――side防人 仁――


相手にした鬼は数にして十三。
その最後の一人が還ってゆく。

所要時間は十数秒ってとこで済んだ。
それにしても弱い奴ばっかりついてきたよう、オレでも楽に倒せたし。
わざわざ手強い相手と戦いたくないからラッキーなんだけどな。

「さて、オレは先に行くけど、余り楓から離れるなよ」

ゆえの前に戻って一応注意をしておく。
自分から危ないことはしないと思うけどさ。
だけど念には念をだ。

他に追手は……きてない、気配も感じないし大丈夫だな。
じゃぁ早速出発しねぇと。

「……っ」

ん? ゆえが何か言いそうだったけど……帰って来てから聞くか。
魔法についてなんたらかんたらぁだろうしな。
実に好奇心があって健全な女子中学生でございます。
まぁ、これからいつでも話すようになる内容だ。

それに今は一刻も早くこのかの近くに行きたい。
そのためには最短距離を使用するのが最も適している。
しかし、この道には戦闘をしてる者がいる
――

「はは、坊主頑張れよ」

けど気にせず、一言置いてから先へと駆け抜ける。
ていうか回り込むのはオレの性に合わん。
男は悩むぐらいなら真っ直ぐ突き進むのみだ。

「な、何やお前は――べっ」

「コタロー、戦闘中に余所見は禁物でござろう」

ふ、一瞬の気の迷いのせいで楓に押さえつけられるとは、まだまだ青い。
楓の言う通り余所見は禁物でござる。
オレは実戦で余所見はしたことない、と言うより実戦回数がほとんどないしな。
近い形で修行の最中だけど、これまた余所見は一度もしてない。
もししてしまったら体の一部が飛びそうだしなぁ。
……うむ、恐しい想像は置いておこう。

ともかく、思った以上に楽々と通り過ぎれて、これまたラッキーってな。

『ジン、聞こえるか?』

急に頭の中で懐かしい声が響いてきた。
まだ、3日しか離れてないけど懐かしいって思うのは何でだろうねぇ。

「ああ、久しぶりだなエヴァ。
そっちはそろそろ儀式とやらは終わんのか?」

『時間は不特定だがもう少しだろう』

いつ来るかまではわかんないのか。
でも、もう少しって言うからには、それほど長くはないんだろう。
けど、エヴァに頼りすぎちゃ駄目って感じかな。

『それで、何故坊やを一人で行かせたんだ?』

「物語の主人公は戦って強くなるもんだろ。
これぐらいの境地を切り抜けれないようだと英雄の息子の名折れだぜ」

そうは言っても閉じ込められてたせいで最初から共に戦うという選択肢は取れなかったんだけど。
アレはやっぱりフェイトの仕業なのかね。
こっちのが情報持ってるのに先手取られてんのって何か悔しい……

『坊やの肩を随分と持つな。
ふむ、確かに坊やは実戦を積めば積むほど成長を見せるようだ』

言動からしてエヴァはネギの方も見てるみたいだな。
――っと、ついに光輝く大鬼神さまのスクナが降臨されたぜ。
いやぁ、それにしてもでけぇでけぇ、ビル何階分あんだろ。

『ふむ、私はしばらくは高みの見物とでもしよう』

「ああ、わかった」

『それと、そっちに行った後は何故連絡を寄こさなかったのかを問い詰めるからな』

「何でだよ」

………………返答なしだな。
もしや怒ってる? オレが悪いことをしたか?
連絡っていってもそれほど報告することもなかったしさ。
うーん、罰として血を提供……嫌だな、ホントに疲れるし……

ともかく今はネギ達を優先に考えないと。
おっと、決して逃げてるわけじゃないぜ。

では、最悪の状況を想定してと……ネギがフェイトに敗れるってことだな。
エヴァの会話から推定すると、まだネギは敗れていない。
物語通りにネギの力だけで勝てればいいんだが、いざとなったらオレが割り込むのも考えないと
――

む、待て、このかはどう助ける?

このかは千草と一緒に、あのでっけぇ鬼の肩に乗っているはずだから、先に助けないとスクナを退治する時に巻き込みかねない。
ということは自在に空を飛べる者、今は翼を持った刹那か浮遊術を使えるエヴァしか助けれん。
実力的に士郎ってのも考えられるけど、打ち合わせもしてないし、アイツはまだ来れる訳がないしな。

刹那の場合、このかを助けるためなら、それが良い形からでも悪い形からでも、翼を広げる確率は百と言っていい。
それならば、本来通り刹那がこのかを助けるだろう。
だが、刹那が飛び立つ前にフェイトという障害がある。
状況が違う今は、もしかすると刹那がやられてしまうかもしれない。
早くこのかを助けないとスクナの方がどうなるかわからんし、エヴァだといつ来るかわからんし、
できれば刹那に良い形でこのかを助けさせてやりたいし……

――――ッ」

突然の頭痛で右手で頭を押さえる。
思案に没頭しすぎてパンクしちまったか。
考えすぎはよくないって言われてんのかね。

あぁ、そういえばフェイトの石化呪文が大きすぎてその隙に色々できたんだったか。
アイツがヘマしない限り出し抜けるはずがないし、予定通りヘマしてくれる……って訳にはいかんよな。

ということはフェイトの目くらまし役が必要。
手伝わない形でネギに頑張ってもらいたかったが割り込むしかないのか。
ぬぅ……時間もないし、オレのレベルじゃ巧いこと行く妙案が思いつかん。

エヴァは来るのは不特定と言ったが正直いつごろ到着するんだろう。
それによってはこれからの行動の幅が広がってくる。

「エヴァ聞いてるか?」

……また返答なし。
じじぃが早く終わらせれるよう、祈るしかないか。
お陰でオレが突っ込むのが決定されちまった。

本日の教訓は思ったように上手くはいかないってこった。
そもそもネギを一人で戦わせようとしたのが問題点か?
いや、これは間違っていない、けどエヴァにも指摘された部分だしな……
あと、何にせよオレが割り込む形になりそうだったのは気のせいであって欲しい。

――考えてる内にもうすぐそこまで来てる。

湖の上に建てられてる橋は橋にしては広くつくられてるが、それでも戦闘向きな場じゃねぇな。
文句は言ってる場合じゃねぇけど。

現状は刹那とネギが引いてアスナがオレと若干の時間の差で到着か。
鬼コーチ達によって鍛え上げられた足が怪物アスナをも上回ったってな。

フェイトの顔を見たら急に腹が立ってきたぜ。
こっちに着いてからやられっぱなしだし。
子どもっぽいってつっこみが入りそうだが、その役は周りにはいないのが少し寂しい。
その他にも、つっこまれ所が沢山あった気がするけど置いとこう。

よし、先手必勝。
フェイトが気付かん内に加速
――――

「チッ、またしくじった」

ネギ達を跳び越えてカラドボルクでフェイトへ縦に一閃。
しかし、この放った一閃は後方に跳ばれて躱された。

相も変わらず、あの無表情の顔がオレに向けられる。
奇襲かけたのに驚いてないってのが気に食わんぜ。

それより、戦闘は既に開始されている。
ここで距離が離れたままだとアイツの石化魔法が飛んできちまう。
追撃の手を休めては駄目だ。
距離を詰めて一気に叩き込まなければ。

初撃の勢いは殺さずにそのままフェイトに突撃。

――なっ、消え――――瞬動、後ろか!?

――ッ」

振り向くとオレを貫こうと迫る数本の石の槍。
後ろに引いても、湖の方に回避しても無駄、跳んで回避するしか道はない。
まるで跳べと言わんばかりの誘導のようなフェイトの魔法。

空中にいる場合、虚空瞬動も浮遊術も使えないオレはフェイトに攻撃されれば躱す術はない。
もしや、オレがどっちも使えないとわかって魔法を使ってきたのか。
完璧にバッドエンド一直線の誘導攻撃だ。

だが、そう易々と諦めはしない。

跳ぶと同時にカラドボルクを収納し、代わりに隠し持ってきたナイフを両手で構え、
すぐさま何かの詠唱を始めていたフェイトに向けて八のナイフを投擲。

これで牽制程度には……
チッ、気にしねぇで詠唱を続けてやがる。
ナイフ如きじゃ躱す必要もないってか――

「くっ……」

あ? 寸前で躱した?
退き方がおかしかったが障壁を張り忘れてたのか。
まぁ、そんなはずはねぇと思うけど。

「……サキモリ、ジン…………」

「あぁ?」

オレの着地と同時にフェイトが呟いた。
しかも人の名前を並べただけの言葉。
聞こえた分、なんとも薄気味悪ぃ上に、何を考えてるかわかんねぇ眼だし、正直気色悪い。

「君は一体、何者なんだ?」

唐突過ぎる。
さらに気色悪く感じまって寒気がするぜ。

「はっ、教える義理はないね」

しかし、簡単に答えれない質問、と言うより簡単に説明できない質問だ。
だが何を質問してこようがアイツには答えようと思わんがな。

それよりまずい。
正面から戦ってみたがかなりの実力差があるのがすぐ察知できた。
何とか乗り切ったが、いつやられてもおかしくないぜ。
有利な状況にどうにかして持ってかねぇと。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

「じ、仁って意外と強いのね」

「姐さん、その言い方はちょいとひどいぜ」

前方で戦う仁とフェイトの戦闘を見て感想を漏らす。
アスナの呼吸は落ち着いたが、ネギの呼吸はまだ乱れたままであった。
今まで実戦を行ったことのないネギ、ここまで頑張れただけでも十分な活躍だ。

そして刹那は、

「あ……」

フェイトと間合いを空けていた仁と目が合って小さく声を漏らした。
目があったのも一瞬だけ、仁は再びフェイトに向かってく。

俯く、それと同時に夕凪を持つ右手に力が篭められる。

「アスナさんとネギ先生は救援を呼ぶか仁さんの援護を」

姿勢は変えず、二人にしっかりと聞こえるように声を出し、

「私はこのかお嬢様を助けに行きます」

この言葉と同時に何かを決心した表情で大鬼を見上げた。
しかし、眼は力強いようにも、哀しいようにも見え、
出した声は固い意志を持ってるようにも、切ない声にも聞こえる。

「え、でもあんな高い所をどうやって」

「それは――

トン、と並んでいたアスナより一歩前へと前に出る。
その足取りは重く、まだ躊躇いがあるようだ。

今度は刹那が仁を見やっていた。
しかし、彼はフェイトとの戦闘の真っ只中。
先程のように互いに目が合う事はない。

質問を投げかけたアスナは黙って刹那の背中だけを見ている。
後に居るアスナ、ネギ、カモには刹那の表情は見えない。
今の刹那の表情を見てる者はこの場にはいないだろう。

刹那が仁に向けた視線は数秒で外れた。
今度は俯き、体に力を込め始め――――――白い翼が刹那の背中から現れた。

「私は奴らと同じ化け物……それでも私を受け入れてもらえるでしょうか」

微かにだが震えた声で刹那が声を出した。
それは必死に辛さを堪えているせい。
彼女は語らないが此処に来る前に屋敷でした仁との会話で自分の正体を他人に知られる事を戸惑っていた。
それを自らの意思で晒す行為は、どれほど刹那に対して不安があったことか。
刹那はアスナ達には決して顔は合わせずにしているのも辛さが滲み出ているように思える。

今度は逆に問いかけられたアスナ。
その返答は
――

 

「せいやっ!」

――ふあっ!?」

言葉ではなく、打撃といった返答方法。
アスナによって投げ飛ばされた白い物体が刹那の頭に綺麗にヒットして快音を響かせた。
言わずとも白い物体は決まっているが。

揺らめいた刹那が唐突な行動を取ったアスナと顔を合わせた。
その顔からは明らかに混乱している様子が伺える。
そして、その目には薄っすらと浮かぶ涙。
痛みで浮かび上がったのか、それとも先程から浮かび上がっていたものなのか。

「あ、アスナさん……」

「ちょっとびっくりして固まっちゃったけど、受け入れる? そんなの当たり前じゃない」

刹那と同じく、動揺していたネギがアスナの名を呼ぶが、気にせずにアスナは喋り出した。

「なんたって友達よ、友達」

アスナは腕を組み、うんうんと頷いて自信有り気に言葉を続け、刹那に接近していく。
二人の距離が腕の長さ程度になり、そこでアスナが肩をポンと叩いた。

「ほら、幼なじみのこのかを助けにいくんでしょ。
このかだって刹那さんを待ってるんだから早く行ってあげて」

屈託のない笑顔。
心の底からそうだと、そこに嘘があるとは全く感じさせないほど笑顔がそこにあった。

刹那はそれに応じようと口を開いたが、すぐに閉じてしまい、また俯いてしまう。

「…………でした」

「え――?」

刹那からの声が聞こえた。
しかし、至近距離にいるアスナでも、ほとんど聞こえないほどの声。
恐ろしいほどの地獄耳のアスナが聞き取れないほどと言えばわかりやすいだろうか。

「いえ……」

言い直そうと刹那の開いた口からはハッキリと声が聞こえてくる。
そして、

「……ありがとうございます」

顔を上げて笑顔で応えた。
それは今までの想いを振り切ったような笑顔。
安心したせいなのか、刹那の目には一層と涙が溜め込まれている。

「うっ……ほ、ほら、早く行った行った。
話すことは後でゆっくり話しましょ」

正面から堂々と礼を言われ、尚且つ、このような耐性が低いアスナは恥ずかしいそうな素振をして刹那を急かす。

「では……行ってきます」

そう言葉を残し、刹那は白い翼を広げて木乃香を救い出すために飛んだ。

見る見る内に遠のいていく刹那をアスナ達は見つめている。
それも少しの間、すぐに視線を仁とフェイトに変えた。

「さて、ちょっと時間使ったけどまだ大丈夫そうだからいいわよね」

アスナ達の前方で繰り広げられる戦闘は端から見れば、互角に渡りあってるようだった。
それだからこそ、先程の落ち着いた会話を為せた上に余裕を持てている。

「あ、姐さん。感動した場面だったけど、これはちょっと酷……い」

声の根源はアスナの足元、しかも靴の下からだ。
そこには踏み潰されてる白い物体が一匹。
何とも哀れな状態でそこに居た。

「アンタにあそこで口を挟まれたら台無しになるでしょ」

アスナが靴の下に居る白い物体を解放。
やっとかと、ふぅ、と溜息を白い物体、カモが取る。

「それにしても仁の旦那並に男気が溢れてるぜ、姐さん。
でも、どうせなら士郎の旦那を見習っ、むぎゅぁ」

「よし、行くわよネギ!」

「はい、アスナさん!」

アスナの踏み潰しと声の合図でネギが契約の執行し、アスナを強化させた。
だが、ネギの魔力はほぼ枯渇状態、高い効力は望めない。
アスナが鬼と戦っていた時と同じように防御の力を上げるのみ。
その上、時間もかなり制限されているという悪条件での戦闘の再開。

「やあぁぁぁぁ!」

しかしアスナはその事を物ともせずに駆ける。
ただ単に考えてないのかも知れないが、それを言っては仕舞いだ。

アスナが狙うは仁の剣撃を躱し続けているフェイト。
突撃したタイミングが良かったお陰で、仁と明日菜が挟み撃ちの形に成った。
アスナはフェイトの背中からハリセンを振り下ろし、正面から仁がカラドボルクを薙ぐ。

二対一ならば当然、二の方が優勢で、しかも挟み撃ちだ。
そして橋の上という狭い場ならば普通は躱しようがない状況。
仕掛けたアスナの内心は完璧にもらった、に違いない。

「へ――!?」

が、二人の標的は忽然と姿を消してしまった。
それに思わず間が抜けた声をアスナは出してしまう。

フェイトが消えた。
そして、フェイトを狙った二人は既に攻撃の動作に入っている。
このままでは、味方同士で相打ちになってしまうのは目に見えている。

「ッ、『去れアベアッ――

ギリギリ、アスナを斬る寸前で仁はカラドボルクを収納しきった。
彼の手に剣はなく、ただ腕を横に振るだけ。

――どっ!?」

一方、明日菜のハリセンは仁の頭にクリーンヒット。
スパーンというハリセン独特の音が響き渡る。

「アスナ……考えて……動け……」

「う、ごめん、ってあんた息切れひどいけど大丈夫!?」

後方で肩膝をついて辛そうにしてるネギよりも、仁は息も絶え絶えにし、辛そうにしていた。
それに加えてひどい汗、この短時間でこれほどの疲労は、自分の力を最大限に使っていた証拠。

「それよりフェイト――」

仁が周囲の確認を行おうとし、振り向いた瞬間、

「……ッ」

仁の腹部にフェイトの拳が入り、鈍い音が鳴った。
喰らった仁は声も出せず、顔に苦痛の色を示して滑るように後ろに。

「きゃ!?」

当然、仁の飛ばされる進路方向にいたアスナも被害に遭う。
反射的にアスナは両手で仁の背中を押さえ、少しでも勢いを殺すような形をとっていた。
しかし、フェイトの拳の威力は相当のモノ、ネギが居る前まで滑った所でようやく二人が止まれた。

「アスナさん、仁さん大丈夫ですか!?」

「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンケイト――

「な、あれは呪文の始動キー!?」

ネギの言葉に返答をする間もなく、カモの声で宙に視線が集まる。
そこにはフェイトが右の腕を輝かせ、詠唱を開始している姿があった。

「アスナ! ネギを守れ!」

――邪眼の主よ。その光――

フェイトが詠唱を淡々と進めてく中、すぐさま仁の言う通りにアスナが行動を取る。
アスナはネギに覆いかぶさるような体勢になり、それと同時に仁が懐から丸い物を取り出し下に投げつけた。
それから発生したのは煙幕と爆裂音、仁が取り出したのは煙玉と言った目くらましには最適な物と爆竹のような物の二つ。

――眼差しで射よ』」

しかし、フェイトはそれらに気にすることなく同じ調子で詠唱を進める。
彼にとってはこの程度の物など、何の障害にもならないのだろう。

そして、フェイトの伸ばされた右腕の指の切っ先が光輝き、

「『石化の邪眼』」

指から放たれる光線が橋を薙ぐように振るわれた。

煙の中で何かが崩れ湖に落ちる音。
そして、落ちる何かの力が湖に加わり跳ね上がる水。

その跳ね上がる水が煙を晴らす……

「目と耳を塞いできたとは言え、まるで子ども騙しだったね。
それを使ったサキモリジンは何もせずに石化して落ちたのか」

橋の上に残っていたのはネギ、カモ、そしてネギに覆いかぶさったアスナ。
アスナから見て前には崩れた橋だけ、先程の崩れた音の原因はこれだ。
さっきまで居た場所、その周囲にも仁の姿は見当たらない、ただ崩れた橋という変化があるだけだった。

「魔力完全無効化能力……か?」

フェイトがアスナを見て、自身に問いかけるように言う。

彼が放ったのは石化の魔法。
当たれば全身が石化する筈の魔法。
それがアスナに対しては直撃した筈なのに、上半身の衣服が石化されただけだった。
そして、アスナが壁のような役割をしたお陰でネギとカモは何事もなかったように無事で済んでいる。

「どうやら君も危険人物のようだね、カグラザカアスナ」

それらの結論により、アスナには魔法の効果がない体質だと簡単に想像できる。
魔法が効かないのなら魔法使いであるフェイトにとっては脅威となり得り、排除すべき人物ともなる。

フェイトは右腕を輝かせ宙から目標のアスナに目掛け急降下。
自分とっての障害を断つために振るわれる強化された右の拳がアスナに向けられる。

「――――!」

だがその拳はアスナに届くことはなかった。

「これは、サキモリジンの……」

アスナとフェイトの間に突き立つ剣。
紛れもなく、今まで仁がフェイトに対して振るっていたカラドボルク。
これがフェイトの行動を止める結果となった。

「はぁっ!」

フェイトの硬直、その一瞬の隙をアスナは見逃さなかった。
まるで一級の戦士の反応と機動。
振り抜かれるアスナのハリセンが橋上で二度目の快音とガラスが割れるような音を響き渡らせる。

そして、再び訪れるフェイトの硬直。
だが、その硬直も彼ならば本の少しの時間だけですぐ体勢を立て直してしまう。
アスナの先程の動きは一級でも次はそうなるとは限らない。
むしろ、一級にならない可能性の方が高い。
故にフェイトには優に自分のペースに持って行ってしまうだろう。

――ハッ!」

が、アスナが響き渡らせた音とほぼ同時にフェイトの後ろからの声がした。
そこには全身を濡らし、フェイトの前に突き立つ剣と同じ物を振り抜こうとしてる仁の姿。

 

 

――――為す術もなくして、白髪の少年はカラドボルクで両断された。

 

 

 <<BACK  NEXT>>

 TOP

inserted by FC2 system