――The outside aspect――


「くぅ……新入りの奴はホンマに大丈夫なんか……」

西の本山の近くにある山の中。
そこには岩の上でうろうろとする千草が居た。
また、千草の周囲には水位二十センチほどの湖がある。

千草はフェイトに本山を単独で突入して木乃香を捕らえてくると言われ、
自分では為すすべもない本山の潜入を駄目元で任せ、フェイトの帰りを待っていた。
今は不安が積もりに積もって動かずには居られない状態というところ。

「あれは……新入りか?」

千草の視線の先には小さな影と大きな影が。
影の正体は千草の言う通りフェイト、
そして、木乃香を抱えたフェイトの式紙であった。

「やるやないか新入り! どうやって本山の結界を抜いたんや!?
最初からお前に任せといたら良かったわ」

念願の木乃香奪回の任を完了してきたフェイトに向けて、嬉しさの余り一方的に話し出す。
一方、フェイトは嬉々としている千草を無言かつ無表情でただ見ているだけであった。

「お嬢様は新入りの式神からウチのに移してと。
ふふ、これであとはウチらがあの場所まで行ければ勝ちや……
お嬢様には何もひどいことはしまへんから安心しなはれ」

「んー!」

木乃香は口にテーブを貼られ、呻く声しか出せず目に涙を浮かべ恐れている。
それに加え、足は縛られてないものの手を縛られている状態。
まさに誘拐、いくら千草は優しく声をかけようが木乃香が恐れるのも当たり前だ。

「さあ祭壇に向かいますえ――

――やっと追いついたか」

千草が出発しようとする前に湖に新たな人影が三つ。
本山からフェイトを追いかけてきた士郎、ネギ、アスナである。
アスナはハリセン、ネギは杖、士郎は干将・莫耶を手に携えていた。

「なんや、またあんたらか。
三人で来はるとは……お嬢様が大好きなひよっこが来てへんな、ふふ」

「単刀直入に言うがそちらにこのかちゃんを返す意思はあるのか?
今の内に事を収めておかなければこれから来る応援で痛い仕打ちを受けると思うが、どうなんだ?」

「ふふん、応援が何ぼのもんや。あの場所まで行きさえすれば……
それよりも、あんたらにもお嬢様の力の一旦を見せたるわ。
そしたら、そないな強気な口も聞けんようになるえ」

千草が湖の上に降り立つ――

――――

「ふむ、そうやな。お嬢様を連れてきたのも新入りやし、ここはその通りにしたるわ」

――前に千草はフェイトから何かを言われ、
その言われた何かを承諾してから木乃香を抱える式紙と共に水の上に立った。
水の上に立つ、常人では決して出来ない事が出来たのは千草の場合は気の使用によってのもの。
コレはこの世界の者で実力がある者ならば大抵は行える技術だ。

「お嬢様失礼を」

千草はピッと札を木乃香の胸元に投げる。
胸元に貼られてた木乃香は一瞬悶えた。
それを見たネギとアスナが一歩踏み出すが士郎がそれ以上前に出ることを譲らない。
……それはネギ達がさらに踏み込むとフェイトが仕掛けて来ると察知したから。

「オン・キリキリ・ヴァジャラ・ウーンハッタ」

千草の周囲に陣が浮かびあがり――

「ちょ、ちょっと!?」

明日菜が周囲の変化に声を上げる。
周囲の変化とは鬼が次々と現れ始めたこと。
さきほど千草が唱えたものは木乃香の魔力を使うことによって鬼を呼び寄せるための呪文であった。

「お、多すぎませんか……」

「このかの姉さんの魔力使うにしてもこれはひどいぜ」

次々と現れる鬼にネギとその頭の上に乗っかっているカモが、
自分達の周囲を見渡しながら不安げな声を出す。

「……200、300、いや、400は居るか」

鬼が全て出終わった時点で冷静に現状の判断をする士郎。
ネギ、明日菜、カモと士郎の心情の違いは今までの経験から。
ネギ達は知らないが此処とは別の世界で幾度の戦場を越えてきた士郎だからこそ冷静で居られる。

「さすがお嬢様や。
これだけの鬼どもを呼んでもまだまだ余力がある。
ふふん、ガキやし殺さんよーだけは言っとくわ。ほな」

千草、フェイト、このかを担いだ式紙が飛び去っていく。
士郎達は鬼に囲まれてるため、為すすべもなくそれを見逃す事になった。
その間にも呼び出された鬼達は現れてからずっとだが士郎達を見てざわめいていた。
鬼達の口から出る言葉は呼ばれたと思ったら相手は子ども等だ、と言う事。
明らかな余裕が鬼達から感じ取れる。

それに反して今の光景は元々一般人であった明日菜に大きな恐怖を抱かせるもの。
明日菜の体はガタガタと震えだしていた。

「兄貴、時間が欲しい障壁を」

カモがこそりとネギに囁く。
これにネギは頷いて答え、

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル――『逆巻け、春の嵐。我らに風の加護を』」

小声で詠唱を開始し、ネギの立てた人差し指が光り、

風花旋風風障壁』」

詠唱の完了と共に竜巻がネギ達を中心に取り巻いた。
これにより、竜巻の力で数匹の鬼が軽々と吹き飛ばされる。
当然、その光景を目にした周囲にいる鬼は竜巻に近づこうとはしない。

「な、なにコレ!?」

「風の障壁です。ただし2、3分しか持ちません!」

ネギ達は鬼と隔離された竜巻の中。
外の状況はわからないが、時間を稼げる事は確かだ。

「ちょっくら作戦会議――って、士郎の旦那、こんな時に電話なんて」

「そう慌てるな。こういう時こそ冷静でいる事が重要だ」

士郎は懐から携帯電話を取り出し操作していた。
士郎がかける電話の相手は、言わずとも一人。

『ん、雑音がひどいな。どうした士郎?』

「雑音はネギ君の風の魔法のせいだ。
こちらの状況だが、鬼が400体を越える量で現れた。
そこで一先ずお前の意見を聞きたい。
ああ、ネギ君達にも聞こえるようにスピーカーにしたからわかりやすいようにな」

ネギと明日菜にも聞こえやすいように士郎が中心に電話を出す。
最後のわかりやすいように、の本来の指す意味は士郎と仁に取っては全くの別なものだろう。

『400!? 千草のアホめ……そうだな……士郎、一人で引き付け役を任せてもいいか?』

仁の言った事にネギ、明日菜、カモは言葉を詰まらせて驚いている。
それもそのはず、千草は殺さないとは言ったが一般人やそれに近しい者が常識的に考えれば、
400の鬼の軍勢に一人で立ち向かわせるという無茶な事をさせようとすれば驚くのは当たり前。
任せられた方は戸惑うはずなのだが、

「やれと言われればやる」

士郎は依然変わらぬ冷静な表情で答えた。

「ま、待って! いくら何でもあの数に衛宮さん一人じゃ……」

しかし、士郎の答えにすぐに明日菜は待ったをかける。
そして顎に手をつけたり、上を見上げたり、
唸り声を出したりしながら悩み始め――

「……うぅぅ……じゃぁ私も残る!」

――涙目になりながらも大声で鬼に立ち向かうと決めた。

「あ、アスナさん、それは……」

「いや、案外いい手かも知れねぇ!
どうやら姐さんのハリセンはハタくだけで召喚された化物を送り返しちまうからな」

明日菜の案に止めようとするネギだったが、
すぐにカモに間に入られてそれを止められる。
ネギは反対、カモは賛成、士郎は、

「そんな武器だったのか……」

明日菜の武器を見やるだけ。
士郎は初めから明日菜の案には賛成している様子。

『士郎、アスナの武器はどうだ?』

「駄目だ。解析しようにもまるで初めからそこにないように見える」

急に流れと異なった話にネギ、明日菜、カモは頭にハテナマークを浮かべたような顔で士郎を見る。
そんなネギ達を士郎は無視……というより極力見ないように心掛けていた。

『……それほど期待してなかったからいいか。で、大丈夫なのかアスナ?』

「こうなったらやるしかないでしょー! それよりアンタ何処にいるのよ!?」

『閉じ込められて出られないんだ。もう少し時間をくれ。
ネギ、そこの小動物も思ってるかも知れんがネギはこのかを取り戻しに行け。
それとアスナの魔力供給を防御だけに節約して出来る限り時間を延ばせ。
白髪の少年と千草とは戦わんでいいから、このかを奪取したら本山に全力で戻り、援軍を待てばいい。
今打てる手段でこれが最善だろう』

「は、はい!」

「名前で呼んでくれよ仁の旦那……」

『オレから言えるのはここまでだ。健闘を祈る』

仁は要点だけを次々と話していき、
電話を切ろうと言葉を締める。

「仁……何かあったか?」

だが、仁が切る前に士郎が一つ質問。

「む、なんでだ?」

「いや、いつもの仁なら深い事は考えてるかはわからんが、
神楽坂さんが立ち向かうと言った時に……俺からはどんな言葉かは言いにくいけど、
苦言の一つでもして緊張をほぐそうとするだろうからな」

「むっ……」

士郎の言葉に明日菜は思い当たる事があるのか眉をひそめる。

『何気に酷い言い様だな……まぁいい、頼むぞ――

「最後にもう一つ。
この質問は二度目だが、いつになったらそこから出られるんだ?
出られると啖呵を切っていたと記憶してるんだが……」

『クッ――』

士郎の持つ電話からすぐにプツッという音が鳴る。
何度も先に切ろうとした仁、しかし士郎に何度も止められ、
仕舞いには士郎のからかったような言葉によって切る事になった。

「最初に会った時に比べて、なんか捻くれてない……?」

「む、そうかな……注意するとしよう……」

少し呆れた顔で明日菜に言われた士郎は面目ないと反省の色を出す。

「明日菜さん、士郎さん、そろそろ時間です!」

風の障壁魔法が徐々に弱まり始めていた。
消えるのも時間の問題、ネギ達は戦闘態勢を取る。

 

「そろそろか……」

一方、竜巻の周囲に居る鬼達では、一匹の鬼が呟いているところ。
鬼達も千草の命令の通り士郎達を捕らえるために戦闘態勢を取った。

鬼達から聞こえる強い音がだんだんと弱い音に変わり、
視界を遮る風が消え始め、中が見えた時、

―――『雷の暴風』!」

事前に詠唱を終えていた雷の魔法がネギの前方の直線上に居た鬼達に襲いかかる。
閃光と響き渡る轟音、放たれた雷は鬼達には一溜りのない威力、
ある程度纏まっていた鬼達はその雷で40体以上が還る結果になってしまった。

「西洋魔術師か!?」

鬼は呼び出されただけで敵の事は何も知らされてないため、
ネギが西洋魔術師とわからなかったのは無理もない。
不運にも放たれた魔法によってネギの正体を知らされることになった。

雷の暴風によって戸惑う鬼たちと発生した土煙の中、
杖に乗ったネギとカモが鬼の囲いから空に離脱する姿が見える。

「無事に行ったか。それにしてもネギ君があれほどの威力がある術を使えるとはな」

「……衛宮さんは余裕そうね」

飛び去っていくネギを見る士郎の表情を見て明日菜は溜息を吐く。
士郎は一時は違ったが、その時以外は変わりなく冷静で涼しさが漂っている。

「さてと、アイツ等は阿呆な事をした仁と思って挑めばいい」

「それはそれで嫌なんだけど……ってやっぱり捻くれてるわよ」

先程、反省すると言ったばかりの士郎に明日菜が再度忠告をする。
しかし、今の士郎の言葉は――これも先程の事なのだが、
士郎が仁に言ったように明日菜の緊張をほぐすための言葉だろう。

「うぅ、もぅ、こうなったらやけよー!」

明日菜は吼えて、士郎より先に鬼に向けて駆け出す。
その明日菜の様子を見て愉快と笑う鬼達。
士郎も明日菜を追うように……いや、すぐさま追いつき平行して駆ける。

鬼達も向かってくる士郎達を迎え撃ち、捕らえようと構えた。
だが、その行動を取るのも士郎達が向かっている方の数十匹のみ。
数が多いので観戦しようとする鬼もちらほらと居る。

「はは、かかってきな、坊主――

士郎と一番初めに戦闘をするであろう鬼は遊んでやると、
ちょいちょいと手を出して挑発し、笑い声をあげながら手に持つ棍を構える。

――!?」

だが、余裕を出していられたのも一瞬。
すぐにその鬼は士郎によって還されてしまった。
さらに士郎は勢いを衰えずに周りにいる鬼を還し始める。

「なっ!? やべぇ、強いぞ、この坊主ッ!」

「嬢ちゃんの方もやばい、あのハリセンに当たったら一発で返されちまう!」

粗い動きながらも持ち前の運動神経と破魔のハリセンで鬼を一撃で還す明日菜。
陰陽の二刀を使い、鬼の動きを見極め、洗練された動きで鬼を還す士郎。

 

――修学旅行3日目夜、仁によって予期されていた戦が此処に開始した。

 

 

 <<BACK  NEXT>>

 TOP 

inserted by FC2 system