14 テストのち楽しいけっかはっぴょう

 

 

 ガンガンとドアを叩く。周りの事を気にせず、大音量をドアから響き渡らせた。それに反応してか、ドアの奥から騒ぎ立てるようにドタバタ駆けまわる音と声が聞こえてきた。

「この時間じゃ完全に遅刻だろう」

「HRは無理だけど、テストはギリギリってとこだな」

 騒がしい寮室の中の音を聞きながら携帯の時計を士郎とオレは眺める。
 ネギの学園生活が終了するかどうかの局面で、例の注意人物5人は、この中でやっと起き上がったのだ。

「お前の考えとはいえ遅刻ギリギリに起こしに行くってのは、やっぱり正直どうかなと思うな」

「細かい事気にすんなよ」

 ドタドタと尚もドアの奥からは音と声が響く。

「オイ、ドア開ケロヨ」

「断る。士郎に頼め」

「……俺も嫌だぞ」

 チャチャゼロの突然の提案はハプニングを望んでか。オレはすぐに察知したが、士郎は察知できなくてもよかったな。

 ――ガチャン――

「おー、すげぇクマだなアスナ」

「朝から早々とアンタは……ッ、じゃなかった! 遅刻よ遅刻、ゆったりしてる暇はないでしょうが!」

 ドアが勢いよく開いたと思ったら、その後には同じような勢いでアスナが走り出していった。

「あ、おはようございます、士郎さん、仁さん」

「おはようさん、士郎くん、仁くん。ネギくんゆったりしてたらテストも間に合わなくなるえ」

「あう、そうでした」

 丁寧におじきして挨拶するネギだったが、木乃香の言葉を聞いて二人一緒にアスナを追うように走り出す。

「もー、何で誰の目ざましも鳴らないのよー。あー士郎くんと仁くん……髪もまだセットしきれてないのにぃ……」

「ホラ、済んだこと気にしててもしょうがないアル」

「おや、二人とも悠長にしてていいでござるか?」

 まき絵は古に引っ張られ、先に行く三人を追っていく。その後に出てきた長瀬だけは、急ぐ訳でなく士郎の隣へと止まった。

「勉強はどうよ?」

「一夜漬けでござるからなー。拙者達5人が未熟故にこれ以外の方法はなかったでござる」

「ツマリ危ネェッテコトダナ」

「真っ正直に言われても困るでござるよ」

 なはは、と余裕なんだか、やけになってるのか分からない笑みを楓は見せる。

「おおう、仁と士郎。遅刻しちゃうわよ遅刻!」

「遅刻しちゃうんじゃなくて遅刻決定だ、ハルナ。夕映、チャチャゼロ乗せてくか?」

「丁重に断らせて頂きます」

 ハルナが勢いよく、それにつくように夕映が、そして隠れるようにのどかが出てくる。

「ほら走るわよ! みんな!」

 我先にと、どの生徒もすでに居ない寮の中を走るハルナに合わすように、オレ含む残る5人が一斉に走りだした。

 

 

 

 

「む、遅刻かね」

 校舎の入り口に全力疾走で辿りつくと、その前には新田先生が待ち受けていた。不機嫌そうな表情はいつもの通り、腕にする時計とオレ達を何度も目で行き来させていた。

「申し訳ありません新田先生。言い訳がましいですが、こいつ等も必死で自分の悪い所を努力して埋めてきたのです。ネギ先生もその必死の姿で協力を。悪いといえば近くに居ながら遅刻という素行を防ぐ事の出来なかった自分が……」

「いやいや、そこまで言ってはおらんよ防人君。君が他人を思ってるのは関心する。では、遅刻組は別教室、案内するからそちらで受けるように」

 くるりと背を向けて新田先生が校舎の中へと、ついてくるようにと歩いていく。

「どう考えても人が変わりすぎでしょアンタ、特に敬語が気色悪いわ……」

「失礼な。それに残念ながらオレは新田先生を尊敬してるので真面目になるのだ」

 ぼそりと耳元で言うアスナに、同じように小さな声で言葉を返す。
 呆れた顔をしてるのは、アスナと士郎の二人だけと、テストで緊張している為か予想より少なかった。
 人と接する時は、その場に相応しい接し方をするのは常識である。決して面白がってやってる訳じゃありません。

「そうだ、衛宮君と防人君は学園長室に来るようにと。もしかしたら君達はそっちでテストを受けるのかもしれない。時間も時間だから早く行ってきなさい」

 ほう、爺さんがテスト前に用と? ゴーレムと士郎の件についても色々と聞きたい事はあるし丁度いい。

「それじゃあ頑張れよ、特に5人組」

「さっさと行け、この馬鹿仁」

 どうやらアスナは右手で十字を切って祈りを込めてやったのが、気に入らなかったようだ。ふ、折角テストの無事を祈ってやってるのにな。

 

 

 

 

「爺さん入るぞー」

 トントンとドアを叩いてから学園長室の扉を開く。

「爺生キテルカー」
「失礼します、学園長」

 中へと入れば、いつもは見ない机と椅子。それもオレが中小時代に馴染ある方の1セットが2つだ。2-Aの教室の机と椅子は大学のみたいでオレとしては違和感があったためコチラの方が中学生らしい。

「ふぉふぉふぉ、やっと登校しおったか。テストとは別に話したい事はあるじゃろが……それは後にしとくとして、君達はテストを受けぬという選択肢も用意しておるのだが」

「ココまで用意してんなら受けるさ。な、士郎?」

「今の身分は学生だしな。エヴァも受けてるんだろうし、俺達が受けないのもおかしい」

 士郎とオレは椅子に同時に座ってテスト受けるための準備。
 そもそもオレ達も寝ずに勉強をしたので、テスト受けないとなると、それはそれで悲しいものだ。オレが主に勉強したのは暗記もので、一語一句何度も頭ん中で復唱。昔もこんなコトやってたな、と思いながら昨日から今日にかけて教科書を眺めてた。
 爺さんが、いつもの独特な笑いをしながら問題と答案用紙を配る。

「ケケケ、名前書キ忘レンナヨ」

「そんなベタな事せんし、あれで0点とかオレのトコじゃなかったぜ」

「わしの学校は0点じゃからの」

「さいですか」

 筆箱から取り出した鉛筆で名前を書いてテストを開始した。

 

 

 

 

「……はー、終わった」

 隣に座る青髪の男が背にもたれて、ぐたーと伸びている。

「どうよ結果は?」

「何だかんだいっても中学校の問題だからな」

 テスト5科目を終え、手ごたえ悪くはない……とは思う。勉強なんて暫く離れてたって言っても、満点とれないと空しい気がするな。

「わしはちょいと職員室行ってくるのでのう。二人は好きにしてよいぞ」

 学園長が二人分の答案用紙を、学園長の立派な机の上でトントンと整えて言う。

「爺さんとの話は今度でいいかな。じゃあ2-Aに行くとすっか」

「馬鹿共ノ顔見ルノガ楽シミダナ」

「二人とも、さすがに今日は刺激しすぎるとしっぺ返しくらうぞ」

「ああ、ほどほどにな」

 注意はしたけど、聞く気はないようだ。どんな目に会っても俺は知らんぞ。

 失礼しました、と一言、学園長に向けて部屋を後にする。
 廊下に出ればすぐに、テストをやっと終えて安堵と歓喜の生徒の声が耳に届いてきた。

「賭けは?」

「覚えてる。それに、嫌だ、と断っても駄目なんだろ?」

「はっ、当然よ。ま、士郎が勝てば問題ないだろ。勝った方が負けた方の言う事一つなー。オレも負けたら潔く士郎の言う事聞くぜ」

 歩きながら仁と話続ける。
 負けてしまえばどんな命令が下されるか……。しかし、仁の言う通り勝てば問題ないのだ。テストの出来は悪くない。全教科満点取れそうなぐらいに悪くないのだ。おそらく……心配はない。
 学生同士が教室の中で、テストの結果を楽しそうにやら不安そうにやら話合う姿を眺めながら2-Aへと進む。

「ネギの命運は、如何に如何にー」

「帰ッチマエバ面白エノニ」

「チャチャゼロは本当にマイナス方面にしか考えないな」

「面白エカラナ。マア、ソウイウ士郎ハ阿呆ダカラ分カラネェカ」

「…………」

 2-Aの教室の後ろの扉へと辿りつき、仁がガラリと扉を開く。
 最も近いエヴァが机に伏して寝てたようだが、扉を開けた音に反応してコチラに一番早く目を向けた。

「ん……貴様ら来てたのか」

「寝むそうだなエヴァ」

「うっさい馬鹿。こんな面倒なコト、毎年何度もやらされてたら飽きもしてくるだろう?」

「エヴァは単に勉強が嫌いなだけだろ」

「……貴様と話したのが間違いだった」

 エヴァは仁と少し話すと再び机に伏して寝始める。これを確認した仁は軽く笑いながら一足先に自分の椅子へと座った。

「士郎くん、仁くんどうやったー?」

 俺も仁と同じように自分の席へと座ると、近衛が話ながらコチラに来て、綾瀬の席にちょこんと座った。元々、綾瀬がその席に座ってたので、少し綾瀬がズレて一つの席に二人で座っている。

「俺は自分では上出来だと思ってるぞ」

「オレも余裕って感じかな。それより夕映はどうなんだ?」

 早速、例の五人の一人を弄り始めようとする仁。
 声を受け取ってるハズの綾瀬は前を向いたまま振り返りもしない。反応がない事を良い事に、仁は自分の頭の上のチャチャゼロを綾瀬の頭に乗っけてやりたい放題だ。
 チャチャゼロはチャチャゼロで綾瀬の頭に乗っかってから何か言ってる。それでも綾瀬からは言葉は返って来なかった。

「他の4人見ても結果は自分の口からは、とても恐ろしくて出せねぇってか」

 クククと嫌らしい笑い方をする仁。
 教室を見渡せば、いつものように元気なんだか騒がしいんだかのクラス光景の中、例の5人の姿は沈んで見える。その中でも雪広が神楽坂に質問してる姿が特に目立った。雪広が質問攻めしてるのに対し、相手してる神楽坂は相手にするのが嫌なのか手を振って追い返そうとしてる。

「頑張ったんやからだいじょぶやって、ゆえー」

「ああ、近衛の言う通り努力したなら結ばれるさ」

「おうおう、二人はお優しいですねー」

「んもー、仁くんはいじわるばっか言うんやから」

「――えーと、それではHRを始めます」

「あ、ネギくんや。じゃ、また後でなー」

 前の扉からネギの姿が飛び出てくると同時に近衛は自分の席へ戻っていく。クラスの人同士でお喋りしてた周りも自分の席へと座り始めていた。
 担任であるネギの顔を見れば、どうも不安そうで心此処にあらずのようだ。

「テストの発表は明日か。さすがに一睡もしてねぇと疲れたぜ。あー、でもオレみたいなネットやらゲーム好きなら徹夜なれてるだろなー、なー」

「何だよそのわざとらしい言い方」

「深い意味はねぇさ。ただネットやってたりブログやってたりってなー」

 疲れたとは言いつつも、いつもと変わらない所か変にテンションが高い仁。
 さて、俺はネギの無事、クラスのテストの点が良い事を願うとしとこう。

 

 

 

 

「士郎は昼寝しねぇのか?」

「俺は心配ない。夕方起こせばいいか?」

「17時半に起こしてくれ。飯前に起きてたいし、これぐらいが適当だろ。飯は7時半がいいな」

「注文が多いけ奴め。とりあえず了解した」

「じゃあ、おやすみだ」

 HRが終わってすぐに寮まで帰り、仁は寝支度をして寝に入った。

「アー暇ダナァ」

「やることないし夕飯の買い物しに行くか」

「テメーハ無駄ニ主夫ダナ」

「褒め言葉としてもらっておくよ」

 この部屋で起きてるのは俺とチャチャゼロだけ。何もせずに居続ければ延々とチャチャゼロが面白可笑しく俺を貶してくるだろう。それを大人しく聞き続ける程俺も出来ちゃいないので、ひとまず出掛ける事にした。
 財布と買い物用の鞄を持ち、頭にチャチャゼロを乗っけて部屋を後にする。

「酒買ウ金ハ持ッテキタノカ?」

「未成年だから駄目だ」

「ケッ、ケチ臭エ野郎ダ」

 戸締り確認してる所で、チャチャゼロの好きな酒の話。買わずともエヴァの別荘に行けば好きなだけ飲める酒はある。もしや、これはチャチャゼロのために貯蔵しているのか? それなら余りにアルコール中毒過ぎるぞ。

「オ、馬鹿ト嬢チャンジャネェカ」

 寮室から出れば、近衛と神楽坂が自分の寮室前で鍵を開けようとしている姿があった。

「仁の人形は口が悪いわね……」

「士郎くん何処いくん?」

「夕飯の買い物だよ」

 制服とスクールバッグを持つ姿を見ると、二人は丁度学校から帰宅したようだ。

「買い物かー、うちもついてこかな。ええ、士郎くん?」

「徹夜してたのなら休まなくてもいいのか?」

「ウチはみんなより、ちっと多く寝させてもろうたからなー」

 元気に言葉を返してくれる近衛。神楽坂は幾らか顔色が良くないが、近衛の方は様子からして大丈夫なのは確かなようだ。

「そうか、それなら問題ないか。俺としても人が多い方がチャチャゼロの相手をするのも楽になる」

「チャチャゼロくんはお喋りやもんね」

「ブッ殺サレテェノカ士郎」

 頭の人形がコレだからな。一人より二人の方が本当に楽になるのだ。

「アスナはどする?」

「私はちょっと寝させてもらうわ。よかったら17時半ぐらいに起こして。ご飯の2時間前ぐらいには起きてたいし」

「ほな、17時半なー」

 近衛のスクールバッグを受け取った神楽坂は、おやすみと言って自分の寮室の中へ入って行った。
 それにしても……

「馬鹿同士デ同ジ思考シテンナ」

 仁とまったく同じ言葉を神楽坂が言うとは。仲が良い上にコレまで……。類は友を呼ぶってやつなのかな。いや、チャチャゼロがああ言った後にコレは失礼だ。

「そや、ゆえも連れてこか」

「何でまた突然……?」

「だってせっかく話すよになったんやもん」

「デコッパチ弄ルノハ楽シイカラ賛成ダゼ」

 一人と一体はどちらも乗り気である。コレに断れるかと言えば、チャチャゼロの方は出来ても近衛相手には出来そうにない。

「でも相手に強制させようとするのは駄目だぞ」

「もちろんや。それにゆえも嫌やないと思うしなー」

 俺の言葉を聞くと、すぐに近衛が綾瀬の寮室へと走りだす。
 確か綾瀬は早乙女と宮崎と同じ寮室だったか。彼女達も徹夜してたハズだけど大丈夫なのか少々心配だ。
 近衛は綾瀬が居るだろう寮室のブザーを押していた。俺は一足遅れて、その寮室の前についたが、まだ扉は開かれてなかった。

「もう寝たんかなー」

「近衛は起きてて本当に平気なのか?」

「うん、ウチはまだまだ元気や――あ」

「……このかさんに衛宮さんですか」

 扉が開き、出てきたのは目当てのその人。制服姿なのは近衛と同じなのだが、綾瀬は寝むそうだと表情からすぐに分かった。

「夕飯の買い物にゆえも誘おうかー、て士郎くんと話してたんや」

「無理にとは言わんぞ」

「平気ダロ」

 俺達の言葉を聞くと綾瀬はその場で考え込む。綾瀬の悩む姿は何度も見てる気がする。自分が納得するまで考え結論を出すタイプなんだろう。

「分かりました。ハルナからは食事時前に起こすようにと言われてたので丁度いいです。このまま何もせずに部屋に籠ってると、ハルナを起こせなくなりそうですし」

「ハルナもかー、アスナと同じやなー」

 ここにもまた同じ事考えてるのが一人。そしてその三人共が比較的仲の良い同士ってのが、な。

「のどかは居るん?」

「のどかならハルナより先に寝てしまいました。元々徹夜にそれほどの耐性のない人ですので。では、私は財布取ってくるので少し待ってて下さい」

 目の前の扉が静かに閉まる。

「ゆえ、ええって言ったやろ?」

 近衛が満面の笑みで俺へと言う。

「ああ、近衛の言った通りだったな」

「嫌ワレテタラソレデ面白イケドナ」

「それは面白いじゃなくて悲しいだ」

 綾瀬が来るまで今晩の献立でも決めておこう。最後に料理したのは二日に渡った地下図書室。決められた食材ではなく、今度は好きに出来る。

 

 

 

 

「主夫……ですね」

「士郎くんのお嫁さんなったら楽やろなー」

「……褒め言葉って取っておく」

「ケケケ」

 買い物中に、ふと飛んできた言葉はチャチャゼロが寮室から出る前に言ってたモノと同じ言葉。それに返す言葉も同じようにして返す。

「地下でアレ程の料理が出てきたので当然と言うならそうですが、この姿を見ると改めてオカシイですね」

「綾瀬は結構キツイ事言うな」

「う、すいませんです」

「士郎ナリノ冗談ダ。真ニ受ケンナデコッパチ」

 今現在、チャチャゼロは綾瀬の頭の上に乗っている。寮から出ていく前にチャチャゼロ自身から乗っけろとの事を言われてからコレだ。不安定なのは相変わらずだが、チャチャゼロは何故か気にいってる様子。これはチャチャゼロ自身にしか理解出来ないだろう。

「そういえばこのかさんは衛宮さんの所に何度かお邪魔してると言ってましたね」

「せやな。士郎くんの部屋行くと時は、ネギくんとアスナも一緒や。あと、いつも丁度ええ時間に楓がおるなー」

「俺達の寮室に来たコトあるのは4人だけだ。長瀬は近衛も言うように、近衛達が来る時だけだが逃さず来てる。何でいつも丁度よく来るのか不思議だけど」

 そして仁と同じくらい平らげる長瀬。大めに作ってる料理が綺麗さっぱり無くなるのも、あの二人のお陰と言っても過言ではない。さらに加えて食後は二人で冷蔵庫へ向かいデザートは無いかと物色してる。
 満足そうにするの長瀬と仁を見てるコッチは心地いいくらいだけど、大食らいも大概にしてくれないと金を管理してる俺も困る。それも使ってるのは学園長のお金だしさ。

「ゆえも来たらええのに」

「俺は別に構わないけどな。ただ仁が居るってのは我慢してもらわないといけないが」

「……防人さんは別に構いませんが」

 言葉を濁す綾瀬。

「アノ本屋ダロ。男免疫ナサソウダモンナ」

「うーん、士郎くんも仁くんもええ人やのになー」

 チャチャゼロが言う本屋と言うと……宮崎だったか。早乙女、綾瀬、宮崎はいつも三人で行動している上に同じ寮室。食事時となれば綾瀬だけが抜け出して他へ、とはいかないだろう。思い返せば、あの仁ですら宮崎に話そうとする姿は一度も見ない。話をしても返ってこなかった綾瀬とは違って別な理由がありそうだ。

「気が向いた時なら何時でもいいさ。でも来る前には連絡してくれると嬉しいな。コッチはコッチで事前に準備しないといけないしさ」

「ではその通りに。心に刻んでおきます」

 それぞれが自分の寮で待つ者のために食在を選び、別々のレジへと入っていき会計を済ませてく。
 近衛と綾瀬はほぼ同時に会計が終わり、遅れて俺が会計を終わらす。俺の方は冷蔵庫の中も空っぽな上に、アイツが相手だから買った数の差が段違いだ。

「士郎くんのそれ買い物袋代わりなんかー」

「仁が地球のために買っておけってさ。これあれば袋は今後一切もらわなくてエコだ、って言ってた」

「防人さんがですか。印象とは違う物言いですね」

「自分ノ趣味以外ハ、ケチ野郎ダカラナ」

 大き目の鞄に買った物全てを詰める。今回は容量ギリギリ。次はもっと計画的に買わないと。

「ソレデコレカラドースンダ」

「どうするって言っても帰るしかないだろ。早く冷蔵庫にしまわないといけないものだってあるんだし」

「アー士郎ト買イ物行クノハツマンネーナ」

 チャチャゼロがぼやく。
 こういう時は仁が居てくれると助かるのだが……チャチャゼロの相手は、とても難しい。

「趣味といえば防人さんは今日学校でゲームとインターネットと言ってましたね。ハルナと仲がいいのは趣味が似通ってるためでしたか」

「早乙女が仁と同じ趣味なのか」

 店を出て綾瀬が話す。
 学校では反応を一度もしなかったが、綾瀬は仁の言葉をちゃんと聞いてるようだ。まあ、反応したらそれでからかわれる元になるから反応しなかったんだろうが。

「士郎くんの趣味はどないなん?」

「ん、俺のか……」

 趣味と言えば好き好んで自分から積極的にやることだ。特にそれは時間が空いてる時に娯楽として楽しむために。そう考えると俺がやってる事と言えば……。

「料理とか筋トレかな……?」

「ショウモネェ趣味ダナ」

 そうは言われてもこれ以外思い浮かばなかった。料理はいつもアイデアを探し出して努力し、筋トレは暇な時に体を動かすためにやってる。俺の趣味とするならこの二つだろう。

「料理好きなんはわかっとったやけど、筋トレは意外やな」

「意外……?」

「だって士郎くん大人しそうやもん。仁くんならイメージとぴったり合ってるんやけどなー」

「確かに仁も鍛えては居るが……意外か……」

 変な感じがする。こう言われるとは思わなかったし、こんな事言われたの初めてだ。

「……何やってるんだ近衛?」

 いつの間にやら俺の服の右袖を肘あたりまで捲り上げてた近衛。肘以上は上手く出来ない為か諦めていた。

「ぐっ、てやってみてくれん?」

 子どものようにねだる近衛。腕に力を入れろってことだろうか。だが、こんな顔されてしまったら断れないな。

「おー……すごいなー」

 ぺたぺたと力の込めた俺の腕に触れる近衛。触れられるこっちはくすぐったい。

「ゆえゆえー、ゆえも触ってみ」

「このかさん公共の場ですよ。それに触るまでもなく、見るだけで分かります」

「あ、そやったな」

 えへへ、とばつの悪そうな顔をして袖を直して近衛は離れる。

「仁くんもこんなあるん?」

「アルニハアルガ士郎ノガガタイハイイナ」

「ほえー、意外やー」

「大人しいって言われるより、喧嘩っぱやいって言われてた方なんだが」

「えー、それは嘘やろ?」

「本当の事なんだけどな……」

 近衛は嘘だと言い、綾瀬は信じてなさそうに黙って俺を見てる。
 これは何度俺から言おうが信じさせるのは無理そうだ。別段、この誤解は無理に説き伏せようとする必要はないんだけどさ。

「士郎くん体ええんやから、もうちょっとええカッコすればモテそうなのになー」

「地味って事か?」

「テメェハ服ノセンスハネェナ」

 こっちに来てから私服を買う機会があったのは一度だけ。仁と一緒に買い物に行ったのだが服を選んだ時は別々。一気に多くの買う物を決め、纏めて後日届けるように頼んだ。
 そういえば服が届いた時、仁も文句言いたそうな顔してた覚えがある。

「そや、今度うちがコーディネートしたろか。こう見えても人の服選ぶんは得意なんや」

 えへん、と胸を張って得意気に近衛はする。

「オーヨカッタナー。地味野郎カラ進化デキルゾ」

「……地味か」

「地味ナノハ事実ダカラナ、ケケケ」

「……そうだな。折角の誘いだから受けよう、かな」

「じゃ、帰ったら予定合わせやな。これで士郎くんもモテモテやね、ゆえ」

「そこで話を振られると返答に困ります」

 近衛の笑顔は絶えず、綾瀬と俺と近衛、チャチャゼロの三人と一体で雑談が続く。
 こんなに楽しそうにするなら、一緒に買い物しに来て正解だ。人の笑顔を見るのは悪いモノじゃないから。

 

 

 

 

「で、まだ暗いのはテストの出来わりぃからか?」

「うっさいわね」

 テスト発表日当日、報道部がテストの発表会をするとの事で一階のエントランスホールにに多くの生徒が集まっていた。
 発表は一学年につき24あるクラスの平均点を下の学年を始めにして、上位から順に出す。このホール以外にも、ネット、学校内に設置されたテレビでも発表するという大掛かりなもんだ。そして、もうすぐ2学年の発表が始まる間近となっていた。

「ふ、バカレンジャーの頑張り具合がついに明かされる」

「では、拙者達に負けたら仁殿は罰ゲームでござるな」

「オレじゃなくて士郎にしてくれ」

「……そこで俺を出すな」

 ガヤガヤと時間が経つにつれ、騒がしさが増してくる。そんな中で報道部が発表するだろう台の真ん前の特等席で、先日図書館に探検しに行こうと発案したメンバーで陣取っていた。

「仁、何処いくんだ?」

「爺さんとこ。コレ返すの忘れてたし行ってこようってな。士郎は一緒にクラスとネギの命運を見届けてろ」

 ショルダーバッグから、メルキセデクの書を取りだして分かるように見せる。
 本来ならテストの日に持ってこうと思ってたんだが、徹夜してたせいかすっかり忘れてた。大事な本だろうに何も言わない爺さんも爺さんだ。しかし、爺さんと会う本当の理由はコレじゃなくて別の事を確かめになんだがな。
 生徒の波を「失礼」と一言入れながらかきわけ学園長室へと繋がる階段へ。

「ソノ本パクッチマエバイイジャネェカ」

「興味はあるが、全く読めねぇのが問題だ」

「テメェノ語学ハ駄目駄目ダナ」

「頭は良い方じゃないんでね」

 トントンと学園長室へ向かうに連れて人が居なくなる道を進む。
 今、中等部内の生徒は皆、この発表を待ち遠しくしているのだろう。学園長室に行くまでの経路に、それを見れる場所なんてないから、人の気配がなくなってくのも当然だ。
 道のり途中からは誰とも会う事もなく学園長室に辿りつき、歩いてる間に後ろからは人だかりから離れてるハズなのに騒がしさが耳に届いて来ていた。発表が始まっちまったのかね。

「爺さんまたまた入りますよっと」

 学園長室前につくと、扉を何時のもの調子で二度叩いてから開く。

「防人君か。いや、当たり前といえばそうなんじゃろが、君は頑張ったのう」

「ほうほう、そんなに良かったのか。それより爺さん、本返すの忘れてたぜ」

 爺さんの机の上に、軽く叩きつけるようにして分厚い本を置く。

「ふむ、やはり防人君が持っておったか。君はコレをネギ君達には使わせようとしなかった、そうじゃろ?」

「む、予想通りって訳か……」

「ふぉふぉふぉ、わしは君を信頼してるからのう」

 爺さんの手の上で踊らされてた感じがして、ちょいと不満があるが、こう言われちゃ下手に言葉を返さん方がいいだろう。

「そんでオレの点数はいくつだったんだ? 採点したの爺さんなんだろ?」

「うむ、防人君の点数は499点、満点まで1点足らずじゃ。英語でピリオドが抜けておったので減点させてもらったのう」

「……ああ、語学か」

「阿呆ナミスダナ馬鹿」

「……阿呆か馬鹿かどっちかにしてくれ。爺さん、その紙は爺さんがつけたテストの点数か?」

「うむ、10人分ココに書いておる。よかったら見てもよいぞ」

 爺さんからA-4サイズの一枚の紙を受け取る。そこには遅刻組+オレ達の計10名が出席番号順に名前、そして各テストの点と合計点、平均点が横書きに記されていた。
 オレは33番なので一番下。そしてこん中で最も見たかったヤツは32番のオレの一個上で――

「士郎の国語98点だけど、どうしたんだ?」

「衛宮君のは漢字問題を一問、オカシなミスじゃった。防人君、衛宮君も後一歩で満点じゃったのにのう」

「まあ中学校の問題で満点だったからといって、騒ぎ立てる程じゃねぇけどな」

 オレが499点、そして士郎の国語が98点。この時点で士郎の負けは確定で、オレの賭けの勝ちは確定した。
 士郎は国語以外はオレの英語以外と同じように満点。ふ、良い勝負だったぜ、衛宮士郎。

「次いで点数良い順に、宮崎、木乃香、ハルナ、アスナ、楓、夕映、古、まき絵か」

「本屋ガ一番デ、バカピンクが最下位カ。マ、妥当ダナ」

「しかし、皆頑張っておるよ。特に例の五人はのう。今までのテストならば、これ程高得点は取れなかった」

「アスナがバカレンジャートップなのが面白いな」

「坊主ノタメッテカ」

「うむうむ、アスナちゃんは特に頑張ってるのう」

 指でテストの個人の平均点部分をなぞる。この点数ならば2-Aが最下位などはあり得ないだろう。
 のどかと木乃香はオレや士郎に近い点数を取ってる。そして、一番下のまき絵でさえこの点数ならば、ほぼ他のクラスの平均点程を取れてるだろう。
 しかし見れば見るほど面白い点数だ。特にというか、やはりアスナの点。その中の英語が群を抜いて高めに取れて、平均点を引き上げていた。ネギのために頑張ってるってのが、点数から簡単に読み取れる。

「ところでお爺さん、発表会というのをご存じで?」

 紙に書かれた点数をゆっくりと眺めた後に爺さんへ言葉を投げかける。

「む、そうじゃった、発表会は学生達が勝手に進めてしまうんじゃった」

 爺さんは言葉を聞くとすぐに机の引き出しから一枚の紙を取り出す。

「その紙は?」

「防人君の手にあるそれと同じものじゃよ。では、ワシは報道部に行ってくるからのう」

 バタン、と爺さんは学園長室から急ぎ足で出て行った。

「発表会は終わっちまっただろうな」

「終ワッテルダロナ、ケケケ」

 接待用のソファの上に座って、今一度A-4用紙を眺める。

「――仁」

 すぐにさっき閉まったハズの扉から、人が一人現れた。

「おう、爺さんとすれ違ったか?」

「学園長なら報道部に急いで行かないとって言っていった。それより大変だ。2-Aが最下位に……」

「おっと、なんの事かな衛宮士郎君?」

 扉を開けて突っ立ってる士郎に、ヒラヒラと紙を見せびらかす。
 この距離で、この小さな字もアイツの目なら見えちまうだろう。

「ん……テストの点数?」

「ご名答。そんで、爺さんが報道部に行った理由もこれだ」

「……もしや発表には、その中の点数が加わってない、のか?」

「オ、鋭イナ」

「クラスの約3分の1が0点扱いだったからな。見て分かる通り、この点数じゃ最下位にはならんだろ」 

 ほら、と近寄ってくる士郎に紙を渡してやった。
 士郎は上から下まで、注意深く受け取ったその紙を眺める。それを見て士郎が安堵してるのは良く分かる。ネギの一大事の問題だったからな。

「ところで何か言いたい事は?」

「……何が希望だ?」

「分かってんならいいが、今は賭けの商品は取っておくとしよう」

 ほっ、としてる所に鞭を入れてやると、案の定渋い顔をする士郎。

「とりあえずネギを探すとすっか。課題はクリアしてんのに故郷に帰られちゃ元も子もねぇしな」

 持ってきたショルダーバッグはソファの上に置いて立ち上がる。
 そして、士郎の手からA-4の紙をひったくって学園長室を後にした。

 

 

 

 

 ネギを見つけたのは麻帆良学園の駅だった。故郷へと帰ろうとする一歩手前である。そのネギの傍には、このオレの手にある紙に書かれた名の内オレと士郎以外の8人、それと同じ紙を持った爺さんが居た。
 ネギの帰国を思いとどまらせるために、8人は学園長へネギの試験の結果をどうにか出来ないかと。そんな事を彼女らはネギや爺さんに提案していたに違いない。

「爺さん早えな」

「妖怪爺ダカラナ」

 爺さんは自身のミスのお詫びと、テストの出来を彼女達に知らせているようだった。

「ま、思った通りの結果になって満足かね」

「行かないのか?」

「ネギが帰る事はなくなったからな。今行くとアスナに何言われるかって嫌な予感しかしねぇ」

 物陰からネギ達が喜び合う姿を眺める。例のあの5人は予想外、予想以上の点数で歓喜してるんだろう。特に今回の一番の厄介者だったアイツ、アスナは相変わらず保護者のようにネギに接してる。

「さーて、御主人のとこに挨拶してくるかチャチャゼロ」

「テスト後ハ気分ガ悪ィゾ」

「それだから相手しがいがあるんじゃねぇか。じゃ、士郎はネギ達の相手任したぜ」

「相変わらず、お前は勝手な奴だな」

 士郎の肩をポンと叩いてネギ達と反対の方向へ足を進める。
 口では悪態づく士郎だが、嫌がってる素振りはない。皮肉屋め。

 目的地は金髪お嬢様のログハウス。飯前ぐらいまで相手して暇を潰すとしよう。

 

 

 

 

「ただいまーっと」

 時刻は18時半。いつも設定している夕食の19時まで後30分の所で帰宅した。
 エヴァはチャチャゼロの言う通り機嫌悪かった。相手しようとすると、帰れ帰れの一点張り。そんなエヴァをたしなめてた茶々丸はどっちが従者なのか分かんない。それでもエヴァに十分にからかってこれたから余は満足じゃ。

「仁くん、おかえりー」

 オレの寮室に入ると出迎えてくれたのは士郎じゃなくて木乃香。満足そうな笑顔はテストの結果が良かったからだろう。

「やっぱ来てたのか。ってことはアスナとネギも?」

「うん、二人とも居間におるん。仁くんちゃんとうがい手洗いすませてな。じゃウチは夕飯作ってくるなー」

 トタトタと玄関まで来た木乃香は同じようにトタトタと居間の方へ戻っていく。
 オレと士郎のではない見た事ある靴が3セット、玄関に綺麗に並べられてたので予測はできていた。夕食会は、あの後すぐに木乃香が士郎と約束したってとこだろう。
 洗面台で手洗いうがいを言われた通りキチンとこなしてから居間へ向かう。

「おやおや、まだ機嫌が悪いんですかアスナさん」

「くっ、今日のアンタはそればっかね。機嫌は悪くないし、むしろ良い方よ!」

 態度と言ってる内容がちぐはぐなアスナ。ムスッとした顔してたから言ってやったのに。言ってやったのにってオカシイか。

「仁さんのテスト499点って学園長から聞きました。頭すごく良いんですね、びっくりしましたよ」

「それはオレが悪くみえるって聞こえんだが、まあネギに限って悪気はねぇか。ああ、それ聞いてアスナの機嫌がよろしくないってか。もしや自分のテストが良かったから、オレを見返してやれると思ってたのかな? するとオレの点数を聞いてみると予想以上に高かったと。いやー、アスナの前回の点数聞いたけど凄い進歩だと思ってるぜ」

「くぅうぅうう、コイツは悪気ばっかなのに言い返せない……っ」

 頭を抱えテーブルに伏せるアスナに追い打ちをかけるようにチャチャゼロがオレの頭の上で笑ってる。

「頑張ったってのは本当に認めてるんだ。ちょっとやそっとじゃコレだけ伸びないからな」

「む、何か気味悪いわね」

 伏した顔を上げてオレを見るアスナの目は心配するような目だった。
 オレは風邪も引いてなければ、頭を打った訳でもねぇのに、真面目に褒めてやったらコレとは酷いぜアスナ。

 ――ピンポーン――

「仁、任せた」

「あいよっと。しかし楓はいつもブザーなんて押さねぇのに」

 台所から聞こえる声に応じて立ち上がる。
 こういう食事会の時、楓は何時の間にか居間に座ってる、だからな。人の家なのに勝手に入るってのはどうかと思うが、余り気にしちゃいなかった。でもやっと礼儀ってのを知ってくれたようだ。

 ――ピンポーン――

「はいはい、今開けますよ、タダ飯食らいの楓さ……ん?」

「よっ、仁」

「こんばんはです」

 出てきたのはオレより背の高い長身の人ではなく、年相応の背丈の人達。

「もうネギ君とか居るみたいね。じゃあ、早速お邪魔しまーす」

「おい、ハルナ」

 先頭のハルナが玄関の靴を見るとすぐに靴を脱いで、オレの声に気に留める事なく居間へと向かっていく。

「衛宮さんから聞いてませんでしたか?」

「聞いてないが……まあアイツの誘いなら断る理由もないけどさ」

「そうですか。では、ほらのどか行きますよ」

「そ、その……お、お邪魔します防人さん」

 夕映が宮崎の手を引っ張り、二人はハルナの後を追う。

「何突ッ立ッテンダヨ仁」

「いや……」

 のどかが来るのは想定外すぎる。ネギが居るから来た、っとは言っても納得できんぞ。まだのどかはネギ以外の男に対して耐性も免疫も度胸も持っちゃいねぇだろ。
 オレから接触するのも修学旅行が終わってからって予定していた。それから宮崎も魔法の世界に関わって、心も変わってくるからだ。だからこそオレから触れずにいようと考えてたのに……

「何やら思わしくなさそうでござるな」

「……ブザーは?」

「開いてたので入らせてもらったでござるよ。うむ、もうすぐ夕食が完成しそうでござるな」

「テメーダケ、何時モ制服ダナ」

「ふふ、動きやすいでござるからな。では拙者も居間へ向かわせてもらうとしよう」

 足音立てずに楓はゆったりとした足取りで居間へと向かう。

「深く考えてもしゃあない、ハプニングは真っ向から丁寧に処理だな」

「ナンダヨ」

「いいや、コッチの話だ」

 玄関を後にして、オレも今しがた4人が向かった居間へと足を進めた。

「ちょっと、仁、アレ主夫じゃん。一家に一台? 一台なの?」

「やけにテンション高ぇな、おい」

 居間に入るとすぐにハルナが寄ってくる。指さすは台所の木乃香と一緒に夕飯の支度をしてる士郎。間違いなくその声量は、あの男に聞こえてる。でもアイツも馴れたのか、相手がハルナだからなのか気にしないようにしていた。

「いやー、ゆえから聞いてたけど実際見てみると本格的でびっくりしちゃってさー。そうだそうだ、アンタが使ってるベッドは上? 下?」

「それ聞いてどうするつもりだ?」

「えー、当然いかがわしい本あるかチェックに決まってるじゃない。もう男の部屋って言ったらそれ物色して好み判断するの楽しみでね!」

「でね! じゃねぇよこの阿呆」

「仁殿のベッドは上でござるよ」

「お、話が分かるね楓ちん! じゃあ一緒に探すとしますか」

「はいはい、分かったよ。何もないから勝手にしてくれ」

 人様のベッドに上がって、その周囲を荒らしまくる二人は放っておいてネギの隣へ座る。
 さっき設置したんだろうか、テーブルが一つ増え、この大人数でも食事可能なスペースを確保していた。でも、これ以上人数が増えるとコレはキツイだろうな。

「あの、ハルナさんの言ってるものって何でしょうか?」

「コラ、ネギはそんな事知らなくていいの!」

「あうぅ、痛いですアスナさん……」

 何も分からないのネギは純粋な証だ。それとは逆にソレを分かってる、今テーブルに座るオレ以外ののどか、夕映、アスナの三人。顔見りゃ一目瞭然だが、この話を三人に弄る度胸はさすがのオレでも持ってない。

「今日コレを計画したのは誰だ?」

 チャチャゼロをテーブルに、ポンと置いて夕映へと問いかける。

「言いだしたのは本の何時間前のこのかさんです。昨日、衛宮さん、このかさんと何時か食事会をすると言ってましたが、まさかそれが今日になるとは自分でも思ってませんでした」

「相変ワラズ堅ッ苦シイ喋リ方ダナ」

「生まれつきですので、チャチャゼロさん」

 昨日というとオレが寝てた時か? それ以外は士郎と一緒だったし。
 しかし、ここ数日で士郎と夕映、木乃香二人の距離が近くなってる。見てるコッチは面白いけどさ。

「友好の印に私のお気に入りの品を持ってきました」

 夕映はゴソゴソと持参した鞄から、何かを取りだそうとしていた。それを見てる隣の宮崎の不安そうな顔が一層と濃くなってる。夕映の持ってくる品か……

「最近お気に入りのベスト5を持ってこようとしたのですが、衛宮さんと防人さん二人なので、一本追加してベスト6にしました」

 ドン、とテーブルの上に紙パックな飲み物が6本並べられる。その紙パックに表示されてる異様な名称。一見して飲み物なんだろうけど、でかでかと書かれてる名称から飲むのに躊躇う……というか飲みたくない。しかも、夕映が自身満々に出してるので心が痛いぜ。

「あえて順位を言うのは止めておきます。ですがベスト1のは間違いなく口にした瞬間に気にいるハズです。それに人気もあって中々手に入らない物で……飲んだ人はラッキーだと思って下さい」

「ああ、後で士郎とタノシクエラバセテモラウヨ」

「……そうですか。では今は冷蔵庫に入れさせてもらいましょう」

 今飲んでもらえないのが残念なのか、少々落ち込んだ様子で夕映は席を立つ。
 ハハッ、全部士郎に飲ますから安心しとけ。

「何か聞きたい事とかあるか、宮崎?」

「え、え……? え……」

 そわそわしてる一人残った子に話しかける。ネギの前、テーブルの向こう側にちゃっかり席取りしている、のどか。部屋を見渡したり、ハルナを心配そうに見たり、オレから見れば怯えてるようにも見えた。

「何もないならいいさ、な、ネギ?」

「えっと……そうです……ね?」

 話掛けるには、やはり早いか。
 遅かれ早かれ宮崎とも話せるようにならんとコレからが厳しい。でも慌てる必要はない。

「アンタのテストの点499だって? カンニングでもしたの?」

「実力だ、ハルナ。それより荒らした物はちゃんと元通りにしとけよ」

「しかし、色物が全く見つからんでござる」

「ホントだよねー。でも絶対仁は持ってるから、根気よく探せば出てくるよ!」

 何を根拠に言ってんだかこの二人は。ベッドの横に備え付けられてる棚の中はドンドン引っ張り出されて上から順に空になっていってる。
 結局、この散乱状態を片付けるのはオレになりそうだ。

「防人さんが全教科満点まであと1点なのは私も驚きました。衛宮さんもあと2点で満点だったそうですし、二人の実力がこれ程高いとは……」

 冷蔵庫にじゅーすを封印して戻ってきた夕映が、こんな厳しい言葉を言い出す。

「何? みんなオレを馬鹿だと思ってた訳?」

「衛宮さんは別として、仁はみんな馬鹿だと思ってたわよ絶対」

「おい、追い打ちはやめろアスナ。いい加減にしないと泣いちゃいますよ?」

「知ラネエヨ」

 ハルナ、アスナは構わんが、夕映にまで思われてたとは悲しいぜ……。
 もしかするとアスナの言う通りみんなオレを馬鹿だと……? ……もはや味方はネギだけよ。この無邪気な笑顔がオレを救ってくれる。

「おおう、アンタ漫画だけじゃなくてラノベも読むのね。ほら、のどかコレ私達も読んでるヤツだわ。いやー、でも目当ての品が見つからないわー」

 トスンと上からテーブルの上へと一冊の本が降ってくる。表紙はアニメ調のイラストのライトノベル。内容を簡単に言えば、オレが今関わってる世界って感じだ。

「アンタこういうの好きなの?」

「アスナさんよ、人の趣味はとやかくいっちゃいけんぜ。そりゃあ人に迷惑かけるようなのはいかんが、みてくれはコレでもコレは列記とした読み物だからな」

「別に文句はないけど意外だなって」

 気軽に読む事が可能なライトノベル。オレが文字の綴ったものを見るのはこれぐらいだ。反対に難しい本、例えば夕映が読むような哲学書なんて、オレが読み切るのは到底不可能だ。

「でも綺麗な絵ですね。中身はどんなのでしょうか?」

「簡単に言うとよくある魔法とか出たりだな。宮崎、これはネギでも見れそうか?」

「そうですね。もう少し内容に触れるとネギ先生の生まれのイギリスに関わる話も沢山出たりします。人気もある本なのでネギ先生にも楽しく読んで頂けるかと思いますよ」

「そうかそうか、という訳だネギ。オレはまだ読んでる途中だから、よかったら宮崎も持ってるみたいだし借りさせてもらえ。気にいったら購入、そうすると執筆者も喜ぶってもんだ」

「ではお願いできますか、のどかさん?」

「え……は、はい、喜んで」

 うむ、我ながら素晴らしいアシストよ。最初にアシスト出したのはハルナ、無意識か故意なのか知らんがのどかの為によくやった。しかし何時になったら、人の身の回りを物色するの止めるんだか。

「何か言いたそうだな、アスナ、夕映」

「別にないわよ」

「……おかしな人ですと」

 自分では至って普通なつもりなんだけどな。周り見ればオレよりオカシイのが居るだろうに。今、オレのベッドで荒らしまくってる忍者とかさ。

「仁、話してるとこ悪いが運ぶの手伝ってくれ」

「おっと、我が家の料理長がお呼びだ。上の二人も夕飯出来そうだから程々にしろよ」

 席を立って台所へ向かう。
 少しはあの本好きな子も馴染めただろうか。まあ、その友人のナイスなアシストのお陰だけどさ。でもあのライトノベルのライトってみたいに、気軽、とまではいかねぇか。
 後は食事の時に上手い事やるさ。何たって気の利くヤツが大勢居る。とにかく今日の人が増えた食事会を楽しむとしよう。



 

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――2巻 11時間目――

2010/8/1 改訂
修正日
2011/3/10
2011/3/14

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