22 ひさんなじょうきょうとプレゼント

 

 

「仁、日曜に少し用が出来たから別荘は遅めの時間でもいいか?」

 20時過ぎにもなり、二人と一体の食卓で成す夕食も終わった所で、テーブルの向かい側に座ってる士郎がオレへと願い出るように話す。

「修学旅行は火曜だし余裕もある。オレは別に構いはしねぇよ。問題はエヴァの家に行くのが遅すぎるとエヴァの小言が気になるってぐらいで……まぁ、これも構わん」

 オレらが別荘に入った後に、黙って別荘へ後から入って来る金髪の少女とその従者。
実戦形式の鍛錬で士郎からいいのをもらう度に、金髪娘が茶々丸へとオレの嫌味でも言ってるような姿が思い浮かぶ。

「テメェ等ハ御主人ノ家ヲ半自宅化ニシテヤガルシナ。御主人モコンナ阿呆共ニ寄生サレテ可哀想ニ」

「お前はそんなオレ達といつも一緒に居るだろう」

 テーブルの上で笑うチャチャゼロに自分の今居る現状ってのを教えてやるようにデコを突く。

「ところで今日、楓からお前とカモが一緒に居たって聞いたんだが何してたんだ?」

 本日、面倒事をオレにくれた高身長の二人の内の一人の話を思い返し、話の中に出てきていた本人へと尋ねた。

「俺がカモと……と言うとあの時か」

 士郎の眉が動く。それは士郎の頭の中にある出来事が、士郎自身にとって良いものではないと示していた。

「カモの奴が近衛をたぶらかせて仮契約しようとしてな。長瀬が俺を見たっていうのは、トイレでカモから訳を聞いた後の俺だろう」

 士郎はそう言うと湯飲みを口元で傾かせ茶を飲み干す。

「つまり、爺さんの話が終わった後に木乃香に誘われて、アスナとネギと一緒に修学旅行の買い物に行ってたって訳か」

「……鋭いな。全く持ってその通りだ」

 コトンとテーブルとぶつかって湯飲みが小さな音を鳴らす。

「お前が付き合う相手なんて限られてるから、これぐらい分かって当然だ。日曜のも木乃香とお出掛けするってか。モテる男は辛いねぇ」

 こちらも喋り終わってから、自分の湯飲みを空にする。
 目の前の男は図星なのか、最後の言葉が気に食わなかったのかオレの顔をじっ、と見て黙ったまま。この場合は両方か。相変わらず嘘というか、隠し事が出来ない奴だ。

「その相手から口止めでもされてんなら言わんでいい。生死に関わる事でもねぇだろうし」

 別段、士郎から聞かなくても、ほんわか少女が何をしたいか分かってる。

「しっかし、オレは口が軽いとでも見られてんのかね。親友を驚かせるために秘密にしときたいってのは分かるが、少し悲しいぜ。口止めしたのがお嬢様の方でも先生の方でもな」

 喋れば喋る程に口元が寂しくなってくるので、テーブルから離れてお茶請を探しつつ喋る。
 在庫は煎餅にポテチ辺りが残ってた気がするが……うむ、記憶通り。食うのはポテチかなー。食後間もなくであるがオヤツは別腹である。みんなの常識だ。

「……仁に監視されてるんじゃないかと不安になる」

 苦笑いを浮かべて、台所に居るオレへと目をやってくるこの男。仲間外れにしてるコイツにポテチをやる気はない。

「今のは偶然だ。知ってる情報を照らし合わせただけのな。まぁ、この話は終い。これ以上すると折角のお約束をお前が破っちまいそうだ」

「武士ノ情ケカ、ヨカッタナ士郎」

「そうしてくれるとありがたい」

 冷蔵庫から飲み物を取り出して話を切り上げる。
 士郎相手に聞き出すのは気兼ねはしないが、木乃香となると別。対応する相手には、それぞれに相応しい対応をするさ。
 あー、でも真名と楓は今日の出来事で丁寧な対応ランクは格段に下がったぜコンニャロウ。甘味物を見る度にあの二人の顔が思い浮かんできそうだ。

「さて、日曜は士郎に用事があるからいいとして、残りの日は別荘で鍛えるぜ。という訳で明日の朝は4時半起き、エヴァの別荘にゴーな」

 菓子袋の開封口を折りたたんで輪ゴムで止めて、元あった場所へと戻す。食べ残っても湿気らないようにする常套な手段である。

「随分とやる気だな」

「そうもなる。修学旅行だしさ」

 此処が物語の中枢の起点となる。それはネギにしても、オレにしても。出来るコトなら、オレは外からずっと見てたいんだが、そうともいかんヤツが“一人”混じってるのが問題だ。そいつがオレ達を気にしてこないのが一番。しかし、そんな希望的観測だけじゃ、いざとなった時どうしようもねぇ。今はやれるだけやるさ。

「という訳で先に風呂入らしてもらおうか。そんで寝る」

「ああ、わかった」

 取りあえずは明日の早朝のために寝支度だ。

 

 

 

 

『結局来テンジャネェカ』

「オレは一言も行かんとは言ってねぇ」

 日付は4月20日の日曜日。場所は埼玉県麻帆良市とは変わって、東京都の原宿。生まれてこの方、こんな人混み溢れる街中に来るのは初めてのコトである。そう言っちまうと麻帆良も似たようなもんだが別次元の問題だ。

『ソレヨリ視界ガ悪イ、ドウニカシロ』

「それ以上はどうにもならん。我慢してくれ」

 チャチャゼロはショルダーバッグに押し込んで、バッグに開けた穴から外の景色を見せている。頭に乗せてたら目立ち過ぎて行動しづらくなるための処置だ。
 こうなると会話も必然的に困難になるため、二日前に葉加瀬に無理言って頼み込み、昨日受け取った無線機で会話。小指程の大きさもない耳につける無線機で、受け取った時は元ある物を改造したって言っていた。それと急ごしらえな為、性能はそれ程良くないと。それでも、この恩はいつか埋め合わせしなくてはならない。

「いつもより警戒が緩いのが救いだ。まぁ、常日頃周囲に気を払っていたら滅入るだろうけどさ」

 人混みの中でも背が決して高いとは言えない赤髪の男を見ながら言う。

『警戒範囲読メルヨウニナッタノカ』

「士郎のだけは何となくな」

 毎日のように手合わせしているせいか、あの男のコトはこの世界の他の者の比べれば格別に分かる。しかし、こんな武芸者のような技能を持つコトになるとは、嬉しくて堪らないねぇ。限定的過ぎるけどさ。

「何であの三人で買い物してるのかなー」

「仁に聞いた方が早いんじゃない?」

「どうなのよ馬鹿仁?」

「馬鹿言うな」

 話しをするのは、順に椎名、円、美砂。オレのミスで士郎を追跡してる時に見つかっちまった。ついてくんな言ってもついてくるので、仕方なく一緒に居させている。それと、その三人の手にあるクレープという甘味系の物体を見てオレの機嫌が下方気味だ。

「どうなの、さっきー?」

「一つ言うならそのあだ名が気になる」

 チアリーディング部のトリオの中の一人、そんで3-Aの中でも木乃香と並ぶ天然系の椎名。
 こんな呼び名は、元いた世界の仲のいい友人の誰一人からも呼ばれたことない。むしろ男がこう呼んできたら間違いなくグーでブッ飛ばしてただろう……背中がかゆくなってきた。

「良いあだ名だと思うんだけどなー」

『サッキー早ク答エテヤレヨ』

「チャチャゼロが言うと寒気しか走らんぜ」

 チャチャゼロの声はトリオには聞こえないが、会った時にコイツの説明はしてるので、オレが幽霊にでも話かけてるように見えるだろうけど問題はない。

「んで、さっきの質問は、オレにも内緒でネギと木乃香と一緒に士郎が此処に居るってコトだ。後はお好きなように御想像を」

 言い終えると三人が三人、それぞれ妄想を膨らまして会話をし始める。あーだこーだと話の内容を聞いてると、こんな話が学校で広まれば、あの三人の立場もなくなっちまいそうだ。特に士郎が。まぁ、そうなる前に手は打ってやる。

『テメェ、ドッカラ入ッテキヤガッタ。只デサエ狭ェンダカラ近ヅクナ」

『まぁまぁ、いいじゃねぇかい』

 イヤホンからチャチャゼロとは別の声が混じってきた。おっさん風な喋り方の白い獣の声。そういえば、この白い獣は飼い主の先生と一緒に居るのを見てなかった。

「カモ、鍋にされてぇのか」

 後ろの三人には聞こえないように、鞄の中の新たな侵入者に話かける。

『いやいや、もちろん仁の旦那のお手伝いでさぁ! それに仁の旦那も兄貴が心配できたんだろう。それなら俺っちが居ると百人力になるに違いねぇ!』

 自信に満ち溢れた言動でオレを説得しようとカモが頑張ってやがる。

「まぁいい。邪魔はするな、目立つのはやめろ、この二つだけは守れ。チャチャゼロはうっさいの増えるけど我慢してくれ」

『連れてってもらえるならもちろんでさぁ!』

『チッ、シャアネェナァ』

 従順で何より。チャチャゼロも素直に従ってくれてありがたい限りだ。いや、カモは追い返そうともコッソリと尾いてくるだろうし、それを踏まえてチャチャゼロも承諾してくれたのかね。

『しっかし、兄貴は俺っちに言わねぇで行っちまうとは……』

『信頼サレテネェンダロ』

「カモだしな。それより、よく知らなかったのに麻帆良から東京まで来れたな」

『それは兄貴と俺っちは信頼関係はバッチリだから離れていても分かるんだよ、仁の旦那!』

 チャチャゼロの言葉に反論するようにカモが主張する。どちらの主張が正しいのかは本人に問いださないと分からないだろう。今度機会があれば、オレと1体と1匹で直接尋ねてみようか。恐らく、ネギは困った顔をして、アスナにでも泣きついてしまうんだろうが。というより、オレがそうさせる質問にしちまう。

「衛宮って過去に彼女いたって話だけど、どうなの?」

 後ろの三人の妄想話が終了したようで、早速と美砂がオレへと質問を出してくる。

「知らんね。顔も知らなければ会ったコトもねぇ」

 話す言葉に真実と嘘が半々なのはいつものコトだ。日が経つに連れて言うのも楽になってきた。

『テメェハ女居タコトネェンダモンナ、ケケケ』

『そういうコトは本人に言っちゃ傷つくっすよ』

 人が真面目に今後を思って誤魔化しに入ってるのに、耳から聞こえてくるのは悲しい言葉ばかりだぜ。

「アンタって衛宮と付き合い長いんじゃないの?」

「お前達よりは長いが、幼馴染って訳じゃない」

 ふーん、と言って納得した素振りを美砂は見せる。
 オレがアイツをこの目で見て会ったのは、この世界に来てから。そして次の日になれば現3-Aに会い、出会った差は経ったの一日のみ。共に過ごした時間なら、同じ寮室に加え別荘の時間もあるから、付き合いが断然と長いとは言える。

「アンタは彼女居なさそうよね。っていうか居ないって言ってたっけ」

「ほぅ……お前もその話題を出すか」

 続けて美砂が話すのは、さっきチャチャゼロとカモが鞄の中でオレを馬鹿にしやがった内容だ。美砂の後ろに居る二人を見れば、その内容はマズイって顔に出てやがる。
 なに? オレってそんなに女子に人気ないんですか?

『い、いや、仁の旦那は魅力的だと俺っちは思ってるよ……!』

「口に出てたか?」

『男ノ切ネェ言葉ガナ』

『い、言っちゃダメだぜそりゃぁ……』

 おやおや、カモの最後の言葉が小さいぞ。そんなんじゃあ、人と会話に対する礼儀は0点だなぁ。

「アンタも大人になれば良い人が見つかるよ。たぶん、うん」

 オレの肩にポンと美砂の手が乗る。

「くっ、畜生ッ……! いいかっ、士郎は鋭いから尾けんなら近寄りすぎんなよッ!」

 美砂の慰めの肩叩きの腕を振り払って、この場を走って去った。

 

 

 

 

「こんなに言葉で貶されたのは生まれて初めてだ」

 チアガールズ三人の下を走り去り、人気がない場所で一息つく。

『全部ガ全部、本当ナンダカラ仕方ネェダロ、受ケ入レロヨ』

「いやいや、仁の旦那は結構イケテルと思うんすけどね」

「慰めはいらん。点数稼ごうとしても無駄だ。後、勝手に人の肩に乗んな」

 さっき美砂に叩かれた肩に、カモがひょいと軽快に乗ってきた。語りかける言葉も美砂のような感じだし、この微妙に立ち上るいらつきは何だ? カモだからか。

「よし、分かった。テメェがそう言うなら、オコジョ妖精の特技でオレのクラスの好感度を言え」

「えっ……」

 オコジョ妖精特有の魔法とも一種で、人の好意を測れる能力がある。勝手に調べられる相手からすれば、プライベートの侵害に値する能力と言えよう。
 というかオレは何を言ってるんだ。自棄になってるんのか……そうとしか思えん。これじゃあチャチャゼロがいっつもオレに言ってる「阿呆」が当て嵌まっちまうじゃねぇか。

『ヤメトケヨ、死ヌゼ。ケケケ』

 この鞄の中の人形は好機と知れば、人を散々と言葉でいたぶりやがって。

「仁の旦那は、好かれてるのは本当でさぁ! それは兄貴や士郎の旦那とも同じくらいに!」

「…………」

 カモの目を見る。どうやら、嘘は言ってなさそうだ。口に出した言葉も真っ直ぐで、いつもの誤魔化そうという素振りもない。
 何か最近は、人の観察する目も成長してきた気がする。コイツは人じゃねぇけど。

「なるほど、オレに対するのは友情って訳か」

「う……そ、そうだけど、友情も立派な好意だぜ、仁の旦那」

 鎌をかければ、すんなりと通った。今度は言葉が真だと分かり易いコトこの上ない。
 カモが言ったように友情は大事なのは分かる。同時に、やはり申し訳ない気分だ。自分に対する好意を陰で聞いちまう行為ってのは反則すぎる。自棄になるのは良くないって教訓だ。反省しよう。

「お前は引っかかりやすいタイプだな。こっちの世界なら、それは時に生死を分ける気をつけろ」

「……すまねぇ」

『何、カッコツケテンダ』

「今の気分はそういう風にしないとどうしようもねぇんだ」

 ふっ、とにかく切ない。色んな意味で心が切ないぜ。

「……『ネギと士郎と同じように』ってお前言ったよな。ってコトは士郎は人から恋愛対象として見られてるのか?」

 ネギは恋愛対象として見られてるのは分かっている。トップとしてのどか、次点で委員長、更にその次でまき絵だろう。後者二人は現時点で恋人としてネギを見たいのかは、オレの目からは直接判断し難いが、のどかからは手に取るように、ネギを恋愛対象として見てるのが分かる。この三人以外でも、ちらほらとそんな目で見てるのも居るだろう。

 これと同じように士郎が見られてるのなら、ネギという主役が広げる物語の“仮契約”という場面で支障が出る可能性がある。万が一それのせいで、カモへさっき促したように、生死を分ける、という場面が発生するかも知れない。
 いざとなれば、あのクラスにとって、ネギ相手の‘仮契約の儀式‘なんて小さきコトになりそうなもんだが、聞いておいた方が良い問題には違いない。

「特定の人物は指さんでいい。そこまで干渉はせん」

「……俺っちの目で見れば、何人かは兄貴より士郎の旦那を……」

 何人、つまり複数は居るってこった。少なくとも2、それと言い方からして、大なり小なりネギより高い恋愛対象として見てる人物が居るってコト。
 しかし何故に士郎はおなごに人気が出るんだ? 不可思議なフェロモンでも出してんのかよ。それ言ったらネギもそうなるんだけどさ。

「まぁ、カッコいいのは認める。対峙してる時は、正直そう思わざるを得んし」

 仕合で相手してもらってる時の士郎は特に認めるしかない。コチラとしても認めれる男でなければ、オレだって懸命にあんな痛ぇ訓練なんかやらねぇだろうしさ。こうは言ってもクラスの中で士郎が戦う姿を知ってるのはエヴァと茶々丸ぐらいだけど。

『テメェハ、ガキニモ友人ニモ男トシテ勝テテネェケドナ」

「戻って心を抉るな」

「仁の旦那もいつかは良い人が――」

「それはさっき聞いた。煮るぞ」

 肩に乗ってた白い獣を掴んで鞄へと放り込む。

「とりあえず、買い物しとっか」

 尾行とは別であるもう一つの目的、ネギの保護者様へのプレゼント作戦へと移るコトにした

 

 

 

 

「士郎くん、どうしたん?」

「……いや、何でもない」

 仁の叫び声が聞こえた気がするが、辺りにその男の姿は見当たらない。例え居たとしても、いつものようにチャチャゼロを頭に乗せてなければ、この人混みの中では見分けれそうにないだろうが。

「しかし、神楽坂のプレゼントというのは……選ぶのが難しいな」

 明日は4月21日。神楽坂の誕生日とのコトで、ネギに誘われて祝日でもある今日、プレゼントのために買い物に来ている。
 神楽坂の親友である近衛と、同じ年代の男である俺の助言が欲しいとネギに言われてコレだ。俺より仁の方が適任ではないかと言ったのだが三人で話合った結果、アイツは面白半分でやる可能性がある、との結論が出たので却下となった。
 プレゼントするなら、その子の好きなもの、気に入るものを贈るというのが一般的だろう。とは言ったものの神楽坂の趣向ってのが、まだ付き合い始めて日が浅い上に、俺だとな……

「士郎さんは誰かの誕生日にプレゼントしたコトはないんですか?」

 ネギが選んでいた商品をそっと戻して、俺へ向けて何気なく話してきた。

「女性にってコトなら、一つ下の後輩と……後は姉みたいな人と妹みたいな子かな」

 最初の一人は毎日のように俺の家へと通って懸命に家事をしてくれる健気な人。その人のお陰で二人目に上げた人を抑えるのも楽になった。あの虎の狂暴具合は俺ではお手上げだったからな。それでも虎へ毎年コレを贈る日は、俺が嗜めてもいくらか大人しくなるのが救いだ。

 そして三人目の子は、前の二人と違い誕生日プレゼントを贈ったのは一度だけ。一度だけというよりは一度しかその日を一緒に迎えれなかった。前の二人も一緒に、この年がプレゼントを贈った最後の年。それでもあの日のあいつの笑顔は忘れられそうにない程に喜んでいたのは覚えている。

「……後はプレゼントってよりは、世話してくれたお礼って意味で同級生の人に渡したのが一度あった」

 渡した時の第一声は「何コレ」だったっけ。「お前の誕生日だ」と言えば、アイツは自分の誕生日も忘れてたようで何処か抜けてた。受け取った後は、顔色変えずに皮肉の言葉を俺へと返してきたのはアイツらしいけどさ。

「その方達は士郎さんにとっては――」

「家族みたいな人達、いや家族ってちゃんと言った方がいいのかな。あと今言った人とは別に、もう一人、俺の師匠みたいな人だ」

 約10も年を遡った日のコト。日常、異常、日常と移り変わった日のコトだ。
 別れる本の少し前に送ったプレゼント。誕生日ではないが、俺からそいつの為に贈った。そいつに渡したプレゼントは持ち帰っては貰えなかったが仕方がない。それは到底不可能なコトなのだから。
 そして、そいつを指す言葉を「師匠」としたのは、こんな日に勘の鋭い二人に余計な心配を掛けないため。

「その方々は何処らへんにお住まいなんでしょうか?」

「あー……と、此処からじゃ少し遠い。機会があればきっと会えるさ」

「そうなんですか。僕も士郎さんの御家族には挨拶しておきたいので……少し残念ですが、その時になれば宜しくお願いします」

 丁寧な言葉でネギは返す。この子は俺が話した人達とは会えると思っている。だが、それを叶えようとするのは至極難解なコト。俺を送ったアイツだけなら分からないが、俺からはあの人達をネギへと会わす術を知らない。

「士郎くんの家族なら、きっと良い人達やろね」

「俺にはもったいないくらいかな」

「んもー、そやって士郎くんは自分悪く言うんダメやえ」

「む、すまん」

 近衛の顔が少し怖くて、気圧されそうになる。近衛にとっては暴言の部類だったのようで、注意して言葉を選ばないとだ。

「とりあえず話を初めに戻して神楽坂のプレゼントを考えないと。俺の浅い経験を生かせればいいんだけどな」

 

 

 

 

「お前らまだ張ってたのか」

 アスナに贈る買い物も終え、寄り道をした後に士郎達を探しまわってたら、まだ物陰に隠れて標的を尾けてるチアガールズ三人組を発見した。
 あれから二時間は経ってるというのに、こいつらはよく飽きもせんで探偵ごっこをしてるもんだ。

「そりゃあこんな楽しい場面なんて、いくらでも遭遇できる訳じゃないし」

 見逃す方が愚かであると美砂は息巻いて言う。円も椎名も楽しそうであるから、それでいいんだろうけどさ。

「それで、誰かと連絡とったか?」

「ん? 連絡って言ったらアスナにね。士郎って言ったらアンタ、このかって言ったらアスナに聞けばいいもの」

「そーか」

 美砂が返してきたってコトは、アスナと連絡とったのもコイツか。美砂とアスナは旧友で、仲も良い二人ってコトだし。連絡とったってコトでオレが困るコトは何もないけどさ。

「尾行を始めて三時間、進展はどうでしょうか、解説の柿崎さん」

 改めてノリノリの美砂に、調子を合わせるように問いかける。

「衛宮がネギ君をダシにしてこのかをゲット説。またその逆に、このかがネギ君をダシにして衛宮をゲット説。またまたネギ君が……ってのもあるけど一番目が有力って所です」

「はい、ありがとうございました、解説の柿崎さん」

『ホント馬鹿バカリナクラスダ』

『いやいや、ノリってものは大切なコトなんだぜい』

 このぐらいの年頃の女子は色恋話には、どうしようもないぐらいに力を入れる。外からそれを見てる分には確かに面白いけどさ。
 さて、美砂がノリノリに言ったのは全部外れで、正解はアスナへ明日の誕生日プレゼントを買いに三人が試行錯誤してるってのだが。修学旅行の一日前が誕生日ってのもアスナも報われん。舞い上がってる時期になるから、木乃香は別として、友人であるこの三人組にも忘れられちまってるようだしさ。他にも夏休み中に誕生日の奴とかも可哀想だよなぁ。アレは忘れる。オレもよく忘れた。

 しかし、美砂の言った話は聞き捨てならない。士郎が木乃香にってのはなさそうだが、木乃香が士郎をってのはありそうだ。さすがに今日のはアスナを思ってのコトで、木乃香がネギを利用して士郎を誘ったってのはありえんけどさ。
 木乃香は正々堂々と正面から言うようなタイプ。でも、そんな素振りは見しちゃいねぇし、どうなんだろうか。さっきのカモの話もあるしなぁ。

 ……まぁ、今は様子見の選択肢を取るべきか。

「さて、帰るとしよう」

「え、アンタ見てかないの? こういうの好きそうなのに」

 店の商品を品定めしてる士郎達を指さして美砂は言う。

『帰ンノカヨ』

「これ以上面白くはならんと判断した。それに買いたいもんも買えたしな」

 白い不透明な買い物袋を三人に示す。中身はオレが欲しかったもんとアスナにプレゼントするもんだ。

 アスナに贈るもんは、アスナが受け取ってコレを見終わった後の反応が楽しみで仕方ない。反応の仕方によっては、ちゃんと全部見たか見てないかを分かる代物だ。
 今日は渡す準備で時間を食いそうだから、さっさと帰るに限る。

 溢れる人混みの中、学園都市へ帰る足を進めた。

 

 

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――4巻 27時間目――

2010/8/9 改訂
修正日
2011/3/15

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