鬼の囲いから抜けて空を翔けるネギとカモ。
ネギは後方で鬼に立ち向かう士郎達を見て不安の表情を出している。

「兄貴、士郎の旦那がいれば姐さんもきっと大丈夫だって。
あれだけ冷静でいられたって事は多分本当の戦いでもやってきたに違いねぇ。
それに俺達がさっさとこのか姉さんを助ければ万事解決だ!」

「……うん。
そっか、カモ君の言う通り僕達が頑張らないとだね」

ネギの不安な表情は消え、気合が満ちた表情に変わる。
カモもネギの表情を見て一安心といったところ。

「行くよカモ君――――『加速』」

捕らわれた木乃香を一刻も早く奪取するため杖の速度を上げた。

 

 

 

 

「見えた! あそこだ!」

ネギ達の視線の先には広い湖、そして岸にある建物から湖に上に建つ橋、
その橋の先には祭壇、さらに祭壇から湖を隔てて岩盤の上にある大岩があった。

「この強力な魔力は……!? 儀式召喚魔法だ。
何かヤベェもん呼び出す気だぜ。兄貴、手遅れになる前に!」

「う、うん。このかさんを助けて早く戻らないと――

ネギとカモが震えあがる。
不意にネギの後方からドンと響く音が続けざまに鳴ったせいだ。

「ッ! 狗神!?」

音の発生源から現れたのは狗を象った黒いもの。
発生源から狗の尾まで影が伸びるように出ている。

ネギの言う通り、これは狗神使いが使用する狗神。
狗神使いが自在に操る魔法のようなものだ。
その狗神が四匹、ネギを追うように高速で飛んできていた。

「風楯……!」

ネギは急ぎ障壁の呪文を唱える。

――ッ!」

だが、間に合わなかった。
狗神はネギの乗っていた杖に当たって音を立て弾ける。
杖に走る衝撃、乗っていたネギとカモは杖から弾き飛ばされた。

落下していくネギとカモ。
ネギは杖がなければ空中に留まることはできない。
時間が経つにつれてどんどんと地に近づいていく。

「くっ――『杖よ』」

当然、そのまま落ちるわけにはいかない。
すぐさまネギは杖を呼び寄せる呪文を発し、

風よ!』」

杖を取ると同時に風を巻き起こす呪文を唱えた。
巻き上がる風で落下速度を落としてネギとカモは木々の間を巧く抜けて無事に着地。

「まさか、こんなに早く再戦の機会が巡ってくるたぁな。
――ここは通行止めや、ネギ!」

ネギが着地してすぐさま前方に笑みを浮かべる少年が現れる。

「コ、コタロー君!?」

少年は狗族のハーフの小太郎。
ネギが本山に来る前に戦い、明日菜と途中から参戦したのどかの手助けで少年から逃げることができた。
……いや、逃げることはできたのはネギの底力のお陰で小太郎に傷を負わすことも入っているだろう。

ネギは一度は逃れれたとしても今はそうはいかない。
小太郎はネギ達との戦いから時間が経ち回復した今、戦う絶好のチャンスを捨てるはずがない。
何故なら小太郎は生粋のバトルマニアなのだから。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「戦闘開始から5分ってとこで半分近くは減ったかな。
大丈夫か神楽坂さん?」

「衛宮さんに助けてもらってるみたいだし、傷は負ってないから大丈夫よ。
……それにしても衛宮さんは強いわね。
まだまだ余裕あるように見えるし……」

士郎と明日菜は背中合わせで会話。
鬼は予想以上の力の差に驚き一度間合いを空けて士郎達を見ている。
その内に明日菜は乱れた呼吸を戻しにかかっていた。

「俺は大したことない。
俺より強い奴なんて五万といるだろうからな。
神楽坂さんだっていずれ俺より強くなるかも知れないぞ」

「ずいぶんと謙遜するわね。
……何かむず痒い……そうだ、仁みたいに呼び捨てでもいいのよ。
衛宮さんはみんなに『さん』づけか何故か『ちゃん』づけみたいだけど……
神楽坂だと呼びにくいでしょ?」

「そう言うのならそうさせてもらうか。
そちらも下の名前で呼び捨てにしてもらって構わないぞ。
3−Aなら下ので呼び捨てにされそうなんだけど、そうする人がほとんどいないんだよなぁ」

「うーん、私もそっちの方が性に合うんだけど、衛宮さんは何となく年上に感じるのよ。
喋り方も上に感じる時あるし……けど私、敬語使ってないか。
……それじゃあ、そう呼ばせてもらおうかな」

あははっと明日菜は苦笑い。
端から見れば鬼に囲まれた中で気楽にしてる二人は異常に感じるだろう。
この様子でいられるのは明日菜の天然が士郎にも伝染してるのか、
士郎と明日菜の二人の信頼が強いせいなのか……

「ああ、そうしてくれ」

先程の明日菜の問いに士郎はさっと答える。

「さて――いくぞ明日菜」

「ええ、士郎」

二人のしばしの休憩の後、陰陽の剣と破魔のハリセンが再び鬼に向けられた。

鬼達は千草の士郎達を捕らえろ、との命により手加減をして戦わなければいけない。
それでも今までの戦闘で士郎達と鬼達の力の差は歴然。
鬼達にとって動揺を隠せないままの戦闘の再開になる。

「きゃ!?」

――が、その中、今までの鬼とは全く動きが異なったモノ、
すなわち別格の力を持ったモノが士郎達に襲い掛かる。

明日菜に対しては大剣を持った烏の化生の烏族。
士郎に対しては逆手で両手に剣を持った狐の妖魔。

「なかなかやるなぁ嬢ちゃん」

明日菜に襲い掛かる烏族が大剣で斬撃を繰り出しながら話しかける。
苦い顔をしながらも明日菜は繰り出される剣を何とか凌ぐ。
今まで優位に戦ってきた明日菜の立場が一転して苦しい展開。

「しかし某は今ま――!?」

不自然に途切れる烏族の言葉。
烏族が自分の体を見やると白の中華剣が突き出ていた。

「すまない。話してる途中だったようだが還ってもらう」

烏族の後ろから士郎の声が聞こえる。
士郎は狐の妖魔を相手にしていた筈だがその妖魔の姿は既になくなっていた。

「どうやら旦那さんは力を隠してたみたいですな。
今の動きはシネマ村の時の動きと全く違ってましたぁー」

両手に二刀を持った小柄な少女が水を小さく跳ねらせながら士郎達の方に歩いて来る。

「月詠か」

「おやぁ? 旦那さんには名前を教えてないはずやのに。
……刹那センパイに教えてもらったんかな?」

士郎が眉根を寄せて渋った顔をする。
月詠の名を教えてもらったのは刹那ではなく仁。
仁も月詠の名は彼女自身からは聞いていない。
よって士郎が少々戸惑ってしまったのだ。

「その通りだ」

「そかー。また刹那センパイいのうて残念やけど旦那さんの相手しましょうか……あや?」

構え始めようとした月詠が、それを止めて遠く離れた所を見る。
それに釣られ士郎、明日菜、周囲に居る鬼も月詠と同じ行動を取った。

此処にいる者が見ているのは遠くに突然現れた大きな光の柱。
異常な現象と今までの事を含め、士郎達にとっては悪いモノだということが理解できる。

「な、なによアレは!?」

「ふふ、どうやらクライアントの千草はんの計画が上手くいってるみたいですなー」

明日菜は冷や汗を出し、月詠はにこやかに笑い、
周囲の鬼たちも綺麗やら面白そうやらを言い合って嬉々としている。

「ああ、そうだな」

士郎は何か目を瞑りながら納得したような感じで言う。
士郎側にとっては絶対的に不利な出来事が起き始めようとしているのに士郎は冷静な状態。
周りにいる者はそんな彼を不思議そうな顔で見る。

――だが、やっと此方も反撃開始だ」

「撃て、隊長!」

数発の銃声が響く。
その何処からか撃ち出された弾は明日菜の近くにいた鬼を撃ち抜き還した。
士郎と月詠の間に西洋剣が空から降って水の下の地に突き立つ。

――――そして突き立たれた剣の上に不敵に笑う人が着地した。

 

 

 

――side防人 仁――


「チッ、基点と言われても全くわかんねぇ」

部屋を見渡す。
基点とは関係ないが未だに刹那は正座し俯いて黙ったまま。
……悪いのはオレなのでしょうがないか。
協力を頼みたいとこだけど士郎が駄目なら刹那も厳しいだろう。
あのままそっとして置くのがよさそうだ。

アッチは千草がえらい数を呼び出したようだが士郎が居ればアスナも安心。
しかし、予定外の出来事が発生しすぎているため一刻も早くこの場を出たい。
特にネギの傍に行くことが一番重要だ。

士郎はオレを信頼しているからこそ言う事を聞いてくれる。
その信頼に裏切る訳にはいかない。

ああ、本当にやっかいだ。
やはり駄目元でカラドボルグを辺りに刺しまくるか?
……無駄な気がするけどさ……この見えない壁が腹立たしい。
押しても殴っても斬っても見えない壁で塞がれてるってどういうこった。

「クソッ。どうすれば抜け出せるんだよ」

見えない壁に寄りかかり思案開始。
……厄介すぎてイライラしてくるな。

―――――

「ん? ――ぶっ」

痛い。
見えない壁が急に消えて後頭部から床にぶつかったじゃねぇか。

「遅イゾ」

「……チャチャゼロか」

寝転がったまま横を見るとチャチャゼロが壁にちょこんと寄りかかっていた。
士郎が危ないと判断して置いてったようだ。
……動けないところを見るとエヴァはまだだな。

とにかく立ち上がってと。
それにしても、部屋の結界がなくなったのはラッキーだ。
何で結界が……それより早いとこ動いてかねぇと……の前に声かけないといけないか。

「刹那」

「は、はい」

刹那の返事には覇気がないな。
結界が消えたのも気づいてないし。
原因作ったオレが悪いんだけどさ……

「行けそうか?」

「……はい」

刹那は脇に置いていた夕凪を手に取りとゆっくりと立ち上がる。
自分で行く気があるのなら止める訳にはいかない。
あの状態でまともに戦闘できるのか不安だな。
……ともかく急がねぇと。

「チャチャゼロは危ないから留守番な。
千草が逃げた場合は追っかけて捕まえたら見張っといてくれよ」

不満そうにするチャチャゼロだけど、これはしょうがないだろう。
訓練じゃなくて実戦なんだから動けないと危ないんだし。

「ケッ、御主人ハ何ヲヤッテルンダ?」

「じぃさんのせいで遅刻だ」

「アノジジィニハ仕置キガイルヨウダナ」

「その通りだ」

チャチャゼロとオレの考えは全く同じ。
じぃさんには取っておきな仕打ちをしてやらねばな。

「じゃぁ俺達は行くからな。刹那行くぞ」

 

 

木々の中を駆け抜けて行く。
此処までの道中で障害はなかった。
お陰で順調に士郎達の居場所に向かっている。
当然だが士郎達に近づくにつれて戦闘音がでかくなってるな。

今の状況は最後の電話から時間が経ってるがまだ千草は召喚は出来てないようだ。
召喚されたアレは遠くからでもわかるはず……っと光の柱が現れたな。

「刹那」

オレの後方でついてくるようにだんまり状態で走る少女に声をかける。

「先にこのかを助けに向かって欲しい。
オレも士郎達の援護が終わり次第そっちに行く」

「お、お嬢様は!?」

こっちに心が戻ってきたな。
やはり刹那にとってこのかの存在は大きいか。

「まだ大丈夫だ。
このかの居場所はあの光の柱のすぐ傍。
士郎達と戦闘してる鬼達に気づかれないように回り込んで行くといい。
このかはお前の事を待っている……向かってくれ」

「……わかりました」

刹那はオレとは別方向に走っていく。
さて、聞こえてくる鬼達の声や戦闘音もすぐ近くだ。

む? チラッと光って何か見えた……隊長か。
丁度よくライフル構えてるとこだな。

――――見えた。

「撃て、隊長!」

 

――side out――

 

 

 

「随分と力の入った登場だ」

「少し暗い話が出ちまってテンション上げてかないとやってけねぇんだ。
ていうかお前はある程度どんな内容かわかってんだろ?」

「推測は出来るがそれは後で話そう」

敵がいるのにも構わず二人は気にせずに話し合う。
シネマ村で城の上にいた時と似たような場面。
剣の上から言う仁には異様な感じがしないでもない。

「ちょ、ちょっと何なのよー!?」

「あんさん誰ですかー?」

「言われずとも撃つつもりだったのだが……」

「じんは派手好きだったアルねー」

色々な事が同時に起きてテンパる明日菜、
堂々と知らない人物が現れていつもの気の抜けた調子で誰かと尋ねる月詠、
不満そうな顔をして木陰から出てきた龍宮と嬉しそうな古菲。

「あ、龍宮さんにくーふぇ!」

「おお、アスナ。アスナも頑張ってたアルね〜」

「ふふ、この仕事料は仁にツケて置こうか」

「むー、答えてくれへんのかー」

さらに気にせずに一人一人話しが勝手に進められる。
鬼達は余りの勝手さに見ているだけの状態。

「さてと……」

仁が剣の上からスッと降り、その剣を左手で持ってから深呼吸をする。
何か行動をしようとする仁に視線が集まって戦闘態勢に入る者も出る。
そして
――

「へ?」

「終わったらすぐに来い、投影は使い過ぎるなよ」

明日菜を空いてる右腕で抱え、士郎の横を通り過ぎる時に早口で囁いてから光の柱の方向にトップスピードで向かう。
仁の走る線上にいた鬼の一人を踏みつけることで高く跳び上がって、あっという間に鬼を越えて戦線離脱した。

「今の人はなんやったんやー?」

「あれはただのアホだ」

「真名は辛口アルねー」

走り去っていく仁をポカンと見ている月詠に龍宮が適当に答える。
適当とは言ってもどうでもいいの方だ。

「月詠と此処にいる鬼達は引く気はないのか?」

「ん? 旦那さんいきなりなんや。
そないな事言っても引く気がないのはわかってるやろー?」

突然、士郎の引けという忠告にそれはないと答える月詠。
周りの鬼も月詠の意見には同意している。
その答えに「そうか」と士郎は呟いた。
彼も重々その答えはわかっていた事なのだろう。

「古菲、この剣を使って周りから来る敵だけを龍宮と一緒に倒してくれ」

言ったと同時に投げた陰陽の剣が古菲の前に突き刺さる。

「しろーの武器はどうするアル……ん?」

手持ちの武器を他人に渡せばなくなるのは当たり前なのだが、
すでに士郎の手には古菲の前にある剣と同じ剣が握られていた。

「むむー、旦那さん手品ですかー?」

士郎がどうやって剣を取り出したのかを真にわかるものはいないだろう。
何故ならそれはこの世界に在るはずのないモノなのだから。

「まぁ、関係あらへんけど、そろそろ行きますか――っ……」

月詠が構えた瞬間に気絶し、両手に持つ刀を落とした。
それは士郎が回り込んで一撃で気絶するように月詠の首に一撃を与えたから。

今までの士郎の戦闘とは明らかに比べ物にならない動き。
それを見て驚く者が大半、いや、目で追えなかった者が大半の方が正しい。

「……違和感に完全に気づいたのはつい先程。
気づかなかった事が不思議だが昔に比べて妙に体が軽くなっている」

気絶した月詠を抱えた士郎が独り言のように呟き始めた。
士郎から発せられる気はオカシイぐらい静かなもの。
鬼達は雰囲気が一段と変わった士郎に近づけないでいる。

「仁がアスナを連れて行ったのは俺の動きの制限を解くためなのか」

その考えは間違ではない。
現に明日菜と共に戦っていた時は明日菜の守りに専念していた。

「多々疑問に思うことがあるが……これは仁と次に会った時に話し合うか」

士郎は月詠を一番近くの岩まで運び、
横に寝かせて岩から離れた場所に降り立つ。

「友に早く来いと言われているからな。
……引かねば斬る、今の俺だと加減が出来るかはわからんぞ」

鋭い鷹の目のような眼光。
周りに居る者達は士郎の異様な気に気圧され――
――
契約を行った千草の命の捕らえる、ではなく、
斃す気で士郎に次々と立ち向かっていった。

龍宮と古菲に向かおうとする者は一人もいない。
その二人も士郎の異様な気を感じ唖然とし、
士郎と鬼達の戦いを眺めているだけ……

「はっ! くっ、私は士郎の援護を。
古は此方に敵が流れてきた場合に私の援護を頼む」

「わ、わかったアル」

二人が唖然としていたのも少しの間。
士郎が相手をするのは、まだ少なくとも150は残っている鬼の軍勢だ。
龍宮は急いでライフルを構え士郎の援護を開始する。

龍宮達の方に来る鬼は一匹もいない。
そのため、龍宮にとっては鬼は絶好の的。
だが、鬼が来ない事は古菲にとっては自分がやる事が全くなくなる。
それでも古菲は鬼に立ち向かおうとはせず、言われた事を忠実に守っている。

 

――――鬼の軍勢の中心では鷹の目を持つ赤の騎士が舞っていた。

 

 

 <<BACK  NEXT>>

 TOP

inserted by FC2 system