「どうした!? 本気で来いやネギ!」

木乃香まで後少しの所で小太郎によって阻まれたネギ。
先に進もうとするもそれを許しはせず戦闘に持ち込もうとする小太郎。

ネギは自分に魔力供給を行い身体能力を向上させて小太郎に応戦するが、
もう少しという焦りと残してきた明日菜達への不安で安定していない動き。

「これ以上の魔力供給をすると姐さんにも魔力を渡してるからすぐに魔力が切れちまうぜ。
それに、あの光の柱、早くしないと儀式が数分で終わっちまう」

「わかってるよカモ君。
……コタロー君、何で僕の邪魔をするの!?
あのお猿のお姉さんは悪いことしようとしてるんだよ!」

「千草の姉ちゃんが何をやろうと知らんわ。
俺はただいけ好かん西洋魔術師と戦いとうて力を貸しただけや。
そしたらその西洋魔術師が俺と同い年で対等に戦える、そんな奴は初めてや」

「僕と戦いたいの!? 試合なら後でいつでも……」

「いーや、駄目や。
ここで戦わんとお前の本気とは戦えんようになる。
本気のお前と戦えんようなら意味がない」

余りにも身勝手な答え。
それほど小太郎にとってネギの全力の戦闘は喜ばしいものなのだろう。

――そうや、全力で俺を倒せば間に合うかも知れんで!? 来いやネギ! 男やろ!」

小太郎の言葉にネギが震え上がり、決心した目になる。

「……わかった」

「兄貴!?」

渋っていたのにも関わらずあっさりと戦い承諾し肩にいるカモを降ろした。
ネギの心の変えた言葉は小太郎の男だろという言葉なのか……そうならば歳相応の子どもっぽさが感じられる。
如何にしても此処で承諾してしまったのは一刻も早く木乃香を救わなければならないネギ側に取っては有益ではない。
小太郎の実力は相当なもの、時間がかかるのはカモにも理解出来ている。
出来ているがゆえに絶望の表情をカモはとっていた。

相対するネギと小太郎、声を互いに掛け合い吼えながらその拳が交じ合う――

――事はなく寸での所で二人の間に大人一人分の大きさがある手裏剣によって阻まれた。

――グアッ!?」

そして、小太郎が何者かによって後方に弾き飛ばされた。
小太郎を弾き飛ばした者は現れたのも急で去るのも急、姿がすぐに消える。

「熱くなって我を忘れ大局を見誤るとは……精進が足らぬでござるよネギ坊主」

「な、長瀬さん! 夕映さん!?」

夕映を抱える楓がネギの近くにある木の枝に立っていた。
ネギを説教する楓ではあるが笑いながら、何も知らぬ子に優しく教えるように言っている。

「此方には仁殿に刹那……特に士郎殿が居るのに中々苦戦しているようでござるな。
……んー、これは何かありそうでござる」

楓は木の上から降り立ち、ネギの傍までゆっくりと歩く。

「うっ、今のは分身攻撃か……何や姉ちゃん達は!?」

思いもよらぬ乱入者に焦り尋ねる小太郎だが、
楓は何も答えずにネギの下に行き夕映をそっと降ろす。

「な、長瀬さん……? あれ、何でここに……」

「私が携帯電話で呼んだんですネギ先生」

「ネギ坊主、それより早く行くでござる。
多分でござるが仁殿にでも任せられてるのでござろう?
此処は拙者に任せて早く……」

楓がネギとトンと突き放して急かす。
ネギは困った表情を浮かべてるが、

「すいません、長瀬さん!」

自分の任されている事をまっとうするため、
捕らわれている木乃香の下に再び向かい始めた。

「あっ、待てやネギ!」

小太郎は魔力の付加をかけて走り去っていくネギを追いかけようとする。

「なっ!」

しかし、自分の走る先にクナイが突き刺さり足を止めざる得なかった。
進路を妨害するクナイを投げた張本人、楓をキッと睨みつける。

「おい、そこのデカい姉ちゃん。
邪魔すんなや、俺は女を殴る趣味とちゃうんやで?」

「ふ……コタローと言ったか……少年。
ネギ坊主を好敵手と認めるとは中々良い眼をしている。
だが今はその主義を捨てて本気でかかってきた方がいいでござる。
……今はまだ拙者の方があのネギ坊主より強いでござるからな」

楓の分身体が夕映を木陰まで誘導。
さらに――楓の周りに10を超える自分の分身が現れる。

「甲賀中忍、長瀬楓……参る」

「……っ、上等!」

相手は女性だが思ってもいなかった力の持ち主。
小太郎は楓の勝負を潔く引き受け、中忍と狗神使いの戦闘が開始された。

 

 

 

 

――side綾瀬夕映――


「…………」

楓さんとあの黒髪の子、コタロー君でしたか。
二人の動きは明らかに現実とは言い難いもの。
既存の運動能力を覆し、超越した能力。
コタロー君の手からは黒い犬のようなものが現れ、
楓さんは何人もの分身体でコタロー君の相手をしている。
これが楓さんの言う、気であり魔力ですか……
これならばシネマ村で少し見た衛宮さんや桜咲さんの運動能力も……納得です。

そして、このかさんの家で襲ってきた白髪の男の子、ネギ先生、
さらに楓さんが口に出した防人さん、彼等はきっと
――

「あ、綾瀬さん?」

不意に後ろから私の名を呼ぶ声。
振り向くとクラスメイトの一人、手には中学生が持つようなものではない長刀が握られている。
楓さんのあの大型手裏剣やクナイも中学生が……そんなこと言っていたら埒が明かなさそうですね……

「桜咲さん、ネギ先生なら少し前ですがアチラの光の柱の方に行きました。
楓さんは優勢のようですから構わずにネギ先生の方に」

「……そうですか。確かに楓なら……では」

桜咲さんは戦っている楓さん達に気づかれないよう、
周り込むように光の柱の方に向かっていった。

素人目から見ても楓さんが断然に優勢。
桜咲さんも優勢と判断したので楓さんは大丈夫でしょう。

前々から楓さんの運動能力はかけ離れたものでしたが、
本当の力を出すとこれほどになるとは驚くばかりです。
やはり他の方々もこのような動きな方ばかりなのでしょうか。

「ちょっと、一人で走れるから離しなさいよ!」

「あああー、暴れるな! 走ると後々疲れて大変だろーが」

遠くから新たに二人の声が……今のは……

「お、ゆえじゃねぇか」

「え、綾瀬さん!?」

ザシュっと音を立てて急ブレーキで止まる人物。
神楽坂さんと彼女を右腕に抱えた防人さん、ですか。

「あ、小太郎って子と楓ちゃんが戦ってるわよ!」

「そんなの見りゃわかる。
楓の実力なら余裕だから気にすんな。
それよりアスナは周り込んで光の柱の方に向かえ」

「アンタはどうすんのよ!?」

二人の迫力に全く私の入り込む隙がありませんね……
いえ、私が入ってもただ混乱するだけでしょう。

「10匹ほど追っかけて来てたようだ。
片付けたらすぐ行くから早くしろ」

「え? ああ、もぅ、仁は命令してばっかりなんだから。
コレが終わったら承知しないわよ!」

神楽坂さんが桜咲さんと同じ道で走っていく。
彼女もネギ先生方と同じ側の人ですか。
それより防人さんが言っていた事は――
あれは……鬼!?

「心配すんな、すぐに終わらせるからな。
……出来れば見ないほうがいい」

振り向かず言う防人さん。
右手にいつの間にか西洋の剣を握られていて、鬼に立ち向かっていった。

 

――side out――

 

 

 

 

「まだですか?」

「もう少しや!」

湖の中心、寝台で横たわる木乃香の前で儀式を行っている千草と後ろで見ているフェイト。
前方には儀式に深い関係があるだろう大岩から大きな光の柱が天に昇っている。

「そう……彼が来るよ」

「何!? ガキか? それとも赤衣装の奴か?」

フェイトと千草が向く先には……ネギが杖に跨ぎ飛行してくる姿があった。

「ガキの方か、しぶとい奴や」

「あなたは儀式を続けて」

フェイトは懐から符を取り出し、式神を召喚する。
その式神はシネマ村に居たのと同じ。
士郎が射た式神と姿形が同じモノだ。

フェイトの命令でネギを迎え撃とうと飛び立つ式神――だが、その式神はネギに一撃で還された。
思わぬ結果だったのか、フェイトの無表情が若干変化する。

「ぷわ、何やこの霧は!?」

式神を倒してすぐにネギが詠唱を行い、
風の魔法で湖の水を舞い上がらせて霧状にした。
霧の中の視界はほとんど零に近い状態になっている。
ネギの作戦は視界がない内に木乃香を助けるか敵を討つ作戦だろう。
視界がないのはネギも同じだが事前にわかってるネギが断然有利。

「……そこか」

しかし、フェイトはその状態でもネギの居場所を察知した。
狙いを定めて攻撃の体勢を取る、がそこから現れたのはネギではなく杖。

フェイトが杖に気づいた時にはネギは後ろに周り込み、
すでに右の拳がフェイトに振るわれる直前の所
――

「……!」

「なっ、障壁だけで!?」

振るったネギの魔力が込められた右の拳はフェイトに届く事はなく、
カモの言う通り障壁だけで力を全て殺されてしまった。

「明らかな実力差の前で慣れない接近戦を選ぶとはね。
サウザウンドマスターの息子でも、やはりただの子どもか」

フェイトはネギの右腕を掴み冷たい目でネギを見て淡々と話す。
無表情にも感じるが、つまらないと思っているようにも感じる。

「エミヤシロウとサキモリジンの事を聞きたいけど……
君は知らなさそうだね。残念、ここで終わり――

止めを刺すため何かの魔法を放とうとネギの腕を掴む手と反対の手をネギに向ける。

解放』」

しかし、ネギはフェイトより先に唯の一言で魔法を発した。
フェイトの腹に直接触れて撃ったため射程距離は零。
強力な対魔法障壁でも距離が零ならば最小に抑えられる。
何故なら防ごうにも障壁は術者の前に展開されるものだから。

「これは遅延呪文……」

風魔法がフェイトに縛るように締め付け拘束する。

遅延呪文とは先に詠唱をしておき、文字通り魔法を遅延させるための呪文を行うこと。
魔法使いには長い詠唱が付いてくるものだが、これを使えば一瞬にして魔法発生させれる。
だが技量によって遅延させれる時間と魔法の程度は変わってしまい、
今のネギの技量だと20秒ほどの遅延と初級の魔法を遅延させることで限界のようだ。

「なる程、僅かな実戦経験で驚くべき成長だ。
認識を改めるよネギ・スプリングフィールド」

「へっ、なにスカしてやがんだ。
兄貴、早くこのか姉さんを!」

見事にネギの作戦に引っかかったフェイトにカモは罵声を浴びせる。

先程程度の魔法ではフェイトを拘束できるのも数十秒。
二人ともそれをよくわかっているので次の行動に急ぐ。

「あ……」

「ふふふ……一足遅かったようですなぁ。
儀式はたった今終わりましたえ」

しかし既に遅かった。
ネギ達の前に現れたのは大岩から生えるように出ている巨躯の大鬼。
その大きさはネギが此処に来る前に見てきた鬼とは比べものにならない。
ネギの健闘はむなしく、千草の儀式は完成してしまった。

「二面四手の巨躯の大鬼、リョウメンスクナノカミ。
千六百年前に打ち倒された飛騨の大鬼神や」

千草は念願の目的が達成し嬉々としている。
この修学旅行期間で一番嬉々としてるだろう。

「兄貴なにを!?」

「完全に出ちゃう前にやっつけるしかないよ!」

ネギが杖を構えて詠唱を始める。
狙うはこの場で最大の脅威の大鬼。

「その呪文は! 確かに効きそうなのはそれしかねぇが残りの魔力でそれを撃っちまったら……」

――雷を纏いて吹きすさべ、南洋の嵐』」

カモが何と言おうとネギは止まらず、魔力を帯びていくネギの左手。
この呪文は此方に来る前に多くの鬼を飲み込んだ呪文と同じ。

雷の暴風!』」

大鬼の心の臓に向けられた左手から閃光が放たれる。
――が、当たる手前で弾かれてしまい閃光が拡散してしまった。
結果は……ネギの最大の魔法は大鬼に傷を負わせることもなかったということ。

一瞬ひやりとした千草だったが大鬼の圧倒的な力を見て大笑い。
一方、ネギは激しい息切れをし、辛い表情で膝と手を地につける。
最大の魔法を簡単に防がれてしまったのだから精神的にきつい、
それに加えギリギリの状態で魔法を撃ったため体力、精神力が限界だ。

そして、ネギに追い討ちをかけるようにパリン、と壊れる音がネギの後ろで響いた。

「善戦だったけど、残念だったね」

音の原因はフェイトが拘束から解いた時に出たもの。
フェイトは依然無表情でゆっくりとネギに近づいていく。

「君は殺しはしないけど――

「斬空閃!」

不意に飛ぶ斬撃がフェイトに襲い掛かる。

「おや、君は……」

しかし、フェイトは後方から飛んでくる気配を察知し、魔法障壁を展開してあっさりと斬撃を掻き消した。

「せ、刹那さん!」

斬撃を放ったのは刹那。
消された事にひるまずにフェイトの距離を詰めて薙ぐ。
だが、これもあっさりと躱される。

刹那は躱したフェイトに追撃はせずにネギを抱えて全力で後退し、
橋の中間に来たところで停止してネギを降ろした。

「ネギ先生、大丈夫ですか?」

「僕は大丈夫です。それよりこのかさんが」

ネギは大丈夫だと言うが苦しい表情で息切れをしている状態。
説得力に欠ける上に満足に動ける状態でもないだろう。
それでも今の状況だと弱音を吐いてられない。

ネギ達の前方には大鬼と歩いて向かってくるフェイト。
第一関門のフェイトを倒さなければ木乃香を救出するのは不可能。
大鬼へと行こうとも彼が邪魔立てするのは明確だ。

「サクラザキセツナ、君はサキモリジンとエミヤシロウについて何か知っているのか?」

無感情の声が刹那の耳に届く。
確かに刹那は此処に来る前、木乃香の家で仁から話を聞いている。
だが敵に情報など与える事などもっての外だ。
刹那は何もフェイトに返しはしない
――

「君は何か知ってそうだね。
教えてくれると嬉しいんだけど言う気がないのなら力ずくになるよ」

――のだが何故か感づかれた。
微かな反応があったのか、何処かに違和感あって判断したのか。
どのように刹那の思考を読んだのかはフェイトにしかわからない。

「……また一人増えるみたいだけど……変わらないか」

ネギ達の後ろからは片手にハリセンを持ち、物凄いスピードで駆ける少女。
若干怒り顔の彼女はネギの横で急ブレーキを掛けて止まった。
少し息切れをしてるところからかなりの力を入れて走ってきたのだろう。

「あのでっかいのと、風呂場であった子が敵!?
さっさとやっつけてこのかを助けるわよ!」

「あ、姐さん元気いいな。いや、それよりアイツを先にやっつけねぇと」

「では、行く――っ……」

フェイトがネギ達が居る前方ではなく後方に跳ぶ。
彼が居た場所には斜めに橋に突き刺さった西洋の剣。

「チッ、またしくじった」

苛立った声を出す人物は突き刺さった西洋の剣を無理矢理抜いてフェイトに追撃をかける。

「仁さん……」

「またアイツは良いトコで」

刹那の呟いた声と明日菜の呆れた声が静かに響いた。

 

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