38 修学旅行3日目夜・迎える意志
屋敷を駆け廻る。動くのは見渡し易い屋根の上ではなく廊下。それは本山の住人が石化しているかどうかを確かめるために。
「……もう来ていたのか」
初めに見つけた屋敷の住人7人。逃げ惑う格好、または何かに恐怖する様のまま、その姿は石へと変えられていた。
「チャチャゼロ、気配は察知できたか?」
「イイヤ、コリャア思ッタ以上ノヤリ手ダナ。士郎ニダケ気付カレナイヨウニ慎重ニ侵入シタカ。一度見合ワセテルナラ、レベルニヨッチャ可能ダロ」
チャチャゼロの言う通りなら、一緒に行動していたチャチャゼロも知覚できないのは必然に近い。
もう一度、石化した住人を見る。この人達に対して“破戒すべき全ての符”は使えない。使えば進行に混乱を生む。
状況の把握は完了した。だから次に行動すべき、与えられた行動へとすぐに移る。「オイ、士郎」
人形の名を呼ぶ声と同時に、干将・莫耶を投影した。
「……長」
「士郎君、無事でしたか……」
ゴトリという床にぶつかる足音。
冷や汗を流し、辛そうな表情の長とはち会わせた。その下半身は、今さっき見た石化した住人と同じような姿へと変化していた。「ケケケ、ヤラレテンジャネェカ、ダセェナ」
「ええ、我ながら情けないと言うしかありません」
辛そうにしながらも、チャチャゼロに向けて笑ってみせる長。
「誰かに伝えようと此処まで来ましたが、君達に会えて幸いでした。抵抗するにも、もう余り時間がないのでね」
長の身体からピシリと鳴る音。それは下半身の石化が徐々に上へと這い上がるように侵攻する音だった。
「白い髪の少年に気をつけて下さい。チャチャゼロ、君は私の力も知っているでしょう。多少腑抜けてしまっても、そこらの相手には劣らない事も」
「心配スンナヨ。御主人程ジャネェガ、コイツダッテ面白イ事ヤルゼ」
「そうですか。チャチャゼロがそこまで言うなら期待できます。士郎君……どうか……木乃香を…………」
長の声の語尾は消えるようにして、長は全身が完全に石化した。
石化した姿を見れば実に呆気ない。言葉もそれ以外には浮かんでこない。
それでも彼はまだ生きている。元に戻す方法も多くある。「行こうか」
「次ハ嬢チャン達ノ部屋目指スベキダナ。坊主モ居ルカモシレネェ」
そのために己の足を動かす。
今の俺は何人にも頼られている。それを無碍には出来ない。屋根を渡り、最短コースでチャチャゼロが言った目的地へ目指す。
「…………」
待っていたのは、何ら変わらない光景。それは悪い方に。
クラスメイト、仁が言っていた三人が本山の住人と同じように、長と同じように、石化している光景が俺の眼に映っていた。分かっている。日を改め、術師さえくれば皆無事に助かるというのを。
此処まではアイツの言う通りになっているのだから。「坊主ハ居ネェ。悩ンデテモ――」
「俺は仁を信用してる。必要なのは後悔じゃなくて未来へ進む事だ」
「ソレナライイ。次ハ風呂場ダ。キビキビ動ケヨ」
この場所からは、目的地まで幾らか距離がある。
アイツの言う通りなら、桜咲が話し合いの為に提案した場所の風呂場で、近衛は既に白髪の少年に……考えても仕方ない。チャチャゼロが言うように動かないと。干将・莫耶は握りしめたまま、クラスメイトから目を切って床を蹴――
「し……士郎さん……」
「な――っ!?」
「オイオイ、マジカヨ」
暗い広間の隅から俺の名を呼ぶ声。
目を向ければ紅い紅葉の屏風絵の裏から隠れるようにし、顔だけを出している人を捉えた。「し、士郎さん、コレは一体――」
俺と分かって、駆け寄って来るその人物、綾瀬夕映。
本来なら屋敷から逃げ出し、長瀬、龍宮、古菲を呼び出して、何処かに隠れている人物になる筈だった。「デコッパチ、何デ逃ゲナカッタ」
「あ、朝倉さんに逃げるように言われ、体を張って逃がしてくれたのですが……」
走るような喋りの綾瀬。
「落ち着け綾瀬。まず深呼吸をしろ。俺と一緒に居れば大丈夫だ。落ち着いてくれ」
「は、はい」
パニック状態だった綾瀬が深く呼吸を三度繰り返す。
これだけの行為でも、先程より状態は幾分か良くなる。「大丈夫か?」
「え、ええ」
返事をする今の綾瀬は落ち着いている。心が強い。
「デコッパチ、逃ゲヨウトシタナラ、ドウシテ此処ニ居ルンダ」
改めてチャチャゼロが落ち着いた綾瀬へと問いかける。
綾瀬はそれに反応するように、もう一度深呼吸をして、口を静かに開いた。「確かに逃げる為に一度は屋敷を離れましたが、果たしてこんな超常現象を起こす相手に逃げ切れるのかと思い、逃げきれない、ならばいっそ元の場所に戻ってしまえば安心ではないかと思ってココに戻ってきたのです」
綾瀬の答えは、問いかけた俺の頭の上の人形へ向けられている。
「次いで朝倉さんに逃がしてもらう時に助けを呼べとも言われました。そこで当て嵌まったのが……」
じっ、と人形から俺へと綾瀬は視線を移してきた。
「成程ナ。アノ観光所ノセイカ。士郎ガ所構ワズフラグ立テルセイダナ。チッタァ仁ヲ見習エ阿呆」
「旗? 目印か? そんなもん立てた覚えないが」
「ハァ、テメェニ愚痴吐クノガ間違イダッタゼ」
呆れた人形の声。からかってる声にも聞こえた。しかし、どう返せばいいのか分からないので頭の上のは放っておこう。今優先するべきは目の前の綾瀬をどうすればいいのかだ。
「好キニスリャ良イ。コウナッチマッタラ、アイツモ文句言ワネェダロ」
「……綾瀬、チャチャゼロ持っといてくれ」
頭から綾瀬の腕へと人形を移す。
決定の後は行動。判断は一瞬で済ませた。時間は限られているのだから。「えっ……ちょ……っと……う……っ」
「喋ってもいいが、舌は噛まんでくれ。呼吸し辛かったら俯いた方がいい」
左の干将の代わりに綾瀬の腰に手を回して、そのまま屋根へ跳び出し駆け渡る。
屋根を渡る理由は目的地に最短で着けるように、もそうなのだが、敵の位置が分かっていない現状では見晴らしが良い方が有利に働く。「連絡した方が良さそうか?」
「イヤ、坊主見ツケテカラ纏メタ方ガイイ。ロスシタ分ノ時間ガモッタイネェカラナ。ソレニアイツダッテ何カシラ手ハ打ッテルダロ」
「分かった。そうしよう」
跳ね渡り、屋根に足を着ける度に左腕からリズムよく上がる小さな声と、それを嘲笑するような人形の声を聴きながら前へ前へと跳ぶ。
本山の空間は目と体で覚えた。故に目的地が決定されているのなら、最短でそこへと到着する。数刻前に利用していた風呂場へと目前と迫る。
屋根から廊下へ。後は順路を進むだけだ。「綾瀬、何があろうとも可能な限り落ち着くんだ。それとチャチャゼロの指示には正確に従ってくれ」
前半は一般人の綾瀬には無茶な願い。だが後半だけなら聞き入れてくれるだろう。
綾瀬にすれば突然の連続、それでも首を縦に振って肯定してくれていた。脱衣室へと入る。扉は俺が手を掛けるまでもなく、全開に開いていた。
左の腕に抱えていた人を降ろす。転ばせないように注意を払いながら。
その代わりのように左手に収まる右手の相方の黒の短剣。己の足は止まらず、未だトップギア。床を蹴って最大加速。
――――見敵
ソレが空間の中に現れたのを、眼で捉えて秒も掛からずに間合いへと入った。
捉えたのは白髪の少年の背。
背後だろうが構いなし。俺が探していた少年に手を掛けようと現れたのだから。右の白の莫耶を白髪の少年の背から、少年の右腕を落とすように振るう。
「――――ッ!」
俺が不意をついたのは確かだ。しかし驚く声を出したのは不意をついた俺の方。
少年が身体を反時計回りに回転させながら左腕で俺の振るった右手首を掴み、逆の腕を俺の鳩尾目掛けて突き出してきている。
それは緩やかな川が流れるような静かで素朴な動き。「――シッ――!」
黙っていてはヤラレルだけ。仕掛けたコチラからヤラレルのは、ただの阿呆。
後ろに退きながら、左の膝で相手の突きだす腕の肘を弾く。少年の腕は狙いから逸れ、何もない空間を突いた。
防御と同時に此方も上げる反撃の狼煙、左の干将で逆袈裟に振り上げる。「チッ……」
思わず舌打ちが出た。
斬ったが、それは初めの邂逅と同様の水の幻像。
いつ入れ替わったのかは俺には知りえない。最初から成っていたのかも知れない。躱されたのなら、必要なのは次。既にそいつを目視している。
数メートル先に少年。その周囲に浮かぶ杭のような石が七本。
破裂音を出して、石は術者の敵を討つ為に飛翔する。音を合図にして取る、此方の行動は迎撃。
爆ぜるが如く少年へと跳ぶ自分の身体。左で四、右で三を計二振りで鈍い音を立てながら石を叩き落とし、その勢いを殺さないまま少年へと右の剣を振り降ろす。
だが振るった剣は右に大きく横へ飛ばれ空を斬るだけだった。「……君は確かシロウと呼ばれていたね」
俺を見下ろす白髪の少年。身体は俺よりも一回りも二回りも小さい。
では何故、俺を見下ろせるのか。答えは単純明快で、相手が宙に浮いている分、視点が高くなっているからだ。「ネギ、神楽坂を連れて俺の後ろに下がってろ」
二つ返事の声が聞こえてくる。そちらへは向かない。俺の眼は白髪の少年から離さずに居なければならなかった。
「近衛木乃香はどうした」
もう一つ、ネギ達とは別に、入口から動く気配を感じながら少年へと質問を投げる。
「この屋敷のお姫様なら連れていかせてもらったよ。そこの子が守ろうとはしていたけど無駄だったね」
少年の眼も俺からは外さずに話す。
少年に隙はなく、また剣を振るおうものなら先の展開と同じコトが起こるだろう。
互いに牽制だけは続く。しかし、それを送っているのは本当にお互いなのか。だが、此方が送っているのは確かである。「僕も忙しい。君が現れたのなら一旦退かせてもらう事にするよ」
睨み合いも数秒の間だけで、白髪の少年は終始無感情な表情のまま、少年の周囲から少年へと水がざわめき、立ち上がった水に流されるが如く少年は場から静かに消え去った。
「士郎さん、このかさんを――!」
「ああ、追いかけよう」
俺の背に向けて訴えかけてくるネギに、元よりそのつもりだと返答する。
「ちょ……ちょっと待った。私も――」
「ケケケ、ソノ格好デ行クツモリカヨ、バカレッド。俺ハ構ワネェガ士郎ガ嫌ソウダナ」
自分もついて行きたいと言う神楽坂の姿は、最初と変わってなければバスタオル一枚で後は何も纏ってない。チャチャゼロがこう言うのなら、きっと変わってないのだろう。馬鹿正直に眼を向ければ、あの男の二の舞なので視界からは外してある。
「アスナさん、服を持ってきましょうか? 浴衣前の着替えは私達の部屋ですから私が取りに行くですよ」
「わざわざゆえちゃんが私の服を――って、何でゆえちゃんが平然とココに!?」
「一々ウッセェバカレッドダ」
会話の輪に学校で普通にお喋りでもする調子で入ってきた綾瀬。ココまで冷静だと、さすがの神楽坂でも違和感を感じたようだ……少々、失礼か。
今、綾瀬が言った情報の整理と分析力は、平常心でなければ不可能だろう。魔法に関わってない人物というコトもあり、一度は混乱していたものの冷静を保っているのは驚いてしまう。「先程の会話からすると、このかさんが攫われたと推測するですが、そうなら話す時間も惜しいのでは」
「そ、そうね。ひとまず服着てくるからネギは――」
「神楽坂にみんな付いて行ってやれ。当然ネギもだ。俺が上から見張るから敵の心配はしなくていい。それとチャチャゼロも、そのまま綾瀬に付いて行ってやってくれ」
「分かりました。行きましょう皆さん」
「シャアネェナ」
ネギの言葉を合図にして、三人の足音が出入り口へと向かって行く。俺の方はそれとは逆方向に、露天である此処の塀を蹴って屋根へと跳び、二刀を手から消す。
廊下を走る三人の姿を見ながら、扱い辛い腰にある緊急の収納場所から電話を取り出してリダイアルボタンを押した。『士郎か』
コール音を繰り返す事もなく、掛けた電話の相手、防人仁が対応する。
「まだ出られてないか?」
『足掻いてみたがオレの力じゃ無理そうだ。エヴァが来るのを待つしかない』
こればかりは仕方ないか。一から十まで試した訳ではないが、“破戒すべき全ての符”でも、あの部屋に張ってあるモノを簡単には破らせてくれなかったのだ。時間がない今は援軍を待つしかない。
「そういえば桜咲が居るんだったな。さっきは突然の出来事だったから、普通に話していたが話しても問題ないのか?」
『その心遣い感謝もんだが、それは何も心配しなくていい。それで、電話したってコトは話があるんだろ』
「そうだ。話の概要は白髪の少年と交戦。近衛が連れ去られて少年は逃した」
『アスナは服を着ていたか?』
「……着てなかったが」
おかしな質問だと思うが、仁にとっては重要な事なのだろう。
『それならいい。そこまでは今のオレの周りの状況を除けば予定通りだ』
「その予定通りのコトなんだが、綾瀬がついてきてる。今は神楽坂、ネギ、チャチャゼロと一緒に神楽坂の服を取りに行ってる所だ」
仁の知っているモノとの齟齬。
その一は仁の側に居る桜咲。その二は本山から逃げなかった綾瀬。この二番目について仁に話さなければならなかった。そのための電話だ。『……まぁ、問題はない。そっちの処理、援軍呼びの方はオレが代わりにやっといてるようなもんだ』
「相変わらず準備がいいな」
『問題は夕映を連れて行くかどうかだ。オレとしては出来るのなら楓と夕映を接触させたい。本山にもう一度敵が来るとは考えにくい。だから本山で合流させるのも手だが、問題は夕映の性格からして置いて行ったとしても勝手に出ていく可能性が少なからずあるというコトだ』
「ならば連れて行くしかないだろう」
そこまでその人物について理解しているのなら、置いていくという行動は愚かな行動に他ならない。選択肢は一つに自ずと決定される。
『そうなると士郎が苦労するんだけどな』
「ココまで来たならやれる所までやるさ」
『心強い言葉だ』
電話の向こうの声は、申し訳なさそうに笑う。ココに来ても何とも仁らしい態度だ。
「それともう一つ、長が完全に石化する前に俺とチャチャゼロは会えたが、ネギが会ってない可能性がある」
齟齬のその三。長がネギと桜咲に対して、本山の状況を説明し学園長へと援軍を要請するように願い出る場面。
桜咲の代わりと仁に言われた俺は、それに値するようにはしているが、ネギの方は居るのだから代わりなど立てる必要もない。むしろ仁の目的としては立てない方が良いのだ。『爺さんの方にもオレから連絡を入れた。チャチャゼロがネギと居るのなら、長の話はアイツが対処してくれてるだろ』
「チャチャゼロがそんな面倒なコト請け負ってくれるか?」
『チャチャゼロの奴は、あの笑いを浮かべながら意外とやってくれるもんだ。心配ならチャチャゼロに聞いて、未完の場合は士郎からネギに長の説明をしてくれ』
「……分かった。そうしよう」
先へ先へと予測して仕事を成すか。仁の奴も大したもんだ。とは言っても閉じ込められなければ、こう面倒にならなかったんだけどさ。しかし、コレを言ってしまえばどうしようもないか。
「コチラからの報告は以上だ。コレからネギ達と合流して連れ去られた近衛を追う」
『追いかけるスピードはアスナかネギに合わせろ。夕映の運動神経はいいが、この二人と比べると単なる一般人になっちまうから士郎が抱えて行ってくれ』
「了解した」
電話を切って元の場所へ収める。
後はチャチャゼロが説明をしているコトを祈って合流するのみ。事前に仕事が減るコトは、その分他に力を回せるというコトだ。
屋根を跳ね、神楽坂達が戻りに行った部屋へと俺の足も向けた。
◇
「士郎の旦那、仁の旦那を見ないがどうしたんだい? あの屋敷じゃ探し回る時間もないし行方が不明だと――」
俺の右肩で白い小動物が鳴く。
「お前居たのか」
「くぉっ、ひ、ひでぇっすよ士郎の旦那……このかの姉さんが危ないと兄貴の式神と一緒にシネマ村に行ったら入れ違いで、挙句の果てには兄貴にまで置いてかれるし……俺っち頑張って一匹で本山まで来たってのに……最初は弾かれたりで大変だったのに……そんな……」
「……すまん、悪かった」
ブツブツと暗い方向に持ってこうとするカモに素直に謝る。
しばらく見てないと思ったらそんな理由だったのか。でも弾かれるって、よからぬ侵入者として見なされたってコトだろう。カモだし仕方なさそうだが。「アイツなら単独で別の行動を起こしてる。カモが気に掛ける必要もない」
「つまり石化はされてないってコトかい。ふーむ、仁の旦那はしぶとそうだから、やっぱりってとこだなぁ」
小動物がうんうんと頷く。俺はそれに相手をする訳でもなく前の二人、神楽坂とネギの背を追っていた。
二人の足は一般人と比べれば相当速い。ネギは魔法使いだから納得もいくが、神楽坂の速さは何処から来るのか。ネギの従者だからという理由がもっともな気もする。だが仮契約のシステムは契約執行の呪文を唱えて初めて従者に主人からの力が向かうもの、だと思っていたのだが、俺の考えが違っていたのだろうか。コレも後で知っている人物に聞いておくべきだろう。「カモさんは、ネギ先生の使い魔なんですよね」
小動物に質問するのは、俺の左腕に抱えられている綾瀬。
「相手スルダケ無駄ダゼ、デコッパチ。コノオコジョ妖精ハ仮契約デ利己シカ考エテネェカラナ」
「そ、そんなコトねぇっすよ」
「声が上ずってるぞ」
「妖精ですか……」
茶化し始めるチャチャゼロ。コレはさておき、意外なコトにチャチャゼロが進んで綾瀬に此処の魔法の世界について話をしたそうだ。綾瀬からそれについて訊くと、簡潔に分かり易くチャチャゼロが説明してくれたようだ。チャチャゼロがそうしたのは、とても想像し難いってのが俺の本音。
それにネギ達に長の話をチャチャゼロが簡潔にしたと聞く。
仁の言った通り、チャチャゼロも考えて協力してくれているのだろうか。それとも面倒だから、いっそのコト全部話した方が楽だったというだけなのか。今は草茂る木々の間を走り抜ける。整理された道などない。茂る草が足首程度しか伸びてないので走り易くはある。
走る先はネギが感知しているという気の跡を辿りながら。コレは俺には出来ない。こんな森林の中での捜索では俺の眼とは比べ物にならない程働く。「近いです! 心して下さい!」
ネギが叫ぶ。
対象は此方の眼でも捉えていた。白髪の少年、天ヶ崎千草、大鬼、そして近衛を抱えた大猿。その誰もが、まだ此方に気付いた様子を見せない。中でも注意すべき少年だけは念を込めて眼で捉え続ける。
投影はまだ行使せずに無手。分かっているのは白髪の少年が初めの接触以降は俺に対して受け手というコト。いや、初めから俺に対しては退く意識が大きい。コチラから手を加えねば反撃もして来ない。相手と同じく様子見が最も安全な判断だろう。視界に広がるのは、広く穏やかに流れる河川。湖に等しい程に緩やか水面だ。それに躊躇いなく神楽坂、ネギは入って行く。
敵は上流、此方は下流から。その敵は全員岩場の一段と大きい岩の上。岩場が広い河川の狭い入口となっていた。
地形の関係はコチラもアチラも有利不利をつけ難い。アチラは足場が悪く、コチラは足首の高さまでは水の中。白髪の少年の浮くコトが可能な点を入れれば、地形が影響するのは少年以外か。「衛宮さん、降ろしてくれて構いません」
「……そうか」
言われた通りに抱えていた綾瀬を降ろして自分の足で走らせる。
風呂場の戦闘が再び起こるとなると、綾瀬は降ろさなければならない。事件が起こってからの綾瀬の鋭い所を見ると、それを悟って自分から言ったのかも知れない。先導するネギの止める足に合わせ皆が止まる。
敵との距離はメートルにして20。一息で間合いを詰めれる距離。少年さえ居なければ大猿が抱えている近衛の奪還も可能だろう。「なんや、偉大な英雄様の子に……お嬢様のお友達と訳分からんお邪魔虫か。四人で来はるとは……お嬢様が大好きなひよっこが来てへんな、ふふ」
千草の語りは話半分と聞いて、少年へと目を向ける。
やはり自分から仕掛ける素振りも見せない。無感情、無表情であるが、それぐらいは理解できる。少年に向けている目を外し、代わって近衛へと目を向ける。
口は符で封をされ口を塞がれ、声を上げるコトも叶わない。腕は縛られて満足にも動けない。コチラに向ける潤んだ眼が助けて欲しいと懇願していた。――相手が躱せそうにない数の剣、あの少年ならば十五は最低でも欲しい。剣を投影、射出。更に干将・莫耶を使った近接戦闘で波状攻撃をかければ少年をも――
――踏み留まれ
「オイ、士郎」
「大丈夫だ」
後ろからの人形の声へ返事をする。
単独で思案した賭けには乗れない。余りにも早計過ぎる。この場面で失敗は許されないのだから。頭の中で思い出すアイツの言葉、
「気に食わなかったら切ってくれて構わない」
何とも甘い響き。この言葉と対峙する場面は幾度も在った。仁の見逃すという選択肢に賛同できない部分が多くあったのは確かだ。加えてアイツから“利用”しているという意識があるのも許容出来るものではない。この“利用”は何に対してのモノか不確かなのだが時々感ずるのは確か。しかし、今更仁の考えを破ってどうなる。ココまで来て全てを白紙にするのか。それどころか紙すら残らずに灰にしてしまうだろう。
結局決断を出すのは己である。幾らアイツが人道的でない事をしている可能性があるとはいえ、既に賛同している俺も同類。意見を出したのはアイツでも、その人物のせいにするなど間抜けもいい所だ。
だから俺はアイツの理想に最善の形で手を貸す。この身を捧げる価値があるものだと思ったのだから。「このかさんを返して下さいっ!」
「ふふ、おぼっちゃん、お嬢様はウチらのもんや。返せと言われても困りますなー」
くつくつと笑って取り繕う様子すら見せない天ヶ崎千草。
川の流れる音が自棄に耳に通る。
「ウチらやって好きでやっとる訳やあらへん。大事なお嬢様には痛い思いはさせんし、本のすこーし気持ち良く、いやいや、お嬢様に取っては快感に感じるんやないかな」
千草の口から出る言葉は嘘も悪意も感じない。何故なら自分の言ったコトは全て正しくて善い行為だと自分の中で決定してるため。
「だからガキは家に黙って帰れば――――」
岩の上から見下ろす千草の眼が移る。
「な、なんや兄さん。そない凄まれても困りますえ」
俺へと向けられる眼は十。全て天ヶ崎千草の周りから来るモノだ。その内の二の眼で己に湧きあがりつつあった感情を殺された。その相手には、そんな眼をさせてはいけなかったのに、と。
「明日には本山に援軍が来る。敵ならばそれぐらい把握しているんだろ」
頭に入っている情報を形式的に挙げて、無機質に問う。
「……援軍なんや関係あらへん。お嬢様はウチの手の中や。何が来よーが関係ない」
返って来る答えなど分かっている。それは教えられているから知っている。それに、このような相手が自身の目的を捨てるなど到底ありえない。
「もう少しなんや……ウチの計画は幾らガキ共でも邪魔はさせへん!」
天ヶ崎千草は荒ぶ声を発し、人と中の二本指で懐から札を挟む。そのまま札をピッと近衛の胸元に払い飛ばした。
呪符使い故にそれか? 仁からはアチラ側が近衛に怪我一つ負わせず、苦しい思いもさせるつもりはないと聞いているが、これだけ件が変化しているなら最悪も想定し防がねばならない。「チャチャゼロ、アレは?」
「召喚符ダナ。魔力吸ワレルグライデ嬢チャンニ危険ハネェヨ」
後ろへと小声で渡す。答えはすぐに返ってきた。
この人形が居てくれたコトにつくづく感謝する。この世界に精通する者が居なければ判断を確実に誤っている所だ。あの白髪の少年が居る今は、その判断ミス一つが大きな損失を生みかねない。――オン・キリキリ・ヴァジャラ・ウーンハッタ
天ヶ崎の口から発せられる独特な言語。
ヴァジャラは金剛杵か? ならばこれは音も踏まえて恐らくは梵語だろう。しかし、この言語に多少知識はあっても生憎と俺の範疇ではない。ぶつ切りの単語を理解できようとも一纏めで意味があるのならば余計に理解できず混乱するだけ。たださっきのチャチャゼロの言葉からして、天ヶ崎千草が近衛の魔力を使って呪法を行使しようとしている。何せ近衛の表情と身悶える仕草でそれが分かるのだから。
苦しがっているのか。チャチャゼロは危険はないとは言ったが、ならばアレはどう取れるだろうか。「面倒ニナルカラヤメトケ。アレハコッチノ契約執行ト大差ネェヨ」
「…………」
投影の引き金を収める。此処までチャチャゼロが、自分から突っかかってくるなら止めるべきだ。
変化はすぐに起きた。天ヶ崎千草の360度に広がる人の高さ程の光の柱。それは岩の上にも水面にも地形に関係なく立ち昇っていた。
立ち昇るは光の柱、その水面部分とぶつかる所の中央に浮かぶ梵字。「ちょ、ちょっと何よコレ!?」
騒ぎ立てる神楽坂。浮かぶ梵字の後の更なる変化が神楽坂をそうさせた。
立ち昇る光の柱から、生えるように幾多もの種の鬼、妖怪が現れ始めた。普通とは異なる姿形の異形。コレを見れば神楽坂が動揺するコト事態は間違っていはいない。「お、多すぎませんか……」
次々と生えるように現れる鬼に対して想いを口に出すネギ。それが止まるまでは十秒と少しであった。現れた数にして軽く100は越える。
「邪魔は絶対にさせへん。コレでウチらの勝ち、アンタらは鬼どもと遊んでればええ。ガキやからお情けで殺さんようには言うとくけどな」
天ヶ崎千草は勝ち誇った表情でコチラを見下ろす。数の差、力の差、そして近衛という切り札で圧倒していると慢心している。
「いえ、あの男を止めるにはコレでは足りません」
その側で冷静に告げる一人の少年が居た。
「コレの2倍……いえ、3倍は用意して下さい。お姫様の魔力なら、それでも溢れるぐらい余裕がある筈です」
透き通る程、冷静に。俺を見下ろして白髪の少年は天ヶ崎千草へと意見を仰ぐ。
少年には感情が皆無といっていいぐらいに無く、言うなれば読み難い存在であった。しかし、今この少年は俺に対してのみ危険であると、絶対的な敵として言葉で表現した。
俺が動けば確実に少年も動く。手の内にあるように理解した。
少年がどう動くかまでは分からない。力の底も不明。それに少年の力に対し不気味に感ずる部分もある。そのためにコレを知った今、少年が近衛と至近で居る内の間、俺だけは無闇に動けなくなってしまった。「……兄さん随分とウチの新入りに嫌われておりますな」
天ヶ崎千草が二枚目の札を近衛の胸元へと投げる。
「念には念を。恨むなら嫌われるコトをしなはった自分を恨み」
天ヶ崎千草の言葉に含むのは俺に対する脅威だろうか。少年の執拗なまでに俺へと対する偏見の眼。天ヶ崎の感情をそうさせるのは必然なのかも知れない。
――オン・キリキリ・ヴァジャラ・ウーンハッタ
全く同じ二度目の真言。その中で決定的に違うのは出現する鬼・妖怪の数だった。
「おいおい、このか姉さんの魔力でこれは……冗談じゃないぜ……」
白髪の少年の言う通り、数にすると最初に現れた鬼の類の三倍になろうか。
初めに現れた100を超える鬼共がざわめく。その話す言語は、この世界、この国と同じもので簡単に聞き取れる。話す内容は、幾ら何でも子ども相手に呼び過ぎだという所。更にコレに至る原因である俺に対しての疑問の声がつらつらと聴こえてきていた。「せいぜい気張りなはれ」
天ヶ崎が乗っていた岩を足で跳ね、大鬼、近衛を抱えた大猿、そして白髪の少年と一緒に戦線を離脱してゆく。
俺は黙って、それを見上げるしかなかった。「坊主、風障壁ダ。時間稼ゲ」
チャチャゼロの声。
「ッ! ラス・テル・マ・スキル・マギステル――‘逆巻け、春の嵐。我らに風の加護を’!」
人形の声に呼応するように、早い口調で此処の世界の魔法を詠唱する声が聴こえてくる。
「‘風花旋風風障壁’」
最後に、一際強いラテンの言葉でネギの魔法が完成した。
「風の障壁を張りました! ただし2、3分しか持ちません!」
外の何百に渡る鬼とは隔離された竜巻の中に俺達は居た。外の状況を視認出来ないが、鬼が一匹も風の壁から抜けてくる様子がないため、少なくともネギの言った時間は稼げる。
「何よ、あの鬼なんだか妖怪なんだかの数は!?」
「お、落ち着いて下さいアスナさん」
神楽坂が珍しく慌てるのも無理はない。彼女もネギと同じように実戦経験もなく、元は一般人だと聞く。二人が今まで戦ってきた敵はエヴァ、天ヶ崎、小太郎のみ。中身はどれも勝利で納まっていた。
そこで問題が次に挙げるコレだ。どの相手も見た目は一般人、もしくは愛らしいヌイグルミのようなモノ。ところが今回の敵は、見た目からして恐怖を与えてくる敵である。その数が尋常ではないのだから、いくら気が強い神楽坂といえど動揺もする。そして、ネギと綾瀬も例外ではない。一見、綾瀬は落ち着いているようにも見えるが、チャチャゼロを抱きしめる腕が強くなって、恐れを必死に堪えているのが見えていた。「士郎、電話掛ケロヤ」
綾瀬に抱かれているチャチャゼロが唸る。俺はその指示通りに、懐から携帯電話を取り出して決まった男へと掛ける。
『士郎か……雑音酷ぇな』
相手は、すぐに応答し電話越しに声を張り上げた。
「ネギの風の魔法だ。今はスピーカーモードにしてるから、風の音を拾ってるんだろ」
『成程な』
「仁の旦那、アンタ一体何処に――」
『聞きたいのはそれか? まずは優先事項があるだろう』
「コチラの状況としては、天ヶ崎千草が400を超える鬼を召喚し、近衛を連れて尚も逃走。綾瀬は連れたままで、後長くとも2分少しでネギの風障壁が消えて鬼との戦闘になる」
仁に必要なのは現在の状況。
早く正確に、情報を仁へ渡す。『400超……どうやら状況は思わしくないようだ。目的はお前らの確実な足止めって所か。さて、わざわざ大群呼んで足止めがしたい敵にとってされて欲しくないコトといえば何だと思う?』
時間がないと言ったのだが、もったいぶるように謎かけを始める電話の相手。
「敵の包囲陣を抜けるコトでしょう。足止めしたいのに、足止め出来なければ苛立つものです」
だが、すぐに綾瀬が追われる時間を引き離すように答えた
『さすが夕映、色んな本を読んでる奴は優秀だ。できればコッチ側に以前から関わってるアスナか、ネギに答えて貰いたかったんだけどな』
「う……」
「あう、すいません……」
二人ともバツの悪い顔をするが、コレは質問を投げかけた仁が悪い。それにすぐに答えられた綾瀬が、ある意味異常なだけだ。普通ならば答えられなくて当然の問題だったのだから。
「ですが、あの大群で抜けるコトは可能でしょうか。あくまで今のは理想に過ぎませんし、例え抜けたとしてもあれ程の軍勢に追われれば意味がないようにも思えます……」
『そこまで考えてるとは。夕映はホント優秀だな』
電話越しに感嘆の声が上がる。
この評価は俺も同じく思うモノ。恐れながらも思考は冷静の綾瀬。度胸があると云えばピタリと当て嵌まるだろうか。どう言い表わせばいいか難しい所だ。『だが残念なのは、まだ知ってる事柄が普通の枠でしかないというコト。答えはもう今の言葉の中にある』
「……そうだ、追われなければいいんだ。兄貴の杖なら追われる心配はない!」
今度はネギの肩に乗っているカモから策の提案が出てくる。
いつものふざけた様子もなく真面目にオコジョも考えている。「ネギ、速度はどのくらい出るんだ?」
「えっと、最高速度で64ノット、平均速度だと最低でも40ノットは出せるかと」
周囲の森林地から上空、障害物もない空を翔けるスピードでコレならば十分過ぎる速さだろう。
此処に居るのが俺ではなく、桜咲だった場合の案も近衛を助け出す為には、ネギが追い掛けるという策しかあるまい。「え、64? 40……? ノットって……?」
「時速ダト64ノットデ約118.5km、40ノットデ約74kmダ、バカレッド」
「うっ、それなら分かるけど……でも、ノットって中学でも聞いたコトない言葉だし……」
『そもそも日本じゃ船好きでもない限り一般的に使わないから知らなくて当然だ。それより士郎、鬼共の引き付けはどちらにせよ必要。お前一人でもその数を問題なく相手出来るか?』
「元よりそのつもりだ。それ以外の道がないだろう」
あの鬼の数は完全に想定外だ。それは先を見通している仁にとっても。
アレは白髪の少年が俺の為だけに召喚させたモノ。故に対抗するのは俺でなければならない。「ちょっと待ってよ! 仮にネギがこのかを追い掛けて衛宮さんが残るとしても、私と夕映ちゃんはどう――」
『黙って屋敷にでも帰ってろ。その数だとお前じゃどうしようもねぇし、ネギの杖に乗っても邪魔なだけだ。帰り道もチャチャゼロが居るなら少しは鬼が追っ掛けてきても大丈夫だろう』
「でも! いくら何でもあの数に衛宮さん一人じゃ……!」
一対四百超。人間対異形のモノ。一人で全てを相手にしろと。
神楽坂にしてみれば、客が店でありもしないメニューを出せといった無茶苦茶な注文を傍で聞いている訳だ。心配してくれるのも無理はない。「――私も一緒に残るっ! 私のハリセンならアレも簡単に倒せるかも知れないし……」
だが、神楽坂が続けて言うのがコレだ。
分かっていた。彼女は優しい。いや、3-Aのクラスは皆そうなんだ。最初から人を見捨て、自分だけが逃げるという考えは持ち合わせていない。
あの男の言葉を借りれば「馬鹿ばかりの根っからのお人好し連中」だ。さて、その範囲は何処まで届こうか。「いや、いい案だぜ姐さん。召喚された化け物は姐さんのハリセンだとハタくだけで還せる。でも、攻撃面は一撃必殺で最強でも防御面は……兄貴、姐さんへの魔力供給を防御とかの最低限に節約して何分に伸ばせると思う?」
「……術式が難しいけど、5分……10分……ううん、15分なら行けると思う」
「短いがいつもの10倍だしな。じゃあそれで行こうぜ。姐さんの心配も減るし、士郎の旦那の負担も減る。魔力供給が切れたら仁の旦那の言うとおりに逃げればいい、どうよ!」
「仁」
訊く。総轄するのは、電話越しの相手。
『オレだとアスナみたいなじゃじゃ馬は制御できん。どうしても逃がしたいなら士郎が連れてくしかないがそれだと本末転倒だ』
返ってくる答えは、そうだろうと予測したもの。
俺でも神楽坂を制御するのは不可能だ。彼女は自身の意志を決して曲げない。『アスナはそれで行くとしても夕映はどうする。一人で帰るか?』
「残ッテモイインジャネェノ。士郎ガ守レバ済ム事。一人デ帰ラセルヨリハ安全ダシ全部解決シテクレルシナ」
「簡単に言ってくれるな」
この人形はいつもこうだ。ふざけ混じりに言葉を連ねてくる。それでも指し示した案は、尤も安全なモノだろう。それを真面目に提案したかどうかまでは分からない。コイツはそんな人形なんだからな。
「ドウダデコッパチ、残ルカ?」
「……私は構わないです」
「そうか、ならば守ろう。この剣の身を賭して」
普通ならば一刻も早く、異形の中から去りたいものだ。
だが綾瀬に迷いはない。それどころか自分が足手纏いにしかならない為に困っているとでも言いたそうだ。『決まりだな。その作戦だとネギの木乃香奪取が最重要だ』
「はい、このかさんは何が何でも僕が取り返します!」
少年の瞳に宿るのは、必ずやり遂げるという意志。
『その意気なら頼りになる。さて、士郎には話したいコトあるがそろそろ時間か』
与えられた時間は間もなく過ぎる。
『‘――――――――’。アスナ、士郎の邪魔しないように頑張れよ』
最後に一言。電話越しの相手が言葉を置いて、相手から通話が切れた。
「え? つくんふと? わっかすたむ? な、なに?」
神楽坂が今しがた仁の放った言葉に疑問を抱いている。それはチャチャゼロと俺以外の者も例外ではなかった。
聞き取れなかったと思われる三つの単語の間に知っている言葉と似た言葉が聴こえていたのだろうが、皆が分からないのは無理もない。‘Zukunft und Wachstum’
仁が発したのはドイツ語。この言語は仁ではなく、アイツがよく使っていた言語だ。わざわざ、コレで発したのは俺への当てつけだろうか。まあ、洒落は利いていて仁らしいか。
言葉の意味は日本語で訳せば。‘未来と成長’
ネギに対して、いや、“一つの物語”に対して想う、仁の最大の目的。
修学旅行初日に旅館の屋根の上で、最後に仁が話した大元である理由。
それは他人のためであり、自分のためでもある、子ども染みた勝手で我儘な目的。迷うコトはある。だが結果的についてきている自分が此処に居る。
ならば信頼して進むしかない。あの青髪の男と赤髪の少年を信じて。
――6巻 46、47時間目――
修正日
2011/3/4
2011/3/16士郎は土足で正座したり、屋敷内を歩きまわってます。何故なら脱いでる描写が風呂以外では、な……い。一応靴と服は別々設定ですが、脱ぎそうにないですし。後で36話に付け加えとくかもです。ちゃんと靴裏を拭いたと。それとも風呂前までは靴脱いでて、風呂後から靴履いて歩きまわってるにすべきか……。考えときます。
この白髪の子、この時は水利用しまくりな子だったのが疑問。周囲に水多かったから利用しやすかったのかな。原作の方で最近になってから、この子の細かい設定追加された可能性もありますが。水妖陣ッ。
袈裟斬りは肩口から斜めに振り降ろして腹へと斬る感じ。逆袈裟はその反対だと思う。肩が主なポイントっぽいです。戦闘物がある物語だとよく使われますよね。武道が好きでないと分からない単語かもです。この単語を初めて見た時、自分はまったく分かんなかったです。
原作の方で千草が木乃香使って鬼を召喚する時は、湖の上に降り立ってたけど変えました。
なるべく平である水面の方が召喚し易いというか必要なのか、地形の高低差が某タクティクスのように関係あるのか、と思ってたけど原作でも岩の上?に出てる妖怪さん居ますし、千草が威嚇したいだけの行為っぽい気もしたので、この話では降りてる描写なしで、こんな形に。漫画的には演出的な意味であっちのがカッコイイですしね。しかし、おば……お姉さんのカッコは若々しいッ。「ラス・テル・マ・スキル・マギステル――‘
逆巻け、春の嵐 。我らに風の加護を ’』!」
「‘風花旋風風障壁 ’」
ネギま!の魔法詠唱全般は詠唱部分はルビ振ると、ルビの文字数が多いために文字間が開いたり、なんかよくわかんないけど稀に改行されて見える時があったりと散々なので振るのやめてます。ドイツ語の能力は可です。違ってたら教えてください。