイミングが変わってもいいけど、
フェイトの作戦が丸っきり変わってたりしたらヤバイな。
しかし、あのフェイトの作戦が一番手っ取り早いからそれで来る確率が高いと思う。
……士郎から知らせが来るまで瞑想でもしとくか。
む、知らせが一向にこないな。
もう、1時間は経ってないか……?
瞑想やめて、オレも士郎のとこ行くか――
「あの、仁さん」
「な、刹那? どうした、このかと話するんじゃないのか?」
何故、刹那がこの部屋に来てるんだ?
風呂場か何処かでこのかと話をするんじゃ……
「ええ、そのつもりでしたが、どのように話すのがいいのか仁さんにアドバイスをと」
なるほど、オレにアドバイスを求めに……って何でオレなんだろ?
いや、細かいこと気にしてる時じゃないな、簡単に助言するか。
刹那は正座をして聞く準備整えてるな、礼儀正しいぜ。
「そうだな、このかには――」
助言を言おうとする前にポケットに入れてた携帯の電話が鳴る。
なんかバッチリなタイミングだな。
「わりぃ、ちょっと待ってくれ」
「あ、はい」
相手は…………士郎だ。まさか、フェイトか!?
直接言いに来た方が早いだろうに……とにかく出ねぇと。
『仁、お前の部屋に結界が張ってあって中の様子がわからない。外から何を試しても駄目。
もしかすると部屋の基点を壊す必要がある結界、此方の世界の特別な結界だ!』
「何!?」
部屋からは――くっ、出れねぇ。
外に出ようとしても透明な壁で囲まれてる状態って感じだ。
ヤバイ、刹那はこの部屋に居る。
「今の声は士郎さん? どうしたんですか?」
「刹那! このかは何処に呼んだ!?」
「ふ、風呂場ですが」
よし、ここは変わりない。
刹那は今は此処、士郎ではこの結界は解けない、つまり刹那を送るのには時間がかかる。
それに加え、このままだとオレからの手出しも出来ない。
そして、刹那とこのかの仲を取り戻すイベントが発生しなくなる……
チッ、これはしょうがない、最も重要なのは『ネギ』の成長だ。
「士郎、ここに結界を張られてるということは、すでにほとんどが石化、違うにせよ此処に居る人はやられている。
まずは女子の部屋に行き、ゆえが石化されてないか確認、次にネギと合流、さらに次に詠春と会え。
今の詠春ではフェイトには敵わんから危ない状態、手っ取り早く石化されるている確率が高い。
ルールブレイカーで解呪しようとするな。何があるかわからんから魔力は温存だ。
詠春の安否確認後、風呂場に行きアスナと合流、それとフェイトに合っても無理に闘うな。
狭い空間で石化魔法を使われたらお前の対魔力じゃすぐにアウトだ。だが、フェイトが逃げたら追ってくれ。
違いがあれば再びオレに連絡、ゆえの安否を確認後も連絡、それに三人でフェイトを追い始めても連絡を頼む」
『了解した。……仁、結界から抜けれるんだろうな?』
「当たり前だ!」
士郎でもフェイトの潜入を感知できなかったとは予想外だ。
くっ、過ぎてしまったことはしょうがないな。
今、一番重要なことは結界の破壊、ゆえの安否。
ゆえが石化されていても、オレから【援軍】を呼べばいいのか?
しかし、ゆえがこの出来事を見てないと今後の流れが大きく変わる可能性がある。
とにかく、オレから出来る事を順次やんねぇと。
次はじぃさんに連絡が一番か、エヴァならこの結界を解けるだろう。
解けなくともエヴァが来れば、全ての流れを似たように戻せる。
結界に閉じ込められて焦ったが連絡をとれるってのが救いだな。
「――――おぃ、じじぃ!」
『な、なんじゃ。鬼気迫るような声で』
「エヴァから呪いの精霊騙せって言われてるだろ。ちゃんとやってるんだろうな?」
『…………』
「なんだその間は……まさか!」
『フォフォフォ――』
「っ! 切りやがった!? あんのクソじじぃぃぃっ。帰ったら血反吐出すまで搾り切ってやる」
自分の孫が危ないっていうのに何故だ。
士郎が居るから安心してやってなかったのかコノヤロウ。
あぁっ、こんな時に限って何で悪い方に進むんだよ!
む、携帯の着信メロディ、士郎か!
『皆、石化されてる。だが綾瀬さんは逃げれたようだ。
それに、俺の横にネギ君も居る』
「そうか、じゃぁ引き続き頼んだ」
簡潔な会話、長く取る時間はない。
ゆえが抜け出せられたのは朗報か、ネギも無事なようだしな。
だが、これからどうする、結界の解き方なんぞオレにはわからんし……
「じ、仁さん今までの会話は――」
「すまん、少し取り乱しちまってたな。
――敵襲だ。さっきのオレの行動でわかったと思うが、
刹那とオレはこの部屋に閉じ込められてる」
「お、お嬢様は……?」
「このかは士郎に任せれば大丈夫だ。
それでも、オレ達が一刻も早く出られれば幸いだな。
だが、士郎でも解けないこの部屋の結界を解かないと出れないのが……」
「…………」
最後の部分は一人事のように呟き、
辺りを触ったりして怪しい部分がないか確認する。
士郎の言う結界の基点とやらは全然感じ取れねぇ。
士郎に出れるって啖呵切っちまったがこれはヤバイぜ。
意味があるかわからんが辺り一体にカラドボルクを突き刺しちまうか?
「仁さん、こんな時に何ですが……」
「どうした?」
「仁さんの先ほどの会話、早口だったので所々しか聞こえませんでしたが……
まるで、これから起きることが事前にわかってるようにも聞こえました。
それに今日の昼にも士郎さんがオカシイことを言っていましたし……」
刹那が大人しいと思ったらそれを考えてたのか。
このかが危ないかもしれないのに思った以上に冷静だな。
それより、士郎のやつまたボケてしくっちまったようだな。
止めはさっきのオレと士郎の会話なんだろうが非常時だったからな。
どうする、教えるべきか…………はぁ…………
「……オレに対して嫌悪が沸くと思うが許してくれとはいわない」
「へ?」
嘘はつくのは簡単、かつバレない自信はある。
しかし、隠していてもいずれ何かの拍子にバレてしまうかも知れんよな。
主に原因を作るのは赤髪のヤツだけどさ……現に、さっきのもそうだし。
まぁ、隠しすぎるのも心が病むからな……語るのは得意じゃないんだが――
「――とある少女がいた。その少女は村の一族とは姿が違うという理由で蔑まされていた。
少女故に無力、さらに少女には親もいなく村がある里も離れようとはしない。
長年に渡る仕打ちに耐えてきた少女はとある男に拾われることになる」
「じ、仁さん……?」
オレは結界の基点を探しながら淡々と話していく。
後ろでは刹那の驚いてる声、いきなり語り始めてるから当然だけどな。
「男は少女を暖かく自らの家に向かい入れ、娘と少女に交友を持たせた。
男の娘は人が好く、誰よりも心優しい。そんな男の娘と少女は互いにあだ名で呼び合うほど親しくなっていった。
――――だが、あることがきっかけでその二人は曖昧な関係になってしまい、少女が男の娘に距離を置いてしまった。
そのきっかけとは川で溺れた男の娘を助けられなかったという事。
曖昧な関係のまま歳月が過ぎ、少女が十二の時に拾ってくれた男に娘を護衛してくれと頼まれ、
過去の暖かい記憶と自分に立てた陰から護衛するという誓いから、自ら進んでその任を引き受けた。
そして、現在に渡り少女は男の娘を陰ながら護衛をし続けている」
一拍を置き、正座している刹那の目を見る。
「――しかし、少女には他人に言えない秘密がある。
その秘密とは彼女には人の血とは別にもう一つの血が流れているということだ」
「っ!?」
「……オレは此処、いや、3−Aに関わる人の過去、未来の事を知っている。
我がままなのだが修学旅行で事前に防げることでも、
ほとんどオレの知る未来通りにオレは運んでいっている」
士郎と麻帆良から離れれば、それで万事解決なのだけど、
オレの性格上、離れられんかったしな。
というより、麻帆良が一番信頼が置ける場所。
それに、何かの拍子で巻き込まれる可能性が高そうだな。
……黙り込んでる刹那にもう一言付け加えようか。
「刹那には知っておいて欲しいことがある。
いつか刹那の正体が知られようとも皆は受け入れてくれる。
刹那の知るこのかに至っては知られようとも受け入れてくれるのは当然だろう。違うか?」
「…………」
「自分を卑下するな。お前の在り方は美しいものばかりだ。
だからこそ、オレは朝のような事を言ったのだがな」
……これ以上は刹那に声をかけるべきじゃないだろう。
実に空気が重たい……まだ刹那は14だもんな。
これで、オレの事を話したクラスメイトは3人、士郎を入れれば4人目か。
……茶々丸は生まれたばかりだから違うとして、
エヴァは自分の事を知られてるってわかってんのかね、深いことは話してないけどさ。
はぁ、とにかく今は結界の解く方法を考えないと、か。
side―衛宮士郎―
「ネギ君!」
「し、士郎さん……」
ネギ君が3−Aの女子の客室の前で固まってた。
……やはり女子はみんな石化されてる……綾瀬さんはいないな。
まずは、仁に連絡をしないと。
『皆、石化されてる。だが綾瀬さんは逃げられたようだ。
それに、俺の横にネギ君も居る』
『そうか、じゃぁ引き続き頼んだ』
簡潔に述べてすぐに電話は切る。
これからの事は、仁に渡されたメモを見て流れは把握できている。
先ほどの仁の指令は、行動し易いように全て述べていた。
あの内容から、俺は表で行動。
桜咲さんの名前が出ていなかったことから、仁の部屋に桜咲さんも居るのだろう。
要するに桜咲さんの代わりに動けばいいということだな。
「綾瀬さんは何処か無事に隠れたようだ。
ネギ君、このかちゃんと神楽坂さんは?」
「あ、多分二人とも一緒です。連絡とってみます――“
ネギ君が仮契約カードを持ち神楽坂さんと連絡を取り始めた。
会話はできている、ネギ君が話している内容からしても神楽坂さんとこのかちゃんは無事のようだな。
「士郎の旦那、いつも以上に眉間に皺が寄ってるぜ」
「……オイ、何で俺の肩に乗ってくる」
「一匹増えたとこで士郎の旦那ならどうってことないだろう。
そういえば一番生き残りそうな仁の旦那はどうしたんでい?」
「ネギ君。神楽坂さんは風呂場に呼んだのか?」
仁に関しては、まだ言うべきではない。
カモの言葉は流して丁度会話が終わったネギ君に尋ねる。
肩の上に乗っかってる奴は拗ねてるが気にはしない。
「はい、その通りです」
メモに書いてあった通り順当に進んでるな。
さて、次は……
「っ……ネギ君、士郎君……」
後方からゴトッという石が床とぶつかった音と声。
振り向いた先には、
「長!」
ネギ君が言った通り、詠春さんが居た。
既に詠春さんの下半身は石になっている状態。
此処も変わりない、何かしら変化はありそうなんだが、どうなってる……
「申し訳ない。平和な時代が続いたせいか不意を喰らって、この様です」
「白い髪の少年に?」
「ええ、士郎君の言うとおりです。彼を知っているのですか?」
「京都に着いてから俺と仁が眼を付けられていたんです。
少年の正体の方はわかりません……」
「そうですか……士郎君の力は聞いていますが……
……念のために……学園長に連絡を…………このかを……頼み……ま……す……」
詠春さんはこのかちゃんの身を案じた後、完全に石化……
……仁の言う通りに行動か…………
「お、長……」
「俺が学園長に連絡しよう、風呂場まで走るぞ」
「は、はい」
ネギ君は杖を呼び出して手に取り先に走り出す。
俺もネギ君の後を追いかけるように走りながら電話をかける。
学園長に電話は仁もしてるとだろうけど俺からも話しておきたいからな。
「――学園長、そちらの首尾はどうなっていますか?」
『次は衛宮君か、わしはエヴァの呪いを解く方法を考えておる。
そちらはどのような状況になっておるのかの?』
次は俺、と言ったってことは仁もかけていたか。
エヴァの呪いを解く方法を考えてるって間に合うのか?
いや、流れ通りならギリギリで来るんだろうけど……
仁ならもう少し早く行動に出させるように言ってそうなんだがな。
「此方の残る戦力は俺、ネギ君、神楽坂さん。
仁と桜咲さんは部屋に閉じ込められていて、
それ以外の人、長も含めて石化されている状態です」
『何と! 通りで防人君は焦っておったのか……
さらに西の長までもとは……衛宮君、エヴァ呪いのことは尽力する。このかの事を――』
「わかってます」
『うむ――』
学園長が先に電話を切る。
尽力をするってことはエヴァの呪いを解くには時間がかかりそうだな。
流れは結局変わらずか、だが仁と桜咲さんがいない今は俺がしっかりやらないとな。
そして……アイツの、仁の重要な目的はメモの最後に書いてあった、ネギ君の成長か。
「士郎の旦那……」
「心配するな。大丈夫だ」
「入るぞ」
「はい」
風呂場の前、細心の注意を払い、閉まっているドアをバンと開く。
「あ、アスナさん!」
フェイトはいないが、視界に入れることができない状況だ。
神楽坂さんは何も着ていない状態の姿、当たり前だがすぐに目を逸らす。
見てしまっては非常に申し訳ないからな……
神楽坂さんをなるべく視界に入れないようにして近寄り、
フェイトが訪れてもいいように周囲の警戒。
来なければ一番いいんだけどな。
「大丈夫ですかアスナさん!」
「う……このかがさらわれちゃった……」
ネギ君の言葉に荒い息遣いで答える神楽坂さん。
もしかして……ひどいことされたのか?
それは大変――――
「――――邪眼の主よ。時を奪う毒の吐息を』」
「くっ」
ネギ君と神楽坂さんを担ぎ、急いで風呂場から出る。
「『
微かに聞こえたラテン語の詠唱。
俺が風呂場から出た瞬間に風呂場が白い煙に包まれた。
これが石化呪文か、もう少し出るのが遅れてたらやられていたな……
「今のを人を連れて躱すとは、やっぱり君が一番手強いようだね」
「お褒めに預かり光栄だ。それでこのかちゃんは何処に連れて行ったんだ?」
フェイトは風呂場の中、俺達は外で対峙している。
何時見てもフェイトは無表情のままだな。
「君ならすぐに見つけられるだろう?
僕は頼まれてることもあるしここで失礼するよ」
あれは……駅のホームで見たときと同じ水を利用しての転移魔法か。
「俺は奴を追いかける。ネギ君と神楽坂さんはどうする?」
「もちろんついていきます!」
「わ、私も行くわ!」
二人とも気合は十分だ。
神楽坂さんは視界に入れてないが声でわかる。
……やはり、流れの変わりが少ないな。
「神楽坂さん、行くのはいいが服を早く着て欲しい。
その間に俺は電話かける必要があるからさ。
ネギ君は神楽坂さんの周りを警戒しといてくれ。
カモもいい加減降りてネギの方に乗れ」
「うっ……」
「わかりました」
カモは言う通りに、すぐネギ君の肩に乗り。
神楽坂さんは服を取りに行くため離れ、ネギ君も後ろからついていく。
仁と話す内容は聞かせれるものじゃないから、この処置で間違ってないだろう。
「――仁、これからフェイトを追いかけに行くところだ。何か考えはあるのか?」
『そうだな……言ってはいなかったが刹那がオレと同じく閉じ込められている。』
「桜咲さんの事はそうだと推測していた。それでどうするんだ?」
『む、わかってんなら、オレの今の状況も全てわかってんのか。
じゃぁ、オレの言いたい考えもわかってんだろ?』
仁の状況は俺と会話してる部分を桜咲さんに聞かれてしまってピンチってとこかな。
それは、仁なら上手く対処してるだろう。
さて、仁の考えてることは風呂場に行く前に考えてた通り――
「俺が桜咲さんの代わりに動けとってことだな?」
『その通りだ。頼むぞ……』
「わかってる。それで、いつになったら出られるんだ?」
『くっ――』
切られてしまったな。
最初に電話かけた時にもやったけど、
仁の場合、挑発を交えた言い方をすればやる気が上がるだろう。
む、神楽坂さんが着替え終わったか、丁度いいな。
「士郎さん、準備オーケーです」
「さ、早くいくわよ!」
「ああ、行こう」