2 金髪少女とガイノイド

 

 

 学園の長のじじぃから見回ってくれと頼まれて従者の茶々丸と共に、麻帆良という学園都市の巡回。
 頼まれたからには仕方がないからやってやる、どうせ暇だ。しかし、これも今となっては当たり前と思えるのが何処か悲しい。
 真祖の吸血鬼ともあろう私が人間に扱き使われ……アレは妖怪爺か。だが呪いがなければ、こんなめんどうな事をしなくて済むのは確かだ。

 む、学園の結界に反応? それほど大きくもない反応。
 丁度見回ってる時に迷い込んでくるとは、じじぃも良い勘をしてる。

「茶々丸、結界に反応があった。向かうぞ」

「了解しました」

 茶々丸へ声をかけ、背に乗る。
 急ぐ時にはぶーすたーと言うもので茶々丸が目的地まで飛び、私がその誘導役を請け負っている。

 近代の科学というものはすごいものだ。日々、人は楽をできる生活へと進んで行ってる。
 私は近代の機械といったものが使えないのが難なのだが、茶々丸が居れば任せられるので別に良い。私にとって機械など、ふぁみこんが出来れば十分である。

「っ……!」

 嫌になる感覚が頭に響く。

「もう1つ結界に反応? これは先ほどとは違い大きい……」

「マスター、装備の方は?」

 呪いのせいで普段は魔法は使えないが、魔法薬を触媒にして魔法を使用することぐらいできる。しかし、どう足掻いても魔法の威力はそう高く持っていけない為に、今の腹立たしい反応の奴に効くかどうかは微妙なところだ。
 だが、幾ら強敵であろうと駆逐してみせよう。魔法薬も今日はいつもの身回りより沢山持ってきてるので余裕がある。コレで手柄を立ててじじぃに逆に扱き使わせてやるのも一興だ。

「問題ない」

 そう言うと茶々丸は速さを増して飛ぶ。
 速い。振り落とされないようにしっかり掴まっておかなければ。もし落ちたりしたら、今の私の体はそこら辺の10歳のガキと変わらんから笑い事ではすまないだろう。

 

 

 

 

 くんっ、と空飛ぶ茶々丸が停止して地を足につけた。

「マスター、青髪の男と鬼がいます。鬼は怪我を負っているのか気性が荒く、男の方が鬼の腕に潰されそうな所です」

 茶々丸は暗い森の中に関わらず眼がいい。なんだったか、製作者は茶々丸の眼に熱源装置だの、赤外線だの積んでると言っていた気がする。あの時は私に分かり易いように諭したつもりだったのだろうが余り興味もなかったのでハッキリと覚えていない。

「進みますか?」

「いい。この距離では、どうせ間に合わん」

 茶々丸の背から降りて答える。
 私が見えないとなると、まだ相当な距離がある。嫌な気配があると知っているのに馬鹿正直に突っ込むのは間抜けだけ。

「方向だけ示せ」

「分かりました。鬼は私の正面、現在のマスターの向きから右回りに2度、距離は171メートルです」

 茶々丸が僅かに動き、聞いてない情報も報せる。とんだサービス、製作者の余計な性格も出ている。
 さて、そんな事は今はいい。茶々丸の前に立ち、試験管を三本構える。
 恐らく青髪の男とやらは鬼に捻り潰される。青髪が弱い反応で、鬼が嫌な反応。嫌な反応は此処に居ない誰かで、青髪が一般人で、鬼が弱い反応。どちらの場合も青髪に助かる術はない。もう一つ、青髪が嫌な反応も考えられるが、それなら鬼ぐらい倒せるハズなので有り得ない。
 青髪の命運は尽きている。運の悪い奴だ。しかし、折角私が此処まで来たのだから、せめて牽制ぐらいはしてやろう。例え間に合わない牽制でもな。

「――マスター、さらに一人、赤髪の男を発見しました。弓を引いて鬼に向け撃つようです」

 発しようとした魔法を止める。
 赤髪の男? この時間だとさすがに弓道部の奴らではないだろう。鬼相手に臆さないで弓を引くとなると馬鹿かコチラの世界の奴か。
 もしや、さっきの大きい反応はそいつか? そう考えるのが一番自然だ。ならば茶々丸が言った鬼が傷を負っているのも不自然ではない。そうだとしたなら武器が弓だと、ただの魔法使いではないだろう。魔法戦士、いや、魔法弓士……それとも弓に特化した戦士か。だが、無力な者を助けようとする辺り、侵入者であっても戦うコトは少なそうだ。

 思考を巡らしてる最中に、正面遥か先から光が発した。

「赤髪の男が撃った二矢目が鬼の額に命中し爆発しました。青髪の男の方は無事なようです」

 魔法のような力を感じた。爆発が発した波動だろう。やはり赤髪はこちら側の人間で嫌な反応の人物か。
 何にせよ用心に越したことはない。幾ら無力な人間を助ける奴だろうと、コチラも戦闘態勢だけはしっかり取るべきだ。
 魔法薬入りの試験管は手に在るまま、再び茶々丸の背に乗って飛ぶように命じる。

「止まれ、茶々丸!」

 さらに目標へ、私の目にも男二人が見える距離になった所で、制止の命令を出す。
 まだ目的までは幾らか距離はあるが止めなければならなかった。ありありと感じ取れる異変に、この身が気づいたのだ。
 男二人、その両方から異様な魔力を肌に感じていた。

「ちっ、青髪の方もか」

「…………」

 本当にめんどうな事になった。
 妖怪じじぃめ、仕事と言って雑用を押し付けてばかりな癖に謝礼の一つも出しはしない。今日の分に関しては何かしら豪勢な礼をもらわねば割に合わん。
 しかし、この男らは何を……私を待ち伏せてたのか? さっきのアレも演技か? そうであって罠ならば今の私では危険だ。異様な気配を二つ相手するには流石に骨が折れる。せめて満月の日でなければ余裕もあったものじゃない。

 だが、逃げるのは私の誇りが許さない。自身が所持する手で、何としてでも粉々に砕いてみせよう。

 茶々丸から降りて獲物、もとい騒動の元凶へと歩く。

 近づく、その度にいらつきが込み上げてくる。それは何故か。それは男二人に何処か能天気さが見て取れるからだ。
 罠にしては癪に障る罠である。しかも堂々と私が近づいてるのに、男共は気づく様子もない。

 尚も近づく。気付かない。
 更に近づく。気付かない。
 会話が聴こえてくる距離まで近づく。気付かない。

 フフフ……馬鹿にしてるのか。この真祖の私をッ。

「貴様ら、何者だ!」

 十二分に近づいた位置でも気付かない男二人に対して、このイラつきを放った。

 

 

 

 

「貴様ら、何者だ!」

 そう言ってなんか怒ってる金髪な少女と付き添いのロボットにしては可愛すぎだろ、ってな二人が目に入った。
 この二人のコトも初対面と言えど士郎と同じように誰なのかが分かってる。そんで金髪少女が試験管を手に挟んで持っているので危険性も理解している。後ろのロボットさんが前の御主人を宥めているので、火の粉が降りかかる事はないと願いたい

「……女の子だけでこんな森にいると危ないぞ」

「お前らしいが見当違いなことを言うな士郎」

「だって本当のことだぞ?」

「いや、まぁそうだが」

 何を言ってんだてめーはみたいな目でオレを見るなよ士郎さん。まだ出会ったばかりだろ。うん、今の士郎の態度についてはオレの誇大解釈だけど。コイツ、女の子相手はホント紳士だぜ。

「貴様ら……! 人の話を聞けッ!!」

 うぉぅ、怖いぜ金髪ロリっ子。
 おおぅ? 士郎が首しめられてガクガクされてる。初対面の相手に対してここまでアグレッシブとは、思ってた以上の吸血鬼っ子だ。それを後ろで見るロボットな少女が「マスターそれ以上は……」と言ってうろたえてる。こちらは思ってた通りの反応である。

 とりあえず、こっちに敵意がないせいか、そっちの警戒心が一瞬で無くなってくれたようだ。
 コレは助かったと言えよう。行き成り士郎と金髪っ子がぶつかったら、さっきの鬼並に洒落にならん気がするし。

「それ以上やったら死んじまうから離してやってくれないか?」

 士郎の魂が抜けているのが見えたので、首しめてる金髪少女に静止するようにお願いする。エクトプラズム、幻覚?

「やっと話を聞く気になったか」

「爺さんが川の向こうで手を振ってたのが見えた……」

 げほげほっ、と咳込んで項垂れてる士郎。
 危なかったな士郎、それは三途の川と言う所。その人のとこに行ったらこの世を去ることになってるとこだ。出会って数分で別れるなんて切な過ぎる。

「ではもう一度言おう。貴様ら何者だ。結界に反応があると思ったら、こんな所に嫌な魔力を持った人間が2人も来るとは何のようだ」

 偉そうにふんぞり返っていう金髪少女。身長はここの誰よりも小さいが態度だけは誰よりも大きい。

「フム、士郎は君のせいで戻りきってないからオレが説明しよう」

 今度はさっきの士郎相手のように、いきなり相手の名を上げないよう注意しながら言葉を進めてゆく。

「こんな所に魔力を持った人間が2人も来た理由は……んん? 魔力を持った人間が2人? 1人じゃなくてか?」

「何を言ってる。貴様もそこの赤髪くらい異質な魔力がある。とぼけたって無駄だ」

 偉そうなままの態度でオレに指さしてくる金髪っ子。

 しかし、オレにも魔力があるだと……何というご都合主……。まぁないよりはあるほうが嬉しいし便利だろう。使い方が見当もつかんけど、こんな世界だしさ。むしろ見当ついてたら、あんな恐い思いせんで済んだってな。
 しかし、魔力があれば、この金髪少女が気付いてるように探知されるようで、探知されたら生き残る道は……

「何を泣いている。いいから早く話せ。早くしないと」

 金髪少女が手をオレに向ける。片方に魔法薬込みらしい試験管を持ってるから――

「わかった、わかったから手を光らせるのやめてくれ」

 光った手を下げる金髪少女。機嫌は悪いままである。
 とりあえず今すぐデットエンドはなくなった。こっちは危害加えようとしてねぇのに魔法を使おうとするなよって。コイツらしいって言ったらそうだけど、横暴にも程がある。

「……まず話しを進める前に、此処は何処だ?」

「此処は麻帆良だが――それが何だ」

 やはりそうか。大食いの獅子と虎がいたような世界だと思ってたのに。まぁどっちの世界に来たとしてもオレにとっては危険なコトに変わりない。

「士郎、オレが話すがいいか?」

「ああ、説明は苦手だから頼む」

 魂が戻って来た士郎がすぐに応えてくれた。では、再び暴れられる前に話そう。
 士郎を隠すように金髪少女の前に出る。

「よし。まず、此処は日本か?」

「……日本の埼玉県以外で、何処に麻帆良がある」

 金髪少女に冷たい馬鹿にしたような目で見られているオレ。
 ものすごく悲しい気分になるが、この話の進め方は作戦の内だ。

「それと君はさっき魔力と言って、魔術を行使しそうになった所を見ると君は魔術師なのか?」

 引きあいに出すのは士郎の世界。あくまでもオレの世界については出さない。コイツにオレが何なのかを知られれば面倒になるのはコイツを知っている奴なら同意する筈だ。

「何を言っている。貴様等も同じ魔法使いなのだろう?」

「魔法使い……?」

 金髪少女の呆れた声と、士郎が目を若干見開いて疑問の声が聴こえてくる。
 士郎の反応は当然の反応である。士郎の世界の魔法使いは数人のみで、裏の世界に関わっている奴なら魔術師と魔法使いは混同しない。だが、目の前の少女は混同してモノを言っている。オカシイ、どこか話が噛み合わないと士郎が混乱しているのも無理はなし。

「ああ、これで分かった。オレたちが異世界に来たって事がな」

 オレから結論の言葉を言う。これには金髪少女も更に目を細めて、更に冷たい目を送ってくれている。
 さて、気負わずにドンドン言葉をつづけよう。

「恐らく異世界に来たという推論だ。そうだと思ったのは、まずオレ達の世界に日本の埼玉県で麻帆良なんて聞いた事もないって事。そんで裏の話で、オレ達の世界では魔法と魔術で区別している。そんで魔法使いと称されるのは数人。だが君の言い方だと魔法使いは数人所じゃなく、大勢居ると予測できる」

 金髪少女は冷たい視線をオレにくれながらも聞いてはくれる。それと士郎も口を挟まないでオレの話を聞いてくれるので話を進め易い。

「そうだな。これで推論から確定できる。そちらで言う魔法使いって、どういったことをやるんだ?」

 自然にそつなく、金髪少女に答えを求めた。

「どういったコトと言っても――こういったことだ!」

 金髪少女がオレに解答を示そうと、オレの方に向かって手を広げて――って! あ、あぶねぇぇぇぇ! 無闇に人に向かって魔法を撃つなよ! 氷の塊が顔面を掠っていったじゃねぇか。声を出して反応する暇もなかった。それに後ろの木が倒れたような音が……いや、見るのはやめとこう。背筋が凍る。

「危ないことすんな! ……いや、そのおかげでわかったけどさ。やっぱり、オレ達の知る魔法使いとは根本的に違うって。ちなみにオレたちの世界の魔法使いというと、士郎説明してくれ」

「え? あ、ああ。俺たちの世界で言う魔法使いは5人しかいないんだ。それに魔法は5つしかない」

 よしよし、上手く士郎も誘導できた。オレも士郎も同世界の人間で、なぁんにもオレは知らないってな。

「えーと、あと一つ言いたかったんだが『オレたちの世界』ってお前は――」

「コオォォォォォォォクスクリュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」

 士郎が全てを言い終える前にオレの声と同時に言葉を発せられるコトがないように士郎の腹にパンチを渾身の力で捻じり込めた。
 クリーンヒット、手応えバッチリで腹を抱えて悶える士郎。でも、お前が悪い。折角上手く言ってたのに。命の恩人のお前につい拳を入れてしまうコトになったじゃねぇか。

「とにかく、オレ達は君たちに危害を加える気はない。それだけはわかってくれるとありがたい」

「……ふむ、嘘はないようだが、とりあえず貴様らの言う世界の魔法使いというものは簡単にだが納得した。が、まだ貴様等を信用したわけではない。それに青髪の貴様には後で追求することがあると言っておこう」

 あああぁッ……オレと士郎は別々の世界の住人って気付かれてるよコレ。この金髪吸血鬼の笑い方やべぇよ。
 士郎の奴め、お前のせいでオレが地獄への扉に少し近づいちまったじゃねぇか。
 しかしこの金髪っ子、あの少ない言葉で察しやがるとは流石は長年生きた真祖……ん? 青髪? オレは日本人で黒髪だったはずだが……オレを見て言ったよな?

「なぁ士郎、オレの髪って青い?」

 とりあえず士郎にこっそり聞いてみる。

「ああ、珍しい髪の色だな。染めてるみたいじゃないし。俺が言うのもあれなんだけどな」

 魔力持ちで青髪の突然変異か。異常な状態が続いてるから別にもう何でもいいけどさ。生きてるし。あ、そうだ、異常と言えば士郎の格好が――

「まずはこの麻帆良にある学園長室で貴様らの処分を決めよう。ついて来い」

「おい、勝手に話を進めんなよ」

 金髪少女がこちらのことを気にせずに先に進んでいく。早く付いていかなければ間違いなくさっきのように氷の塊が飛んでくるので、すぐに付いてくオレが幾らか情けなし。だって理不尽に痛みを受けるのは簡便だし、そんな趣向は持ち合わせてないし。
 しっかし学園長室か……あの姿をこの目に見ることになるのか。

「そういえば名前を聞いてなかったな。俺は衛宮士郎だ」

「……エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ」

「絡繰茶々丸です」

 士郎を始めに各々個性が出た自己紹介を始めた。
 士郎は至って普通に、エヴァンジェリンが機嫌が悪そうに、茶々丸がどこかよそよそしく。
 ここはオレも名前を言うべきだな、そういえば士郎にも名前言ってなかった。

 

「オレの名前は――防人さきもり じんだ」

 

 

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2010/7/21 改訂
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改訂しまくりである。

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